〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<5>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「おい、ジェネシス、クラウドは……」

「ジェネシス、クラウドは大丈夫なんだろうなッ! おい、貴様、どうなんだッ!」

 俺以上にジェネシスに詰め寄るセフィロス。胸ぐらを掴み上げそうな勢いだ。

「大声を出すなと言っただろう、ふたりとも。大丈夫だ……たぶんアレだろうと思う」

「アレってなんだよッ! わかってんなら……」

「おい、ジェネシス!!」

「よさないか。チョコボの寝ている前で話すのはよくないだろ。ちょっと……」

 そういって、小声で手招きする。

 たぶん、普通に話してもクラウドに聞いている余裕はないと思うのだが。

「……ふたりとも流行性耳下腺炎は済ませているか?」

「は?」

「なんだ、そいつァ?」

 二人揃って耳慣れない単語を聞き返す。

「えーと、ああ、『おたふく風邪』って言った方がわかりやすいかな」

「おたふく?……ええっと……あの子供が罹る伝染病だろ?」

「まぁ、そうだね。普通は幼児期に罹って、すぐに治るケースがほとんどだ」

「クラウドがそれなのか?」

 と、セフィロス。

「おそらく。本当は本人に確認したいところなんだけど、呼吸するのもつらそうだったから」

「だ、だって、あいつ、もう十四歳だぞ? 今頃……」

「それほどめずらしいケースでもないよ。ただ幼児期に比べて症状が重いことが多い。特に成人男性だと…… その……」

 言い淀むジェネシスに不安感が募ってゆく。

「な、なんだよ?」

「髄膜炎、脳炎の他に精巣炎などを併発する恐れがある。男性機能に問題が生じることもあり得るんだよ」

「ええええッ!?」

 と、俺とセフィロスの声が重なった。

「シッ…… まぁ、まだそうと決まったワケじゃないけど、いずれにせよ、熱が高いし、メディカルルームに任せたほうがいいだろう」

 話は終わりというようにそう告げると、ジェネシスはもう一度クラウドの寝ているベッドへ歩み寄った。

「ジェ、ジェネシス……さ……」

「ああ、しゃべらなくていいから。喉と耳の後ろが痛むだろう?」

 こくんとクラウドが頷いた。その拍子に眦からポロッと涙の粒がこぼれ落ちた。クラウド自身、自分の症状がどういう病なのか全然わからないのだろう。

 その恐怖心がジェネシスの語りかけで氷塊したのだと思う。涙は安心したときほど出やすいんだ。

「メディカルセンターで治療してもらえばすぐによくなるからな。いい子にして言うことを聞くんだぞ」

「お、おい、ジェネシス……」

「よし。セフィロス、この子を抱いて後から来てくれるか。俺は先にメディカルセンターで話をつけておく」

「まかせろ!」

 鬼のような勢いでクラウドを抱こうとして、ジェネシスに

「そっと……な」

 と注意されるセフィロス。気持ちはわかるが空気読めよ。

「ザックス。……おまえ、おたふく風邪は?」

「え、ええと……」

「ムンプスウイルスは、飛沫感染、接触感染で伝染る」

 耳慣れない単語をごく自然に口にするジェネシス。

「ムンプ?ひまつ?」

「ムンプスウイルス……おたふく風邪を発症させるウイルスのことだよ。飛沫感染はくしゃみや咳などでウイルスが飛び散って伝染ること。潜伏期間は約2〜3週間だからな。今さらかもしれんが」

「い、いや、俺、ガキの頃に罹ってる。ほっぺた腫れて、メシ食えなくなるアレだろ」

 俺の例えがあまりに原始的すぎたのか、こんな場合なのにジェネシスはプッと吹き出して、

「それなら、心配は要らないかな」

 と笑った。

「では、チョコボの着替えを用意してセンターに持ってきてくれ。その後、部屋の空気を入れ換えて、彼の使っていた寝具をすべて洗ったほうがいい。ここは寮生の生活の場所だからな。万一感染すると厄介なことになる」

「わ、わかった」

「……念のためだがな。おまえも後で一応検査を受けておけよ」

「お、おう」

「じゃあ、セフィロス、行こうか」

「よし。クラウド、私がついているからな。気をしっかり持つのだぞ」

 ……いや、セフィロス。

 あの……一応、話的にはおたふく風邪って流れだから。何もそこまで深刻に……と考え、さきほどのジェネシスの言葉を思い出す。

『成人の場合、男性機能に問題が生じることもあり得るんだよ』

 怖エェェェェ!! さすがにこの年で不能にはなりたくねェェェ!!

 まぁ、もちろん、最悪の事態なんだろうが……その可能性があるってだけでも怖いじゃねーか!

「ゲホッ……ゴホッ……セフィ…ロスさ……?」

「よしよし。もう安心だぞ。ああ、オレ……私がずっと側に付いていられればな……くそザックスのせいで……ああ、可哀想に……」

 いや、あの……俺のせいですかァァァ!?

「じゃあ、ザックス、後は頼んだぞ。さ、セフィロス」

「わかっている。寒くないか、クラウド。すぐにメディカルセンターに行くからな」

「ゴホッ……ゴホッ……ご、ごめんなさ……」

「謝る必要などない。可哀想に……真っ赤な顔をして…… よしよしいい子だな。よくなるまで私がずっと側についているからな。すぐに治してやるぞ。そうしたら、一緒に美味いものを食いに行こう。似合いそうな服も買ってやる。だから、安静にして早く病気を治そうな」

 ……って、道すがらずっとあの調子で語りかけて行くつもりなんですか、コレ!?

 人目を気にしている場合じゃないっつーのはわかるけど……

「気の利かない、くそザックスは後でシメてやるからな……」

 などという発言は聞き捨てならないんですけど!!