〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<28>
 ジェネシス
 

 

 

 セフィロスが想いを遂げるのはまだ先になりそうだが、気持ちを告げるチャンスはやってきた。

 これまで、欲しいものは何でも手に入れてきたセフィロスだ。

 きっと、チョコボっ子も、あの強気で傲慢で我が儘な男を、いずれは愛するようになるだろう。

 ……もっとも、それには少々時間がかかるであろうが。

 

(ねぇ、女神。もし、君が目覚めて、俺たちの前に現れても……頼むからセフィロスだけは好きにならないでくれよ。あいつと決闘するのだけはカンベンだ……)

 独りごちて、ひとりで笑う。

 

 セフィロス…… 

 彼と初めて出逢ったのは十代の半ばだ。

 幼い頃からずっと大切にしていたものを、ひょいと横からかっさらわれた気分だ。

 チョコボっ子をさらおうとしているのはセフィロスのほうなのだから、俺がそんなふうに感じるのはおかしいのかもしれない。

 だが、今、この胸をすり抜ける、言葉にしがたい寂寥感は、しばらくの間、俺の内奥に住み着くつもりらしかった。

 

「誰が女神だって?」

 統括室の前を通り過ぎようとしたとき、中から掛けられた声に、不覚にもびくりと反応してしまった。

 思いの淵に沈んでいるときに、話しかけるのはやめてもらいたいものだが、目の前の彼はそんな機微に長けた男ではない。

 ソルジャー部門の人事統括、ラザードだ。

「おやおや、盗み聞きとは悪趣味だね。君は紳士だと思っていたのだが」

 ひょいと両手を挙げて、やや嫌みっぽくそう言ってやった。

「私は十分おのれを紳士だと認識しているがね。それよりちょっとこちらへ……入ってくれたまえ」

 この程度でへこたれるラザード統括官ではないのだ。彼はあからさまに『不愉快』を顔に表している俺にかまうことなく、統括室へ手招きした。

 

「すまないね、ジェネシス。セフィロスにつきっきりで疲れているのに」

「嫌みを言いたいのなら他を当たってくれ。アンジールに執務室に戻ると約束してしまったのでね。君と陰険漫才をしている時間はないんだよ」

 いつもならこんな直球を投げはしないが、今は少々虫の居所の悪い。

「話があるなら手早く頼む」

「そうか、それは残念。で、セフィロスは安静にしているのかね」

「……さぁ、どうだろう。珍客がおでましなので、いささか興奮気味かも」

「おいおい、表向きは面会謝絶だろう」

「仕方がないさ。セフィロスの想い人が自分の方から見舞いにやってきたのだから」

 天然アンジールとは異なり、ラザードはうっすらと感づいているのだと踏んでいる。

 セフィロスが男女お構いなしに玄人相手にしていたのは周知の事実だし、本気の恋愛相手が同性だったとしても不思議なことではない。

 

 

 

 

 

 

 統括官はくいくいと銀縁メガネを押し上げると、わざとらしく咳払いをした。

「あー、その、やっぱり、セフィロスはその……アレなのかね?」

「『アレ』って何? それじゃまるで女の子同士の生理の話みたいだよ」

「茶化さないでくれたまえ。……セフィロスが修習生の男子に懸想しているといううわさは本当なのか?」

 『懸想』とは……そう年でもないのだが、ずいぶんと古めかしい言い回しをする。

「うわさねェ……うわさはうわさで放っておいたらどうだい?」

「そうしたいのはヤマヤマなのだがね。統括という立場としては、問題を起こされては困る」

「問題? 問題というのは、副社長のヤキモチのことかい?」

「む…………」

 案の定図星だ。やっかいなことに、セフィロスへの執着の強い副社長は、チョコボっ子のことを目の敵にしている。

 ……しかし、いかに目の敵にしようとも、一般の修習生と副社長という身分の違いでは、ほとんどふたりに接点はない。それゆえ、こうしてセフィロスへの直接命令権がある、ラザード統括を取り込んで牽制しているのだ。

「例え、副社長であろうと統括官であろうと、自由恋愛にまで口出しする権利はないと思うけど?」

「わ、私が言っているのは副社長がどうのということ以上に、相手は未成年だろう! 万一、セフィロスが無体な振る舞いをした場合、訴訟問題に発展する恐れだとて……」

「ああ、それは大丈夫。あの子相手にセフィロスが無理矢理っていうのはあり得ない。もし、特別な関係になるとしたら、チョコボっ子も同じように想っていた場合のみだ」

「チョコボっ子……?」

「金髪フワフワのクラウド・ストライフ少年のことだよ。なかなかいいネーミングだろう?」

 と、言ってやると、ラザードは眉をしかめた。

「……つまり、君はセフィロスに反対はしないと……」

「さっきも言ったとおり、反対も何もない。プライベートだ。副社長が口を挟めば、切られるのは、クラウド少年ではなく、『神羅カンパニー』だよ」

 チョコボっ子のおたふく発症事件のとき、セフィロスはハッキリと口にしている。

 彼の行動に口出しするのなら、会社をやめる、と。

「ラザード、君も恋をしたことくらいあるだろう? 他人に口出しをされて快しとしたかい? 人に言われて簡単にあきらめられるのなら、それは本当の恋ではなかったんだよ」

 年長の統括官は、尚も小難しい顔つきをしていたが、俺は少し偉そうに言い残して退室した。