〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<7>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「ゴッ……ゴホッ…… ザ、ザックス? セフィロスさん……も?」

「お、おう、大丈夫だぞ、クラウド。大人しくお医者さんのいうとおりしていろ」

「クラウド、しっかりな? オレ……私がずっと側に着いているからな!!」

「ん……ゴホッ……」

「ああ、君。今、楽になるよう注射をするからね。動かないでくれたまえ」

 クラウドが気がついたのがもっけの幸いだと思ったのだろう。年若い医師は、丁寧に患者に声を掛けた。

「え……あ……ちゅ、注射……?」

 びくびくと怯えるクラウド。

 ……いい加減、ガキじゃあるまいし!と言ってやりたいところなのだが、クラウドはしっかり『子供』なのだ。特にこういう種類の痛みに慣れていないのだろう。

 しかし、ソルジャー仲間にも、戦地で傷を負うのは有りだが、注射が苦手という輩はいるから、クラウドがそうめずらしいわけではないのかもしれない。

「左腕、いいかな。ああ、そのままでけっこう」

 パジャマの袖を手繰る医者。クラウドは今にも泣き出しそうな面もちだ。

「大丈夫だ、クラウド。私がついているぞ!」

「いや、セフィロス……うっせーって……」

「よし!私が手を握っていてやるからな!安心しろッ!」

 俺の言葉など耳に入っていないのだろう。

 セフィロスはそのクソデカイ図体でベッドの横に張り付くと、クラウドの空いている方の手を握りしめた。

「あ?……セ、セフィロス……さん?」

 ようやく周囲の状況を認識し始めたのだろう。目線を泳がし、診察室を眺めると、彼は熱に潤んだ瞳でしっかりと手を握りしめるセフィロスを見つめた。

「あ、あの……よろしいでしょうか……?」

 と、医師。

「ああ、もうホント、スンマッセン。この人のことは粗大ゴミかなんかだと思って、さっさとやっちまってください」

「ザックス、ひどい言い方だなぁ〜、アッハッハッ」

「は、はぁ……で、では……」

 年若い医師でも、さすがに『セフィロス』の存在は充分見聞きしているはずだ。その神羅の英雄が、病身の修習生の傍らに寄り添い、今にももらい泣きしそうに顔を歪ませているのが信じがたいのだろう。

 だが当のセフィロスはそんな医師の様子など一切気に留めず、ひたすらクラウドの容態を心配しているだけだ。

「……ん……痛……ッ」

「クラウド……ッ」

「いた……痛い……」

「クラウド、すぐ終わるぞ、もうすぐだ! 医者、さっさと針を抜けッ!!」

「は、はい、もうけっこうで……」

「よしよし! いい子だなクラウド、よく辛抱したなッ! 注射はすんだぞ! もう痛いことはしないからなッ!」

 医師を押しのけて声を掛けるセフィロス。気の毒な若い医者は、空になった注射器を片手に隅に追いやられてしまう。 

「……ええと、その……処置が終了しましたので、病室に移しますね」

「個人部屋にしろ! 南向きの綺麗な個室だッ!」

「あ、は、はぁ……それは担当が事務の方になりますので……」

「ジェネシス、メディカルセンターの女とは懇意だろ! ひとこと言いに行っておけ! ザックス、ボサッとするな! クラウドの着替えを持ってついてこい!」

 言い淀む医師の言葉に覆い被せて指示を出すセフィロス。

 おまけにコイツの声のデカさはメディカルルーム全体に響き渡るイキオイだ。

 あ〜あ、まずいっつーのに。副社長じゃないけど、これじゃウワサになるのも時間の問題じゃねーか。

「ああ〜、悪いな、わがままを言って。まぁ、そんなわけだから便宜を図ってもらえると助かるんだが……」

 ちょうどファイルを抱えてやってきた女性事務職員に声を掛けるジェネシス。こいつも大概馴れ馴れしい。

 有能そうな彼女は手早く病室の手配を済ませてくれ、クラウドはすぐに病室に運ばれたのであった。

 ……とりあえず、一件落着……か?

 

 

 

 

 

 

「バカか、てめェは! 何が一件落着だ!」

「なんだよ……医者にも診てもらったし、ちゃんと薬が効いて寝てるじゃんか。後は回復を待つだけだろ」

 俺は口を尖らせてそう言い返した。

「これからクラウドはつらい闘病生活が始まるんだ。可哀想に頬を腫らせてしまって……まぁ、ハムスターみたいで愛らしいが」

「ああ、ハムスターね。言われてみればそんな感じだね。可愛いなぁ」

「クソジェネシス!! オレのクラウドに無礼なことを言うなッ! クラウドはどこの子よりも愛らしいッ!」

「いや、アンタ、言っていることがめちゃくちゃ……」

「黙れ、ザックス! だいたい貴様がもっと早くこの子の異変に気付いていればこんな大事に至らんでも済ませたものを……」

「おいおい、セフィロス。それはザックスが気の毒だよ。初期症状は風邪と大差ないし、チョコボ自身もまったく気付いてなかったんだから」

「オレならすぐに気づけたはずだ。愛の力でな」

 ……この人、羞恥心とか、そーゆーのないのかな?

 十数年生きていて、真顔で『愛の力』なんて言葉を口にする輩に、今初めて出会った。

「まぁ、その辺のことはいいだろう。後はメディカルセンターに任せておけば安心だ。俺たちはそろそろ引き上げないか?」

「おまえらさっさと出て行け。オレはクラウドについている」

「いや、アンタ……ついているって……午後、何か仕事入ってないの? ってゆーか、くっついてても、俺たちにできることなんて何もないぞ?」

「この子が目を覚ましたとき、たったひとりで知らない病室に放り込まれていては、ひどく心細い思いをするだろう。オレが側に居れば安心するはずだ」

「…………」

「…………」

 確固たる英雄の物言いに、俺たちふたりは口を挟む気もなくなった。

 ……いや、気圧されたとかそういうんじゃない。ただ単に脱力しただけだ。

「ああ、まぁ、もう好きにして……」

 と言い残し、俺とジェネシスはさっさと退室することにした。

 

 ……事件……というか、ハプニングが発生したのはその直後のことであった。

 ジェネシスと一緒にクラウドの病室を退室し、そのままエレベーターを降り、出口に向かってエントランスへ足を運んだとき…… とある人物に出会ったのだ。

 いや、もちろん彼らがこの敷地内に居ることがおかしいわけではない。

 メディカルセンターはそれこそ多数の患者を抱えているし、社員なら、誰もがその患者に為りうる可能性だってあるんだし……そう今回のクラウドのように。

 だから俺たちの見知った人物が、この場所へやってきても、なんら不思議はない。患者じゃなくても、検査希望者とか……それこそ見舞いとか。

 そうだ、神羅の社員なら誰が来てもおかしくないんだ。

 神羅の社員なんだから……

 硬い表情をして、足早にエレベーターホールへ向かっていったのは、タークスのツォン……そして、ルーファウス神羅副社長であった。

 

 俺とジェネシスは、その冷たく固まったルーファウスの横顔に、妙に胸騒ぎがするのを感じた……