ファンタスティック・ピンクの夢 <6>〜<10>
もちろん、周瑜の言葉半分は、適当な作り事だ。
だが、玄徳は、驚いて立ち上がった。
「な、なんですと、孔明が.....? ど、どうしたというのだろう.....今朝まではなにも言っていなかったのに.....」
孫権の手前もあるのだろう。臣下の不具合でいきなり中座するのもためらわれたようだ。
「ああ、劉備様。さしつかえなければ、わたくしが御様子を窺って参ります。殿が御自らお運びになられては、孔明殿も恐縮されることでしょう」
いやさ、そのようなこと、まったく、遠慮する孔明ではないのだが、呉の貴人の手前、この申し出は玄徳にとってありがたいものであった。
「さ、さようか.....申し訳ないな、公瑾殿。では、様子を見てきてもらえようか.....具合が悪いようなら、すぐに.....」
「ええ、ええ、わかっております。御安心めされよ」
おろおろと心配顔の玄徳を制して、周瑜はきびすを返した。礼を失いはしないが、多分に素っ気無く。
浅葱色を基調としたゆるやかな宮廷服の裾をさばき、周瑜は足早に広間から退出した。
「ありゃりゃりゃ〜、今度は公瑾が出ていっちまったよ、雲長の兄貴」
「え、どれどれ、あいつ、孔明殿の寝所に行くつもりなのかな」
「へぇ、周瑜殿って、チャレンジャーなんですね! かっこいい!」
もちろん、この三人の会話は周瑜公瑾の耳に入ることはなかった。ただ、劉備のみが、心ここにあらずと言った風情で、周瑜の歩み去った方角を、見つめていた。
周瑜は、なかなかどうして、立派な回廊をゆっくりと歩み、途中すれ違った女官に、孔明の私室を訊ねる。劉備の公用と告げずとも、美周郎とあだ名される男の問い掛けに、答えない女は居なかったろう。
ていよく諸葛亮の私室まで、案内を乞うと、すぐに女官を下がらせた。
「.....孔明殿」
とりあえず、小声で呼び、軽く扉を叩いてみる。だが、返事はない。
「孔明殿。おられるのであろう。入るぞ」
ほんの少し力を入れただけで、瀟洒な細工の扉は、ギィィと低い悲鳴を上げて開いた。
「孔明殿.....御気分はいかがか?」
あえて、己の名を口にせず、周瑜は声をかけた。
「.....公瑾殿?」
幾重にも絹を重ねた几帳の向こう側に、天幕を張った寝台がある。存外にも、孔明は寝台に伏していたようであった。
「あ、いや.....その.....」
ついつい口ごもる。無理もない。周瑜にしてみれば、口からの出任せで、体調の思わしくない孔明を見舞うと言ったのだが、まさか本当に寝台に横になっているとは思いも寄らなかったのだから。
「.....私の寝所に何用でございましょうか?」
抑揚のない声で訊ねてくる。気だるげに、長い黒髪をかき上げ、袍の乱れを直すと、トレードマークの白羽扇を両手で持ち直した。
「い、いや.....小耳に挟んだのだが.....そなたは劉備殿と孫氏の成婚に反対だとか.....呉の軍師として、孔明殿のお考えをお聞かせ願いたいと思ってな」
なんとか体制を建て直す周瑜。彼だとて、だてに軍師を名のっているわけではない。
「.....お茶でもお淹れいたしましょうかね」
色の薄い唇に、読み取れぬ微笑を浮かべる諸葛亮は、美周郎と呼ばれる周瑜公瑾の目から見ても、妖しいまでに艶めかしかった。
華美ではないが、十分に贅をこらした卓子を挟み、ふたりの美人が対峙する。こうしてみると、「美しい」という表現は、なんとも曖昧で不確かなものに感じられる。
「美」にも、様々な種類があるのだ。
典雅艶麗といった風な、周瑜。
妖美繊細な、諸葛亮。
そして、まず、口を開いたのは、妖美繊細な諸葛孔明であった。
「さぁ、どうぞ、公瑾殿。紅茶キノコです」
「ああ、かたじけない。ここの茶はいつ頂戴しても美味いな」
と、まぁ、恐ろしいが、あたりまえのやりとりがあり、一呼吸おくと、
「それで、お話とは.....?」
と、孔明が切りだしてきたのだ。
「.....孫権様は、孫氏殿と玄徳殿のご成婚を望んでおられる」
周瑜は、単刀直入に言ってのけた。
「.....そうですか」
と、孔明は素っ気無い。
「そなたはなにゆえ、この縁に反対されるのだ?」
むしろ言葉を重ねて、暈さぬほうがよいと判断したのだろう。周瑜の物言いは、あくまでも端的であった。
「殿御自身だとて、あまり気乗りでない御様子.....」
「劉備殿が?」
「さよう。殿から見れば、孫氏殿など、娘御のような御年。今さら、年若い妃をもらうのも、煩わしいのでしょう」
