〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<24>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「なんだ、てめェら! まだ話足りなかったのに!」

 さっきと同じ宿屋の喫茶室に戻った俺たち。

 着席するなり、セフィロスが怒鳴り声を上げた。

「うっせーつーの。あ〜……冷や汗かいたぜ……」

「ザックス、心配しすぎだってば。なんともなかったろう?」

「そりゃ結果論だろーが!」

「ちっ……何をぶつぶつ言ってやがる。オレ的には、もうちょっと年上の恋人の件を詰めておきたかっ……」

「もう充分だろうがよ! 立ち話のわりには、ずいぶん長く話したぞ」

 セフィロスの物言いを遮り、壁時計を指さしてそう言ってやった。最初は今朝方にでも出発するとか抜かしてやがったくせに。

「ほら、アンタ、はやくミッドガルに帰りたいって言ってただろうがよ」

「相手はクラウドの母親なんだぞ! 臨機応変に考えねーか!! 今のうちに根回ししてし過ぎることは……」

「あのな。かえって警戒されるに決まってんだろーが。どこの世の中に、自分の息子の伴侶が、同じ男で喜ぶ母親が居るっつーんだよ」

「そんなことわかるものか。彼女はオレのことを知っていたぞ」

「オメーのことを知らねーヤツのほうが少ないっつーの」

「おまけにクラウドがオレに憧れていたと証言している。性別など些細な問題だ」

「いやいやいや、メチャクチャ重要だからね、コレ。特に親にとっては」

 そうダメ出しをしてやるが、それで引っ込むセフィロスではない。

「おい、お義母さまの話をきちんと聞いていなかったのか、ザックス?」

「その『お義母さま』っつーのはヤメロって言っただろ」

「彼女は『年上のしっかりした恋人』が望ましいと言っていたのだぞ! このオレ様以外に誰が居るというのだ!?」

「いや、いっぱい居るでしょ、女の人で……」

「オレ以上に『しっかりとした』者がいるもんか!」

「ああ、確かに、『しっかり、がっしり』とした頑丈なヤツはいないかもね。その辺、心の底からどうでもいいけど……」

 テンションを上げるセフィロスとは対照的に、俺の言葉のトーンは下がる一方だった。だってもうこの段階で疲れて疲れて。

 

「…………」

「おい、ジェネシス、何ぼうっとしてんだよ。アンタも何とか言ってくれよ。同僚だろ?」

 ひとり別世界で物思いに耽っている野郎におハチを回してやる。本当にジェネシスというヤツは、過ぎ去った興味のない事柄にはあっさりと関心を無くす男であった。

「え、ああ……うん。まぁいいじゃない」

「よくねーよ」

「そういう意味じゃなくてさ。いずれにせよ、セフィロスがチョコボくんに告白してからの話でしょ。すべての事柄は、あの子の返事を待ってからなんだから」

「まぁ……そうだよな。わかったかよ、セフィロス」

「ケッ! 当然だ。そのためには時期を見計らい、好機を狙っていかないとな」

「ティファちゃんと約束しただろ。力づくはダメなんだぞ。俺も許さねー」

「フン、バカにするな。そんなのは論外だと言っただろ」

「わかってりゃいいんだよ。……さて、そろそろ行くか、ふたりとも?」

 そう言って、同意を求めるようにふたりのソルジャークラス1stの顔を見た。

 

         

 

     

 

 

「あ、あのさ……やっぱり、俺、ちょっとお別れを言いに行ってくる」

 と、ジェネシス。

「は? 誰にだよ? アンタ、ここに知り合いなんていないだろ?」

「……俺の女神に。悪いんだけど、すぐ戻ってくるから、お茶でも飲んで待っててくれるか?」

「女神って……神羅屋敷の地下に居たとかいう?」

 本気で言ってんの、この人? 確か、棺桶で寝ている、生きてんだか、死んでんだかわかんない人物のことだったはずだ。

「そう……ずっとあの場所で眠り続けているんだよ」

「だから死んでんだろ?」

「違うってば。身体、温かかったって言っただろ?」

「…………」

「ふぅ……いったい誰のキスで目覚めるんだか……」

 切なげに吐息するジェネシス。

 その横顔は、完全に恋する男の苦悩を刻み込んでいるのであった。

 ……セフィロスもセフィロスだが、こいつもこいつだ。いや、まだセフィロスのほうがマシかもしれない。クラウドは男だが、間違いなく『生きている』。

 だが、ジェネシスの相手は……

 

「ケッ、くだらん」

 一言の元に言ってのけるセフィロス。いや、アンタにそんなことを言う資格があるのかと、小一時間ほど問いつめたいところだが。

「オレはここで何か食って待ってる。行きたいならさっさと行ってこい!」

「うん、悪いね。……ザックスはどうする?」

「俺は……」

 ほんの少し心が動かされていた。

 いつでも何に対してでも興味を持たないジェネシス。今回のセフィロスの一件だって、同行してきた理由は『面白そうだったから』というだけで、強い関心があったわけではないのだ。

 その彼がこれほどまでに執着する『女神』に、わずかながらも気持ちを動かされたのだ。

「お、おう……いいぜ、ちょっとだけなら付き合っても」

 気が付いたときにはそう答えていた。すぐに「しまった!」と思ったが。

「物好きな野郎どもだ。オレは早くクラウドに会いたいんだからな。一時間は待たないぞ」

「ああ、わかってるよ。相手は眠っているんだから。声を掛けても応えてくれないんだからね……」

 そう返事をしたジェネシスの顔が、心なしにも寂しそうに見えたのは気のせいだったのか。

「行こう、ザックス。あ、でも、最初に女神に出逢ったのは俺だからな。抜け駆けは無しだからね」

「そんなんするわけねーだろ! 冗談じゃねぇぞ。棺桶の中の相手に!」

「彼を見たら気持ちが変わるかもしれないだろう?」

 そんな会話をしながら、俺たちふたりは連れだって、神羅屋敷へ向かった。

 セフィロスがふたたび、クラウドママに特攻しないかと気になったが、一応大人しく朝飯の食い直し(?)をしている様子であった。

 

 ……しかし、一体、神羅屋敷の地下に、何が眠っているっつーんだよ……?