〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<4>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「アンタらはここで待っててくれ」

「おい、ザックス、貴様、この期に及んで……」

「違うっつーの。会わせないって言ってるわけじゃないだろ。いきなり雪崩れ込んだらクラウドが驚くからな。とりあえず先に声掛けに行くから」

「そうだね、そのほうがいい。ほら、セフィロス、ちょっと待っていよう」

 ここでグズグズとやりとりをするほうが面倒と判断したのだろう。セフィロスは憮然とした面持ちで、

「さっさと行ってこい!」

 と吐き出した。

 立て続けにこぼれそうな溜め息をせき止め、軽くノックをしてからドアを開く。俺もクラウドもいちいち鍵をかける習慣はない。

 

「クラウド……?」

 もこりと布団が盛り上がっていることから、彼があのままベッドに横になっていると知れる。飲めと言って置いていった粉薬が、結局そのままテーブルに置きっぱなしなのに気がついた。

 何か腹に入れてから服用するように言ったのだが……

「おい、クラウド。どうだ、具合? 今、セフィロスとジェネシスが……」

 そこまで言って、俺はギョッと言葉を飲み込んだ。

「ク、クラウド……?」

 次にこぼれ落ちたのは、何とも情けない掠れた声であった。

「クラウド…… お、おい!?」

  

 クラウドはベッドに横倒しになった形で寝ていた。

 頬が真っ赤に火照り、「ハッハッ」というせわしない呼吸がひどく痛々しい。おまけに息継ぎの時、喉元がヒュウと奇妙な音を立てるのだ。

 誰がどう見ても、「ちょっと風邪っぽい」という風情ではなかった。

「お、おい、クラウド、クラウド!」 

 ああ、こんなときに落ち着けない俺を阿呆と呼んでくれ。

 見たこともないようなクラウドの苦しげなありさまに、俺は心底動揺していた。

 寝ているクラウドを起こさないほうがよいとわかっているのに、思わず抱き上げ、懐に抱え込む。

「クラウド、おい!? どうした、これ……」

「ゴホッ…… ん……あ……? ザッ……クス?」

「クラウド、大丈夫か? どうした? 苦しいのか!?」

 見りゃわかんだろというツッコミは無しの方向で……それだけ焦っていたのだ。

「ごほっ……おのど……痛い…… 顔、あっつい…… 苦しいよぅ……」

「クラウドッ!」

 そのとき、背後の扉のほうから、ドカドカという足音が聞こえた。そうだ、俺はセフィロスたちを放置していたことさえ、忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「ザックス、どうかしたのか? チョコボの様子は……」

 覗き込んでいたジェネシスが眉を顰める。セフィロスはジェネシスの後ろだ。たぶん、尋常ならざる雰囲気を察して大騒ぎしそうなセフィロスよりも先に、彼が室内に入ったのだろう。

「ジェ、ジェネシス、ヤベーよ。なんかすごく苦しそうで……」

 俺は赤ん坊のようにクラウドを抱いたまま、おろおろとジェネシスに見せた。

「クラウドッ! クラウド、どうしたッ!!」

 懐のクラウドが、セフィロスの視界に入ったのだろう。ヤツは部屋中に響き渡るような声で彼の名を呼んだ。

「シッ、セフィロス。騒ぐと病人の身体に障る」

「だ、だがッ! どういうことなのだ、ザックス! 貴様の話と全然様子が違うではないか!!」

「だっ……だって、今朝はこんなじゃなかったんだよ。ちょっと熱っぽいて言ってただけで……」

「ふたりとも。そんなことを言い争っても無意味だろう。騒がしくするなら部屋から出ろ。それが嫌なら、そのまま静かにしていろ」

 ジェネシスは、浮き足立つ俺たちふたりを、ビシッと叱りつけた。女神女神と浮ついていたくせに……なんだか別人みたいだ。

「ザックス、上になにか掛けてやった方がいい。これを……」

 そういうと、ジェネシスはチェアの背に引っかけておいたブランケットを持ち出してきた。俺はうっかり、パジャマのままのクラウドを抱きしめていたのであった。確かに身体を冷やすのはよくない。

 ジェネシスは毛足の長いそいつで、丁寧にクラウドの身体を包みこんだ。俺が抱いているという、不安定な場所なのに、その手際のよさと的確さに、またもや俺は驚かされた。

 

「げほっ……ごほっ…… あ、あれ……ジェ、ジェネシ……」

「やぁ、チョコボっ子。よしよし、可哀想にな。喉が痛いか?……ちょっと悪い……横を向いてくれるか?」

 そういうとジェネシスは、そっと……至極やさしい手つきでクラウドの頬から耳……そしてその裏を辿ってみせた。

 セフィロスはまるで新妻の出産に立ち合う、使えない夫そのものである。クマのようにおかしな格好で、部屋の中を右往左往していた。図体がデカイだけに、目障りなことこの上ない。

「ん……ごほっ……痛ッ……」

「ああ、ごめんよ。もう触らないから。……リンパ腺が腫れているね。大丈夫だ、すぐに楽になるからな」

 小さな子どもに言い聞かせるようにそう話しかけると、ジェネシスは次の行動に移ろうとしていた。俺など何が何だか……どうすりゃいいんだか分からない。

「ジェ、ジェネシス、アンタ、何か分かるか? クラウド、どうしちまったんだよ!」

 ひとまずクラウドをベッドに戻し、きちんと毛布を掛けてやってから、俺はジェネシスに訊ねた。