人事のように孔明は言った。
「そうであろうか。先だって、劉備殿と言葉を交わしたが、とても丁寧に孫氏殿の相手をされていたようにお見受けしたが」
その言葉に、孔明の切れ長の瞳が、すっと細められた。
「それはもちろんそうでございましょう。何と申しましても、孫尚香殿は、呉の君主殿のお妹君。我が殿は礼を重んじる方ゆえ.....」
「そなたが思っているほど、劉備殿はこの話を忌避されているわけではないのではないかな」
「.....公瑾殿。なにがおっしゃりたいのですか?」
「.....別に。私は呉の軍師だ。それゆえ、自国に有利な縁組みは推し進めたいと考えている」
「それが、此度のお話しであると?」
「孫権様が乗り気であられるのと、確かに貴国と縁を結んでおくのは、我が国にとってマイナスにはならぬ」
「私にどうせよと言うのです」
孔明は訊ねた。詩歌を詠むような声音である。
「劉備殿に、この話を受けてもらえるよう、説き伏せていただきたい」
周瑜の空けた茶器に、ふたたび孔明は茶を満たした。こまやかな気遣いを見せるにもかかわらず、孔明の答えは、ますますもって冷ややかなものであった。
「申し訳ございませんが、それはできません」
「だから、なぜと問うている。劉備殿が嫌でなければ、そなただとて、異を唱えるつもりはないのであろう。両国の友好を考えれば.....」
「縁戚関係を結ばねば、修好できぬというわけではないでしょう」
「.....孔明殿」
「孔明でけっこうですよ、公瑾殿」
「なぜ、そなたはそんなにも.....」
「嫌だからですよ」
何の躊躇もなく、きっぱりと孔明は言い切った。
「殿に妃を迎えるのが嫌なのですよ、わたくしは」
「.....は?」
と、間抜け面をさらした周瑜を誰が笑えるであろう。蜀の天才軍師、諸葛孔明の言葉とも思えない。
「あの.....どういう.....」
「どうもこうもございません。わたくしの大切な殿に、子どものような女人を、妃として迎えることなど、ごめんだと申し上げているのですよ」
物言いはあくまでも優美で、恭しいが、言葉の中身はものすごい。
「先ほども申した通り、両国の修好のための手段は、姻戚関係を結ぶだけではないでしょう」
「それはそうだが.....」
「でしたら、正式な軍事同盟を結び、義に則って不可侵条約を締結いたしましょう。いずれにせよ、我が国にとって、北原の曹操が健在の今日、呉と相対するのは得策ではございません。それくらいのこと、軍師であらせられる貴殿には、言わずともおわかりのことでございましょう」
白羽扇をタンとテーブルに置くと、孔明は立ち上がった。
「お話とはそれだけでございますか?」
「ひとつ聞きたい.....」
「なんでしょう」
「そなたにとって、劉備殿とは.....」
「もっとも大切な御方です。貴殿が孫権殿を思うのと同じようなものです」
『いや.....それはちょっと違う.....』と、言いたい周瑜であったが、あまりにもきっぱりと宣言され、反撃の暇を見つけ出せない。
「いや.....わたしは別に.....孫権様が成婚あそばされるときにも、とりたててそのような.....」
「わたくしを貴方の様な、気の多い粋人と一緒にしないでくださいませ。わたくしの身も心もただひとり玄徳様だけのもの。この身、髪の一筋、爪の先まで、わたくしは玄徳様のものなのです」
憑かれたように孔明が言う。
論旨がずれている.....と、叫びたかったが、恐ろしくて周瑜は口には出来なかった。
「わたくしは玄徳様、ただおひとりに生涯お仕えする所存。ならば、この上、益体もない不細工な小娘をもらう必要などございませぬ。むしろ百害あって一利なし」
「百害って.....孫氏は呉の姫君.....」
「だからなんです。わたくしは諸葛孔明。あのような不美人の田舎娘、このわたくしの足下にも及びませぬ」
凄絶な微笑にのせて、諸葛孔明はきっぱりと言い切った。
だから待って.....! 周瑜は叫んだ。ただし心の中で。
「こ、こ、こ、孔明!」
「.....大きなお声.....廊下にまで響いてしまいますよ」
「孔明! そなたの物言いを聞いていると.....そなたは玄徳様を.....」
「わたくしが殿を?」
むしろ、おもしろそうに孔明は先を促した。
「そなたは.....玄徳殿のことを.....まるでまるで.....」
ひきつる喉元を片手で押さえ、周瑜が詰め寄ったときである.....
