〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<14>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「おい、セフィロス!」

「…………」

「おい、セフィロスってば!」

 背後から巨躯の長髪を呼び止める。

「チッ……! なんだ、てめーか。鬱陶しい」

「あのな……」

「それよりもクラウドの姿が見えないのだ。せっかく水浸しなのに……」

 きっと、あのとき、ラザードが口にした言葉……

 『修習生の少年が「お疲れさまセフィロスさん」と言ってタオルを抱いて駆けてくる』

 を実践するつもりだったのだろう。

 気の毒だが、ミッションが始まってしまえば、当然クラウドだって、ぼんやりと座っているわけではない。指示に従って撤去作業やらに加わっているのだろう。

 自らに経験がないから、そのあたりの想像力も働かないのが、トップソルジャーゆえの悲しさともいえるだろうか。

 

「濡れてんなら拭きゃいーだろ。ほら、タオル」

 自分の首にかけっぱなしのヤツを、ポイと放り投げてやる。

「貴様に渡されても嬉しくもなんともない! クソッ! ラザードめ〜」

「あのな、セフィロス。クラウドだってボケッと座っているわけないだろ? あの子にはあの子の任務がある。救護の仕事がなければ、撤収作業に加わってるんじゃねーのか」

「ああ、そうか! 貴様、なぜさっさと教えん!」

「いや、教えるとか教えないとか…… フツーのことだろ」

「ああ、もういい、どけ!」 

 俺を押しのけ、走り出す英雄。まだこっちの用件を話していないのに。

「おい、セフィロス、それどころじゃないって言ってんだろ! 待てよッ!」

 くっそ〜! デカイくせに足の速いヤツめ〜!!

「おいってば! 今、ヘリから連絡があって……」

「どこだ、クラウドーッ!」

「あのさ、聞いてるッ!?」

「クラウド! クラウド!」

 ゼッゼッと息が弾んでしまう。情けないぜ、セフィロスに追いつけないなんて。

 ……なんだか修習生を見ていたら、俺もジジイなのかも……と感じてしまった。

「……! クラウド!」

 目的物を射程範囲内に入れたのか、セフィロスがダッシュをかける。……これがまた早い。必死に後を追う俺など顧みることもなく、エロい英雄は、金髪チョコボを発見したのだった。

 クラウドは同じ部隊の者たちと、シーウォームの撤去、封鎖で使用した鉄網やロープの撤収作業に加わっていた。

「クラウド!」

「あ…… セ、セフィロスさん……ザックスも!」

 道具を抱えたクラウドが、ひとりでちょこちょこと走っているのを見つけ、タイミングを計って後ろから声を掛けたのだ。皆と一緒にいるときよりは、多少なりとも混乱がマシになるかと思って。

 だが……

「あ、あの、セフィロスさん。す、すごかったです。おれ……セフィロスさんたちが戦うの、間近で見るの、初めてだったから…… 胸がドキドキして……」

 本当に興奮しているのだろう。

 彼は、手を胸元に当てて、咳き込むようにそう言った。

 セフィロスは「うんうん」とちゃんと頷きつつ、クラウドの話を聞いてやる。……もちろん、にやけたままのツラで。

 ヤツのバックに、マンガ風に書き文字を入れるとしたら『はにゃ〜ん』といったところか。

 

 

 

 

 

 

「クッシュンッ!」

 話の途中で、小さなくしゃみをしたのはクラウドであった。ずぶ濡れのくせに、英雄のほうはなんともなさそうだ。しかも体熱で徐々に乾きつつある勢いである。

 だが、よくよく見れば、クラウドこそ、もろに水を被ってしまったのだろう。いつものチョコボの尾は、なんとなく潮垂れているし、唇も鮮やかな桜色ではなかった。

「おい、クラウド。おまえちょっと拭いてこい。荷物を持っていたから気付かなかったが、もろに水かぶったんだろ」

「あ、ザックス。う、うん……ちょっと…… くっしゅ!」

「ザックス! 気付いているなら、もっと早く言え! クラウド、こっちに来い」

 ズカズカと飛び出し、彼の腕を取るセフィロス。

「あ、あの、し、仕事終わったら、すぐ着替えますから……」

「ダメだ! そんなのは後回しでいい。もし、万一風邪でも引いたらどうするんだ? オレが悲しむだろ?」

 ……おめーがかよ、セフィロス!

「おまえにもしものことがあったら……私は……」

「は、はぁ……」

 きょとんとしてセフィロスを仰ぎ見る、クラウド。(本当に『仰ぎ見る』だ)

 本当に彼の言葉が理解できないのだろう。ただ、「心配してもらえてるんだー」くらいの認識だと思われる。ド田舎出身のお子ちゃまらしく、同性からの恋愛感情については、とことんにぶいヤツであった。

「ほら、ここに来い、クラウド。予備のタオルがあるから……まずは髪を拭くんだ」

「は、はい……」

 躊躇しつつも、手に持っていた道具一式だけ所定の場所に運ぶと、クラウドは素直に、セフィロスの待つ救護スペースに戻ってきた。

「あ、あの、セ、セフィロスさんも濡れてます……おれのことはいいから……」

「まずはおまえからだ。私は何ともない。……いいから、私に任せてじっとしていろ」

 上記のセリフを聞いて、『エロイな』と感じてしまった俺は、もはや末期症状なのかもしれない。

「おい、セフィロス。あのさ、さっきヘリから連絡入ったんだ。他にシーウォームの姿は視認できないって」

「…………」

「おい、聞いてるッ!?」

「ああ、ああ、わかった。(チッ、るっせーな)」

「んで、どうするよ。撤収掛けるか? それとも……」

「ああ、撤収撤収」

 心の底からどうでもよさそうに返答するセフィロス。だいたいしゃべっている俺のほうを見もしない。

 丁寧に……本当に至極丁寧に、まるで壊れ物を扱うような手つきでクラウドを拭いてやっている。大きなタオルから顔だけ除いているクラウドは、まるで赤ん坊のように見えた。

 

 ……セフィロスはムカツクが……だが、文句を言っている場合でもないだろう。指揮代行をジェネシスに頼んだまま放置しているのだから。

「わかった。撤収でいいんだな」

「ハイハイ。ほら、クラウド、手をどけろ。服も着替えた方がいいな。あー、とりあえずバスタオルを巻いておけば、不用意に見られることもないだろう……」

 はぁ〜と深く溜め息ついて、俺は早足で元の場所に戻った。

 案の定、ジェネシスに「遅い」と文句を言われる。

「びしょ濡れで気持ち悪い。早くシャワー浴びに行こう」

 そうつぶやくと、ポエマーは俺を一顧だにせず、単身でさっさと社のほうへ引き上げていってしまった。

 もう……何なんだよ、1stの連中は!?

 1stって、ソルジャーの一番上だろ? 皆の手本に成るべき存在だろ?

 それともただ強きゃいいってーのかよ!? ちったァ、アンジールを見習えっつーの!!