〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<21>
 セフィロス
 

 

 

 

 ……だが、どうする。

 いつまでもこの状態ではいられない。

 はじき飛ばされた衝撃で、クラウドは足下もおぼつかない状態だ。その彼を抱えて、銃を持ったテロリストどもをやり過ごすのは厳しい。

 オレ自身、さきほど打ち付けた側頭部の痛みも、徐々に激しくなってきている。

 ズキンズキンとこめかみに響いてきて、視界が揺れるようだ。

 

 ……ダメだ、気を抜くな。

 相手もこの道のプロだ。半数は負傷しているとはいえ、もう半分は無傷で外に居る。

 唯一、オレにとって有利なのは、未だ外にいる連中が、中での出来事に気付いていないということだけだった。

 もし万一、不穏な空気を察せられ、残り十名近くで雪崩れ込んでこられたら、クラウドを守りきるのは難しくなる。

 

「セフィロスさん……」

 クラウドが心細げに、ぎゅっとオレの服を掴んだ。可哀想に、床に倒れ込んだときに傷つけたのだろう。細い指まですりむけて血が出ている。

「大丈夫だ。……おまえのことは必ずオレが守る。必ずだ」

「…………」

 安心させてやれるよう、力強く励ますが、なぜかクラウドは俯いて押し黙ってしまう。上から見下ろすと、長い睫毛が露を含んでキラキラと輝いていた。

「怯える必要はない。オレが着いているだろう?」

「……なさい……」

 聞き取れないほど、小さく翳んだ声でクラウドがつぶやいた。

「どうした? 傷が痛むのか?」

 オレの言葉に頭を振る。

「ごめ……なさい。おれ……足手まといに……なっちゃって…… おれのせいで……セフィロスさん……あんなひどいこと……」

 今度こそ、クラウドはボトボトと惜しげもなく大粒の涙をこぼした。次々に床に落ち、水たまりを作ってゆく。おおげさな話ではなく、本当に水たまりの出来る勢いで、滴り落ちていった。

 クラウドは傷の痛みや恐怖で泣いていたのではない。オレの怪我を心配してくれているのだ。そして、おのれが足手まといになって、この事態を招いたのだと……一方的にそう考えている。

「大丈夫……大丈夫だ、クラウド。この程度の傷、何ともない。おまえはやさしい子だな」

「ご、ごめんなさい……! お、おれ、歩けます! セフィロスさんの指示通りにします。頑張りますから……!」

 いつまでもこうして座り込んではいられないと、クラウド自身も理解しているのだろう。

 擦りつけて真っ赤になった頬をしたまま、キッと顔を上げた。修習生とはいえ、この子だとて神羅の兵士を目指しているのだ。その自覚と意気が今のクラウドを支えている。

「よし、いい子だ。ゆっくり立て。オレの側から離れるなよ」

 連中から取り上げた銃を、油断なく構えつつクラウドを促す。机や床を巻き添えに突っ込んだとき、足を痛めたのだろう。つらそうに眉を寄せたが、泣き言ひとつ言わず、彼はきちんと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「……貴様ら。今、この場で死にたくなくば、指一本動かすな。余計な音を立てれば、即座にあの世行きだ」

 室内をぐるりと一望し、床で這いつくばっている輩にそう告げる。

 胃の辺りに、抑え込まれるような鈍痛を感じる。到底形勢逆転とまではいえないが、身体が自由になったせいか、これまで感じなかった痛みを自覚するようになったらしい。

「クラウド。オレの後ろから出るなよ、いいな?」

 そう念を押し、彼がしっかりと頷いたのを確認して歩みを進める。

 リーダーを始め、室内の連中は身動きとれぬよう、四肢の一部を撃ち抜いている。自業自得とはいえ、出血のひどい輩も居て、クラウドは恐ろしげに顔を背けた。

「セ、セフィロスさん……」

「気分が悪くなるだろう。おまえは向こうを向いていろ」

「だ、大丈夫です……! おれ、平気ですから!」

「いい子だな。さすが、男の子だ」

 そう言ってやると、彼はほんの少し微笑んだ。

 失神している輩を確認し、意識のある者どもの武器を取り上げる。

 文字で書けばこれだけのことだが、小さなクラウドを守り、負傷した身体でこの作業を行うのは骨が折れた。

 ぎしぎしと悲鳴を上げる肉体をごまかし、胸部から腹部へかけての不快感をやり過ごし、周囲の状況を再度確認する。

 外に出ている連中は、一定の距離を保って、この店の周囲を巡回している様子だ。

 おそらくリーダーからの合図があるか、あらかじめ定められた時間までは、外にいるのだろう。

 ……不本意だが、この場で連中すべてを生かしたまま捕獲するのは不可能だ。

 なにより優先されるのは、クラウドの身の安全……そう考えれば、タイミングを見計らい闇に紛れて退避すべきだろう。

 店の窓から身を逸らせ、近くに転がっていた椅子を押しのける。

 夜目が利くオレではあるが、明るい店内からでは、外の様子がはっきり見取れるわけではない。

「だが、待避経路は見切らねば……」

 クラウドはじっと息を殺し、オレの側にくっついている。

 まさか、こんなとんでもないことに巻き込むことになろうとは、ほんの数刻前まで考えもしなかった。

 紅く腫れた頬と、切れた唇が痛々しい。

「クラウド……もう少しの辛抱だからな」

「お、おれのことはいいんです。でも、セフィロスさんのほうが心配です。……すごく顔色が……」

「フ…… オレの身体は頑丈にできている。この程度ではビクともせん」

 慣れない笑みを浮かべながら、ヒヨコのような髪を撫でてやった。

 だが、オレのセリフは半分強がりでもあった。闘ってこいつらに負けるという意味ではなく、側頭部を打ち付けたときのめまいが消えてくれないのだ。

 クラウドのさきほどの指摘は正しかったのだ。めまいと軽い吐き気…… 脳しんとうを起こしている可能性がある。

 ……もっとも、そんな呑気なことを言っている場合ではない。

 とにかく脱出だ。

 この子を無事、安全な場所を送り届けること……今は、それだけを考えよう。

 

 ふたたび、店の外に注意を向けたとき、椅子がすさまじい音を立て、窓ガラスを破った。

 

 床に伏しつつも、してやったりと悪辣な笑みを浮かべたのは、テロリストのリーダーだ。

 クラウドの目の前であったとしても、この男を殺しておかなかったことを心の底から後悔した。