トン.....トントン.....
頼りなげなノックの音。
「そなたは玄徳殿を.....あ、あ、あい.....愛.....」
かまわず続けた周瑜を、孔明が制した。
「しっ.....! お静かに!」
「こ、孔明.....? 孔明、おらぬのか?」
こころもとなげな、弱々しい声。
「な、なんだ.....げ、玄徳様か?」
(しっ!公瑾殿! 話さないでっ!)
「孔明、気分は.....大丈夫か? 先だって、周瑜殿がここへ来たと思うのだが.....孔明?」
トントントン.....
「こ、孔明.....おるのだろう? あの、もしかして.....と、取り込み中か?」
なにをどう解釈したのか。劉備玄徳は一方的に、思い込んでいるようであった。美々しく、かつ怜悧な軍師ふたりが、密室で語り合う様を、いささか飛躍した想像で糊塗しているようであった。
(公瑾殿!今すぐ、衣装棚の向こう側に隠れてください!)
「な、なに.....?」
(声を出すなと申し上げているのですっ!)
ガスッ!と足を踏みつける。あやうく悲鳴を上げそうになるが、周瑜は男のプライドでそれをこらえた。
(な、なにをするっ! 私は客分なのだぞっ?)
(いいからっ! はやくなさいっ!)
(隠れるって.....そなた、なにを.....)
(ぐずぐずしていると、この下衣を引き裂いて悲鳴をあげますよっ! あなたは同盟国の軍師に乱暴を働く、不心得者として断罪されましょうぞっ!)
(はっ.....はぁっ? 私がっ?)
(大声を出すなと言っているのです!.....殺されたいのですか.....)
(こ、殺され.....)
(早くしなさいっ!)
ドカッ!
力任せに尻を蹴飛ばされて、衣装戸棚のほうに倒れ込む。
(声を出してはなりませんよ.....)
という異様に迫力のあるささやきに、周瑜はとりあえず、おとなしく身を隠していることにした。
幾重にも重ねられた、長衣の向こう側にもぐりこむ。贅沢ではないが、十分に雅な長袍は、それこそ数十枚はあって、大柄な周瑜の身をも、上手く隠してくれた。
それを確認すると、孔明は何食わぬそぶりで、玄徳に入室を促した。
「玄徳様.....どうぞお入りくださいませ.....」
しっとりとしめやかな物言いに、
「う、うん.....は、入るぞ.....」
と、断っておいて、玄徳が心配そうに入室してきた。孔明の物言いは、さきほど、周瑜と話していたときとは、声音までもまるで違う。
「これは殿.....お見苦しい有り様で申し訳ございません.....」
「あ、いや、そのような.....こ、孔明.....あの、気になったものだから.....身体はもうよいのか?」
「ええ.....少し、横になっていたものですから.....」
そういうと、長い黒髪を、鬱陶しげにかきあげ、ややだらしなく前のはだけた袍をかきあわせた。
「このような格好でお恥ずかしゅうございます.....」
と、彼は笑った。艶めかしくも愛らしい笑顔である。周瑜の感じた凄絶な印象は薄らいでいる。
「い、いや、やはり気分が悪そうだな、すまぬ、邪魔をして」
はっと、孔明は顔を上げたが、その言葉は、
『眠っていたのを邪魔して』ととるのが自然であろう。さらに笑みの色を濃くして、怜悧な軍師は歌うようにささいやいた。
「殿.....殿はいつもお優しゅうございますね.....どうぞお気になさらず。少しばかり疲れが溜まっていたようです」
「う、うん、うん、そうだろう。すまぬな。そなたばかりに重荷を背負わせてしまって.....わたしのことは大丈夫だから.....どうか、ゆっくり休んでくれ」
心から心配して、玄徳は言った。さすがに気のとがめる孔明。
「殿.....そのようなお顔をなさらないでくださいませ。わたくしはもう大丈夫でございます。ご心配をおかけして.....」
