〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<15>
 ザックス・フェア
 

 

 
 
 

「総員に告ぐ。封鎖ラインを解き、ただちに撤収。封鎖ラインを解き、ただちに撤収。尚、ソルジャーは湾岸沿いを警戒の上、引き上げのこと」

 ふぅと息継ぎして、同じ文言を繰り返す。

「総員に告ぐ。封鎖ラインを解き、ただちに撤収。封鎖ラインを解き、ただちに撤収。尚、ソルジャーは湾岸沿いを警戒の上、引き上げのこと」

 ああ……疲れた。

 別に出張ミッションでもなかったのに。それどころか、正味三時間にも満たない程度で、片づいた楽な仕事であったはずなのに……

 誰かさんのおかげでゲッソリだぜ……

 

 ……だが、まぁ、やっぱ1stはスゲーよな。

 あの巨体を一刀のもとに真っ二つか。

 

 次々と浜辺へ引き上げられるシーウォームを眺めていると、そのすごさがよけいに身に染みるのだ。

 ああして、引っ張り上げるのだって、十数人掛かりである。

 それを刀一本で……

 

 くそ〜ッ! 

 あいつら人間性はサイテーだし、セフィロスに至っては、エロエロの節操なしで、ジェネシスは変態ポエマーだが、やはり戦闘能力はズバ抜けている。

 他者とは比較にならないのだ。

「……俺もいつか1stになれるかな」

 今日は出番の無かった剣を眺め、わずかながらも落ち込んだ気分にカツを入れる。

 やれやれ、情けねェ。

 ほれ、ミッションだってまだ終わったわけじゃないんだ。きちんと撤収まで終えて、はじめてミッション・コンプリートとなる。いつもアンジールに言われているじゃないか。

 

 ガガッ……ビビビ……

 

 おっと無線だ。

『ザックス、お疲れ』

「おう、カムラン。そっちこそ」

『地上は撤収に掛かっているようだな。俺たちもそろそろ引き上げた方がいいか?』

 ああ、そうだった。

 飛行部隊にも、撤収の指示を出さなくてはならないのだ。

 アンジールだったら、絶対に惚けていたりしないだろう。……やっぱし、俺はまだまだだな。

「ああ、視認できないのなら、もういい。飛行部隊全軍に帰航体制を取らせてくれ」

『了解。……おい、大丈夫か。大分疲れた声してるぞ』

「平気平気。悪いな心配かけて」

『同僚に気にしてもらえるうちが華だぜ〜』

「言ってろ」

 ……ブツン……

 カムランとの通信を切った瞬間だった。

 

「きゃあァァァァァ!!」

 という、高い悲鳴を耳にしたのは。

 

「クラウドッ!?」

 聞き覚えのある声。だが、クラウドの側にはセフィロスが居たはず。

 俺は背中の剣を手に、撤収途中の救護班を見回した。

 っつーか、まさかクソ英雄が変態行為に及んだのでは……!! というのは、さすがに行きすぎの考えだろう。

 なんといっても真っ昼間の海岸。しかもまだ引き上げの途中なのだから。

 

 セフィロスとジェネシスの活躍を見て、完全に殲滅したと油断した。

 今一度、海の様子を確認すべきだったのだ。

 

 水しぶきを上げ、長い首をもたげたのは仕留めたものより、一回りほど小ぶりのシーウォームであった。

 仲間を殺され、気が立っているのだろう。

 それほど好戦的な生物ではないはずなのに、海岸近くに伸び上がり、目についた少年に襲いかかろうとしていた。

 クラウドが、タオルを巻き付けたままの姿で、しゃがみこんでしまう。

 それを覆い隠すように、前に立ちはだかった男が居た。もちろん、シーウォームは何の躊躇もなく、サメのような歯をむき出し、躍りかかってきた。

 

 ……だが、相手が悪い。

 今、クラウドの側に居るのは史上最悪……もとい最強の英雄なのだから。

 

「この野郎ッ! 邪魔しくさりやがって!!」

 猛然と刀を抜くセフィロス。

 クラウドの前に立ち、そのまま前方に跳ぶ。

 シーウォームの頭部に達したかと思うと、銀の光が空を裂く。

 ……次の瞬間、緑がかった巨躯は仰け反り、いともたやすく水面に沈んだのであった。

 

 着地し、そのまま剣を仕舞うセフィロス。

 まるで何事もなかったかのようなたたずまいだ。

「大丈夫か、クラウド。可哀想に……驚いてしまったな」

 子猫を愛撫するように金髪を撫でるセフィロス。

「セ、セフィロスさん……すごいです。あ、た、助けてくださって、ありがとうございました!」

 クラウドは音が出そうなイキオイで頭を下げた。

「そんなことはどうでもいい。さぁ、早く着替えなければ風邪をひいてしまうぞ」

 もう一枚バスタオルを抱えて、小さな身体を抱きしめようとするセフィロス。

 

 ……だが、そんな英雄に致命傷を与えたのは、なんとクラウド本人であったのだ。

 

 シーウォームの襲撃で着替えかけのクラウド。

 当然、上半身は素っ裸だ。かろうじて、下に小さなタオルが張り付いているだけの状態なのである……

 ただ、それだけのことなのに。 

 もちろん、俺たちフツーの男にとっちゃ、どうということもない一風景だ。

 年下のガキの裸なんざ、寮で何度も見ている。当然何の感慨もないわけだが……

 

 ただクラウドは、普通の少年よりはかなり見目形が良い。

 ピンクがかった薄い胸に、なめらかな肩……細い腰から臀部にかけてはまだまだ子供同然。どこもかしこも幼いつくりなのであった。

 同室の俺でさえも「へぇ……」とばかりに見とれてしまう綺麗な肢体に、彼を特別視しているセフィロスが平静で居られるわけがなかった。

 

「クラ……」

「え、あ、あの……」

「セ、セフィロスさんッ? セフィロスさんッッ!!」

 

 マンガの書き文字でいうなら、

『ブ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!』

 だろうか。

 

 鮮やかな紅が、晴天を彩る。

 英雄の顔面から噴き出した鼻血は、見事な噴水形を型作っていた。

「きゃあぁぁぁぁ!! セフィロスさんッ! どうしたんですかッ!? ぶ、ぶつけたんですか!? ザックスッ! ザックス〜ッ!! セフィロスさんが〜〜っ!!」

 素っぽんっぽんで、泣きながら俺に向かって走ってくるクラウド。

 顔面を押さえて頽れるセフィロス……

 いつの間に戻ってきたのか、ジェネシスが小説片手に、腹を抱えて笑っている。

 

 ……ああ、やっぱ、いいや、俺……2ndのまんまで。

 いや、もうホントいいです。このまんまで。

 

 ……1stになったらこの人たちと永遠に付き合わなきゃならないですから……

 

 

「ザックス〜〜ッ!  セフィロスさんがっ! セフィロスさんがーッ!!」

「あ〜あ、セフィロス、ひどいなァ。今日、二日目ェ? あっはっはっはっ」

 

 無事、掃討作戦の終わった青空が、なぜか目に染みた五月の出来事であった……

 終わり