〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<13>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 セフィロスの背後で、いきなり頭を擡げてきたのは、おそらくさっきのヤツのつがい…… やつらは二体一対で行動する習性があるのだ。

「セフィロス! あぶないッ!」

 油断して手なんか振ってるからだ。頭からもろに水を被った彼は、一瞬長刀を構えるのが遅れた。

 だが……

 次の瞬間、たった今、姿を現したばかりのシーウォームも、ぐらりとよろけ、そのまま水しぶきをあげた。その少し後を追って、胴体と切り離された首が、グロテスクな鳴き声を上げ、海底に沈む。

「なッ……」

「あっはははは。面白そうだから、参加することにした」

 ブンと剣を振って水気を切るジェネシス。

 俺の目の前を横切った紅い影はヤツだったのだ。

「ジェ、ジェネシス〜、この野郎〜ッ!」

 いきり立つのは水をかぶった英雄だ。

「あーあ、セフィロス、ビショビショだな」

「てめェのせいだ! 貴様が邪魔さえしなければーッ!!」

「ええ〜、俺のせいなのか? いやぁ、参ったなァ、あっはっは」

「『あっはっは』じゃねェ! この変態詩人がーッ!」

「おい、よせよ、ふたりともッ! ミッションの最中だぞ! 海の中は危険だってば!」

 急いで浜に上がるよう促すと、セフィロスの蹴りに追い立てられるよう、ジェネシスの方から戻ってきた。

「なんだよ、危険って。まだ居るのか?」

 とのんきなセリフはジェネシス。

「いるっつーの! 知らないで来たのかよッ!」

 とヤツに返答してから、浅瀬に沈んだウォームの肉体を処理するよう修習生に命じた。

 これは難しいことではない。もともと水分が多く、ゼリー状の体皮をもつシーウォームだ。浜辺に引き上げ、炎天下に晒しておけば、勝手にひからびてしまう。後は自然に風雨に取り込まれるので、特に何かする必要はない。

 海に放置したままだと、水分が抜けず、漁の網を破ったりなど、被害が出る恐れがあるのだ。

「あと十数頭はかたいんだよ! 修習生急げ!」

 そんな俺の言葉をシーウォームが聞いたとは思えない。

 ……思えないのだが、それを合図に、海面が割れた。

 そう、まさしく『割れた』だ。

 

 ズバッ!ズバッ!

 

 と、まるで水銃を撃つような音と共に、次々と灰緑色の巨体が頭を擡げ始めた。同族が殺されたのに感づいたのだろう。動きや痛覚は鈍牛並でも、そういった感覚だけは鋭いのが厄介なのだ。

 巨躯に呷られた海水が、今まさに死骸を浜辺に引き吊り出していた修習生にも降りかかった。

「きゃあッ!」

「うわぁっ」

 悲鳴を上げると共に振り返り、間近に見るシーウォームの大きさに怯える修習生。

 俺は急いで、その一群に駆け寄った。こんな状況でパニックを起こされるのが一番怖い。

 現状、セフィロスとジェネシスというふたりの英雄が居るのだ。俺自身はシーウォームを相手にするより、慣れぬ修習生を動かすことと、ソルジャーたちが、迅速に対応できるよう指示することに専念しようと考えた。

「チッ……ウゾウゾと出てきやがって……!! おい、ジェネシス。わざわざ邪魔しに来やがったんなら、手伝って行け!」

「ひどい言われ方だなァ。じゃあ、行くか!」

 黒と紅の影が舞う。

 黒色のほうは、銀の長髪をしているから、時折それが光を受け、白銀に輝くのだ。

 

 虚空をふたつの長刀が舞うたびに、海に巨体が沈んでゆく。

 ふたりの英雄は、わざわざ包囲網なんざを作る必要もないほどに、圧倒的な力を誇示した。

 

 グオォォォォ……!!

 ブッュゥゥゥゥゥ!!

 

 大きな山が崩れてゆくように、次々と海面に伏していくシーウォーム。

 ……さすが、ソルジャー1st……いや、神羅の誇る英雄たちであった。

 

「……こんなところかなァ。あ〜あ、剣が汚れてそうで嫌だなァ。セフィロスは?」

「バカヤロウ! 剣士なら、てめェの刀くらい、しっかり面倒見やがれ!」

「だって、面倒くさいんだよな、手入れするのォ」

 呆気にとられている俺たちのところに、連中はくだらない言い争いをしながら戻ってきた。

「ザックス。どんな感じだって?」

 と、ジェネシス。一瞬言われている意味がわからなくて聞き返してしまう。 

「え……?」

「空から見てもらってよ。まだ群がいそう? 俺だけでも十頭近く倒したと思うけど」

「あ、ああ。そうか……」

 急いで無線をつなぐ。カムランはすぐに応答してくれた。

「カムラン。今……」

『おーう。さすが1stだな。あの数を一気に片づけるとは』

「それで、どうだ? まだ……」

『いや……こちらからは視認できない』

「そうか、わかった」

 無線を切ると、その旨をジェネシスに伝える。セフィロスにもいおうと思ったのに、なぜかヤツの姿は見えない。

 ……おいおい、ジェネシスでなくて、アンタのほうが正規のミッション参加者だろーが。

 ジェネシスに、処理の指揮を頼み、セフィロスの姿を捜しに行く。当然クラウドの近くをふらついているに決まっている。

 探索打ち切りの命を出し、駆除の確認と撤去を終えれば、ミッション終了だ。

 俺は早足で第五支援部隊の布陣に向かった。

 案の定、銀髪、黒コートの長身がいた。だが、ヤツは周辺をうろついているようで、目的の人物には会えなかったようだ。

「……クラウド ……クラウド」

 ブツブツといいながら、チョコボっ子の姿を捜している。

 ……もはや、『ストーカー』という言い方でさえも、かわいいレベルになっているような気がするのだが。