二十も年上の、君主の乾いた手を恭しく取った。
「何を言う。大切な軍師を心配するのは当然のことだ」
なだめるように、劉備は言った。だが、その瞬間、孔明の瞳に、わずかながらも翳りが生じたことには気付かなかった。
「.....孫氏殿はいかがなされましたか?」
「う、うん。お兄君と話をしているよ」
「そうではなくて.....殿もあの姫君をお気に入りの御様子.....殿さえよろしければ、妃にお迎えしたらいかがですか?」
孔明は穏やかに言った。衣装戸棚の向こうの周瑜が驚く。もちろん気付かれないようにだが。
「え.....いや.....だが、そなたも申していた通り、年も離れているしな.....」
「殿さえよろしければ、孔明はなにも申しません.....」
「こ、孔明.....だが.....」
「殿.....」
「やはり.....今回は顔合わせで済ますのがよいと思う.....縁があれば、また逢うこともあろう。なにも今回の来訪で無理やり縁を結ぶ必要もないだろう」
ぼそぼそと、言葉を選びながら、劉備はつぶやいた。
「.....玄徳様.....」
「ん.....だから、孔明もそのことについては案ずるな.....ようやく、この荊州の地も落ち着いてきたばかり。もう少し.....時が欲しいな」
「.....殿がそれでよろしいのならば.....」
孔明は静かに一礼した。長い睫毛が濃い影を落とす。
「う、うん、うん。私はまだ、雲長や翼徳や子龍、それにそなたと、この国で仲良うやっていきたい。それ以外のことは.....もっと後でいい.....」
「.....殿.....」
「う、うん、うん.....」
「もったいないお言葉でございます.....」
「あ、はは、そんなことはないぞ、あ、いや、これはしまった。わ、私はただそれだけ言っておきたくてな。気分の優れぬのに悪かった。もう、休め、孔明」
照れ隠しに、立て続けにそう言うと、間が持てないといった雰囲気で、劉備はさかさかと退出していった。
「玄徳様.....ああ、お茶もお出ししなかったな.....」
ぼんやりと孔明はつぶやいた。まなざしは、いまだ、玄徳の出ていった扉の方を見つめている。
「お茶も出さないで.....」
ぼそりと同じ言葉を繰り返した。
「もう.....よいか.....?」
恐る恐る顔を出したのは、もちろん、この人、周瑜公瑾であった。
「....................」
「.....孔明?」
「....................」
「.....孔明、これ.....」
「.....公瑾殿」
ハッと諸葛亮は振り向いた。
「.....孔明.....」
「なんだ、まだいらしたのですか.....」
無礼な物言いにも、周瑜は怒らなかった。それより、目の前の光景に心奪われる。
「.....なにを.....泣いているのだ.....孔明.....」
「.....別に」
「別にって.....いったいどうした.....」
「なんでもないと言っているのですよ。ああ.....」
ほぅ.....と大きく息を吐きだす。
「まったく.....あの御方は.....ほんにつれない.....」
独り言のように自嘲する。
「ほんにつれない.....つれない御方ですからねぇ.....」
くっくっくっ.....という引きつった苦笑は、ともすれば嗚咽にとって変わりそうであった。
「.....公瑾殿.....いつまでここに居るつもりです.....」
「...............」
「公瑾殿? .....聞いておられるのですか?」
「.....そなたが泣きやむまでだ」
「.....物好きな.....お好きになされませ」
そういう孔明だが、その声音はむしろ笑みを含んで、気恥ずかしそうであった。
「ああ、好きにさせてもらう」
