〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<6>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「チッ、ヤベーヤベー、まさかおたふくとはよ〜」

 俺はジェネシスに言われたとおり、大急ぎで部屋の掃除をした。

 まるでクラウドを病原菌みたいに扱うようで気が引けるのだが、こればかりは仕方がない。

 おたふく風邪は大抵のヤツは、ガキの頃に罹っているだろうが、クラウドのようにまれに済ませていないヤツも居る。ジェネシスが言っていたとおり、年長になってから罹患するほうが重篤になりやすいらしい。

 万一、寮生に広まりでもしたら、厄介なことになるだろう。

 

 窓を開け、風を通す。

 クラウドのベッドからシーツをひっ剥がし、ちょっと迷ったが、枕や掛け布団もまとめておいた。メディカルセンターに着替えを届けにいったら、一応すべて洗濯してしまおう。どうせ今日の午後はフリーなのだ。

 人様のクローゼットを覗くのはやや抵抗がある……なんつーのは、女の人同士の話なのかもしれない。すでに俺とクラウドの服なんかは、クローゼットの中でごちゃ混ぜになっており、その中から彼の着替えを適当に発掘する。

 俺は手早くそれらをまとめると、メディカルセンターへ急いだ。

 ……一応、うがいをしてからと付け加えておこう。

 

 メディカルセンターは、傷病人の手当を行う場所だが、研究施設的な要素も強い。大抵の病人は、程度の軽いものなら寮の医務室で手当てを受けて済ませてしまう。

 ただ、今回のクラウドの例のように、伝染性の強い病の場合、もしくは症状が重篤な場合……もちろん病気でも怪我でも。そういうケースは迷わずこの場所に来ることになる。

 メディカルセンターの立地はやや奥まった場所になっていて、俺たち一般寮よりも、上級職員(?)専用のVIPルームのほうが近いのだ。エレベーターで地下の研究施設から地繋がりになっているからよけいにだ。もちろん表玄関からの出入りが常だが、セフィロスらはおそらく地下エレベーターで乱入したことだろう。

 ……そう『乱入』したに違いない。

 センター入り口から受付を素通りして、そのまま検査病棟のほうへ足を運ぶ。まずはここで医師の処置を受けているはずだ。

 

「え〜と、クラウド……クラウド…… あ、あのスイマッセン、ちょっと伺いたいんですが」

 と、通りすがりの職員に声を掛けたところで、俺の背後から力強い声が飛んできた。

「早く治せ! ああッ! おい、貴様、馴れ馴れしく素手で触るな! 聴診器はもういいだろ! その子は肌が柔いんだッ! 下手に触れると傷が付く!」

 ……何してんだよ、あの人は…… メディカルセンターの医者相手にバカじゃねーの?

 俺はうっかり声を掛けてしまった女性に、ひとつおじぎをすると、足早に声の主のもとへ行く。間違いなくそこにクラウドが居るはずだから。

 

 

 

 

  

 

「ああ、ザックス、ご苦労様。今、治療中。これから個室に移動するところだったよ。いいタイミングだ」

「お、おう。どんな感じだ?」

 診察台の上のクラウドは、ぐったりと目を閉じ、荒い呼吸を繰り返すだけだ。本人に具合を問うわけにはいかなかった。

「うん。やっぱり流行性耳下腺炎らしいね。子どもの頃に済ませてなかったんだなァ」

「ああ、可哀想にな」

「まぁ、二十歳越えて罹るよりはマシだったんじゃないか?」

「あ、ああ。そりゃそうかもしれないけど……」

 そうだ。成人してからだと、下手をしたら男性機能に……

 

「クラウド、気をしっかり持つのだぞ! この私がついている。すぐに良くなるからな!」

 病室の静寂を破る不躾な大声。

「……あの人、うっさいね」

「ああ、まったくだ」

 診察台にしがみつかんばかりのセフィロスに、俺たちは相互に溜め息を吐いた。

 ……っていうか、確か診察室って、部外者は立ち入り禁止だったはず。クラウドの状況を説明しに入室したジェネシスはともかく、セフィロスと俺はただの迷惑な闖入者だろう。

「おい、セフィロス。邪魔になるから部屋の外へ……」

「よしよし、クラウド。今度から少しでも調子がおかしいと感じたら、すぐに私に相談するのだぞ? おまえは繊細な子なんだからな。だいたいこの子みたいな修習生をあのクソ煩いザックスなんかと同室に……」

「あ、あの、セフィロス……」

「……? なんだ貴様、居たのか。鬱陶しい。端に退いてろ」

 いや、もうそれ、俺のセリフなんですけどね? ほらほら、注射器持ったお医者さんも目に見えて困惑してんじゃねーかよ。

「おい、セフィロス、邪魔。お医者さんの迷惑だろ」

「エラソーに、貴様……」

「ああ、ええと……失礼、ソルジャー・セフィロス。患者に注射をいたしますので……」

「なんだとッ!?」

 素っ頓狂な声を上げるセフィロス。

「ちゅ、注射だと!? こ、この子はそういったものが苦手な子で……」

 おまえはお母さんか。

「く、薬なら、粉薬とか錠剤とかいろいろあるだろ!? なんならオレが口移しで……」

「え、い、いえ……ですが、ソルジャー・セフィロス。流行性耳下腺炎ですので……」

「肌を傷つけず、上手く治せる方法はないのか!?」

「い、いえ、もうこれは、伝染病のワクチンを注入するのが一番……」

「ああ、ほら、黙って、セフィロス」

 横たわったクラウドにしがみつくセフィロスを、ジェネシスが引きはがす。苦笑しつつ、医師に謝罪する。

「ああ、申し訳ない、ドクター。この子は今年入社の修習生でね。まだ幼いし、線の細い子なので心配なんだよ」

「ん〜…… ゴホッ、ゲホッ……」

 俺たちの話し声にクラウドが薄目を開ける。可哀想に熱と痛みで濁ったように潤んでいた。