〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<27>
 ジェネシス
 

 

 

「じゃ、いい子にして寝てるんだぞ。夜にまた来る」

 立ち上がった俺に、セフィロスが少し慌てたように声を掛けてきた。

「ジェネシス。クラウドに謝っておいてくれ。側にいってやりたいが、医者どもが監視してやがる。病室から抜け出せねーんだ」

「…………」

「ぶん殴ってでも脱出しようと思ったが……さすがにマズイだろ」

「あたりまえだ ……やれやれ、わかったよ」

 そうとううんざりとした気分であったが、ここは怪我人相手に口論すべきところではないだろう。

 適当に請け合い、部屋を出ようとしたところ……だ。

 俺にとっては、あまり会いたくない相手と鉢合わせることになった。

 

「あ、ジェ、ジェネシスさん……! ご、ごめんなさい、おれ……」

「チョコボっ子……」

「ごめんなさい。面会謝絶って聞いて、居ても立っても居られなくなっちゃって……」

「クラウド!? クラウドなのかッ」

 当然、俺たちのやりとりは、ベッドの上のセフィロスにも筒抜けだ。彼は勢いよくベッドに起き上がると、すぐさまそこから降りようとした。

「セフィロス! 何をしているんだ、おまえは。痛み止めが切れかかっているんだろう」

 一瞬つらそうに顔をしかめた彼の身体を、俺はすぐさまとって返して支えた。

「……平気だ。放せ、ジェネシス」

「あ、あの……セフィロスさん。おれ……」

「クラウド、こっちへ……側に来てくれ」

 俺から半身を引き離すと、彼はまるで怪我などしていないような動作で、チョコボっ子を迎えようとした。

「ハ、ハイ。でも……面会謝絶って、ザックスから聞いて。彼もすごく心配していました」

「クソハリネズミはどうでもいい」

「え?」

「いや、なんでもない。そうか、医者のヤツが安静安静ってうるさくてな。おまけにひっきりなしに見舞客が来そうなもんで、適当にごまかしておいただけだ」

 椅子を勧められるが、チョコボっ子は頑なに突っ立っている。

「でも……」

「いいから、ここに来て座れ」

「い、いえ。すぐに失礼いたします。おれ……すごく心配で、昨日もあんまし眠れなくて……だから、せめてお顔だけでも、みた……拝見したかったんです。だから、もう、十分です。会っていただいてありがとうございました! どうかお大事になさってください」

 ぴょこん!と勢いよく頭を下げると、チョコボっ子は入ってきたときより大慌てで病室を出ようとした。

 

 

 

 

 

 

「クラウド、待て!」

 セフィロスが腰を浮かせる。

「あ、あらためて、治られたらご挨拶に伺います!」

 チョコボっ子は、舌足らずの物言いでそう付け加えた。

 セフィロスの怪我は、もちろんチョコボっ子のせいなどではない。だが、自分が何の役にも立たないどころか、その存在が足手まといになったという自覚があるのだろう。

 

「おい、クラウド! 話を……!」

「ほ、本当に……迷惑かけてごめんなさい……! おれ、いつもセフィロスさんに面倒ばかり……」

 クラウド少年は、今にも泣き出しそうな風情で頭を下げる。これでは困惑しきったセフィロスの顔も認知できていないだろう。

「チョコボっ子。ちょっと落ち着きなさい」

 俺はぽんぽんと小さな頭を叩いた。膝に頭が付きそうなほど、半身を折り曲げている今の姿ではまともに話もできない。

「まず、ひとつめね。セフィロスの負傷はおまえのせいじゃない。勤務時間外で丸腰だったというだけでも、多勢に無勢のテロリスト相手には十分不利な要件だったよ」

「ジェネシスさん……」

「ふたつめ。セフィロスは軍人として民間人を守ったんだ。……おまえは、神羅の社員だが、まだ子供で修習生という身分だ。あの状況で奴らに逆らい闘うと選択するのは、他人の手を借りた自殺と変わらない。その点、おまえは賢明だったとさえいえる」

「…………」

 クラウド少年は、大きな目に涙を一杯に溜めながらも、じっと俺の言葉に耳を傾けた。

「みっつめ。セフィロスのほうが、おまえを守り切れなかったことを強く悔恨している。自分の都合で呼び出して、楽しい夜をすごそうとしていたのに、怪我を負わせたことを悔やんでいるんだよ」

「そんな……おれ……」

 ようやく、チョコボっ子は、身を起こしかけてそのままのセフィロスを見つめた。さきほどまでは錯乱状態で、見舞いに来たにもかかわらず目線すら合わせていなかったのだ。

 

「ほら、セフィロス。この子に話があったんだろ? あの夜は、もともとそのつもりでセッティングしたんだもんな」

「あ、ああ……その……オレは……」

「俺は外してやるから、ゆっくりふたりで話せばいい」

「お、おい、ジェネシス。いきなりかよ?」

 さきほどまで、アンジールやラザード相手に横柄な態度をとっていた男とも思えない。

 かくも恋とは不思議哉。

 この強い人間を……なんでももっているこの伝説のソルジャーを、ただの男にしてしまうのだ。

 ああ、いや、それはセフィロスだけのことではない。

 

 きっと俺も……

 地下室の女神が目を覚まし、俺に微笑みかけてくれたのなら……おそらく誰よりも恋に捕らわれた愚鈍な男に成り下がるのだろう。

 

「チョコボっ子。セフィロスがおまえに話があるそうだ。後のことは頼んだぞ」

 不思議そうな面持ちではあったが、クラウド少年は『後を頼んだ』という言葉に、しっかりと頷き返した。この勘違いっぷりではセフィロスも思いやられることだろう。

「じゃあな、セフィロス。健闘を祈る」

 最後にひとこと親友的なセリフをプレゼントし、ようやく病室を後にしたのであった。