憮然として美周郎は言った。その面白くなさそうな物言いに、孔明が小さく吹きだした。
「.....公瑾殿。貴方は存外にもお優しいのですね」
白羽扇で、口元を隠し、くっくっくっと、鳩が鳴くように笑う孔明。いつもは冷たい光をたたえた切れ長の双眸が、柔和に細められている。
「.....ふ.....さぁて、眠るとしましょうか。どうぞ、公瑾殿」
『一緒に散歩に行きましょう』と言うような調子で、黒髪の軍師は寝台に周瑜を誘った。
「.....話についていけないのだが.....」
周瑜は言った。そして、そうつぶやいた己に舌打ちする。
「ああ、無理にとは言いませんよ。人のよい貴方にまた甘えてしまうところでした」
からかうように孔明が言った。だが、その横顔に、無理にはりつけた微笑が弱々しい。
「.....孔明、一つ忠告しておこう.....」
「なんでしょうか.....?」
「人に甘えたいときは、素直に甘えたいと言えばよい.....」
周瑜はそうささやくと、白羽扇を握った左手を取った。その腕が想像以上にほっそりとしているのに驚く。
「.....あ」
色の薄い口唇から、かすかな吐息が漏れた。腕を取られた拍子に、はらりと白羽扇が床に落ちてしまったからだ。
「公瑾殿.....」
すぐに拾い上げようと手を伸ばす孔明の腕を、ふたたび取りあげる。先ほどよりもよほど強い力で。
「公瑾殿.....扇が.....お放し下さい」
抗う細い肢体を、ぐいと抱き上げる。いきなり空に持ち上げられて、さすがの諸葛亮も慌てたらしい。
「こ、公瑾殿! 扇が.....下ろしてくだされ」
「拾いたいなら後で拾えばよいだろう」
「.....公瑾殿」
「誘ったのはそなただ。そして望んだのは私だ」
周瑜はそう言った。
ひとりで眠るには大きな寝台に、細い長身を横たわらせる。すぐに熱い身体が覆いかぶさってきた。
公瑾殿は体温が高いのだな.....と孔明は感じた。薄い肌に、氷をつめこんだような己の肉体に、徐々に熱が伝わってくる。
頬が触れ合うほどに間近で見た、周瑜公瑾は、まさに美周郎と呼ばれるにふさわしく、美々しい美丈夫であった。
そして、周瑜の腕の中の孔明は、珠玉のごとき美貌の佳人であった。
「.....あ.....ぐ.....」
口腔をまさぐられ、孔明は形のよい眉をゆがめた。息苦しくて、逃げ出そうと抗うが、どうやら力勝負では周瑜の敵ではないらしい。
さもあろう。
呉の軍師とはいえ、おのれも大刀片手に、先陣切って、敵の大軍に躍り込む周瑜と、あくまでも頭脳労働専門の諸葛孔明では、腕力が違いすぎるのだ。
ようやく解放され、荒い吐息をつく。
「ふ.....ぅ.....公瑾殿.....押さえ込まれると.....どうにも.....」
「そなたはずいぶんと細いのだな.....」
「まぁ、貴方に比べればね.....」
周瑜は、孔明の髪を一束、手に掬って、
「.....よい香りがする」
と、ささやいた。
「白檀の香はお気に入られましたか」
「ああ、これは白檀の香であったか.....」
「ええ.....よろしければ、奥方様.....小喬殿にも練り香をお贈りいたしましょうか.....?」
「.....ほぅ.....まだまだ余裕があるようだな.....苛めがいのある.....」
「恐ろしいことをおっしゃる.....」
喉の奥で、孔明が笑った。
「乱暴されるのは嫌ですからね.....自分で脱ぎましょうか?」
「いや.....それもまた一興だが.....今はよい」
薄い耳朶に、熱い吐息を吹きかけ、呉の美周郎は、うっそりととぐろを巻く黒髪に、指をさし込んだ。
長い夜がやってくる。
おちゃらけ、パロディ小説にも、シリアスなエッチシーンはお約束なのである。また、そこがツボの、『三国志DX』は、まだまだ続くのであった.....