〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<22>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 最後の力で、ぶん投げられた木造の重厚な椅子は、夜闇を劈くような音を立て、ガラスの破片を辺り一面に散らせた。

 投げた張本人にも容赦なく降りかかるが、ヤツはそれを避けさえもしなかった。

 にたりと唇をひん曲げて、不遜な笑みを浮かべた。

「この野郎……」

「フフフ、すぐに外の連中がやってくる。貴様はもう終わりだ」

 すぐさま店の外に、人の気配が集まった。さっきの轟音が合図となって、周囲を張っていた部下共がやってきたのだろう。満身創痍でありながら、重い椅子をぶん投げただけの見返りはあったということだ。

「セ、セフィロスさん……」

 クラウドが小さな身体を震わせ、オレの側にぴたりと身を寄せた。

「大丈夫だ、クラウド。オレを信じろ」

 その言葉を遮るように、リーダーの嘲笑が飛んできた。

「フハハ! 俺さまの勝ちだ、銀の髪の悪魔め! その怪我で……おまけにガキ連れで応戦なんざできやしねぇ! しょせん、神羅の英雄もこの程度よ!」

「……黙れ」

「おう、かまわないぜ? もうわざわざ大声を上げる必要もなくなったからな。時間の問題だ!」

 足からの流血で、ゼイゼイと荒い息を吐きながらも、リーダーは憎まれ口を叩いた。

 

 ……ゴト……

 

 玄関扉の向こうで音がした。うっかり軍靴を木片にでも引っかけてしまったような低い音だ。

 割れた窓からも、人の気配を感じる。

 

 ……どっちだ?

 ヤツらはどっちから、飛び込んでくる?

 

 意識を保て……! 精神をとぎすませろ……!

 一瞬の判断ミスが命取りだ……!

 

 ズクズクと脈打つこめかみが、ひどく痛む。気を抜くとすぐに眩暈の襲ってくる身体に鞭を打つ。

 今のオレには重く感じる機関銃を肩にかけ直し、扉と窓の両方から間合いを取った。

 クラウドを、両方から死角になる場所へ移動させる。彼は言われたとおり、倒れたテーブルの向こう側に潜り込んだ。

 その位置ならば、どこから飛び込んでこられても、即座に目につくことはない。

 

 

 

 

 

 

 ほんの数秒が、何刻にも感じられた。

 バァンと音を立てて、重厚な扉が蹴り開かれた。

 オレは横飛びに身を伏せつつ、銃を構える。無駄弾を撃つわけにはいかない。手持ちの武器はコイツひとつなのだから。

 

 だが……

 そこに待っていたのは予想外の展開だったのだ。

 

「セフィロス……! セフィロスッ!」

 第一声は聞き慣れた同僚の声だった。

 オレは機関銃の引き金に指をかけたまま、呆けたように片膝を付いていた。

 視覚においては、即座に現状を認識していたが、頭で理解するのに時間がかかった。

「ジェ……ジェネシス……? おまえ……」

「セフィロス、大丈夫か!? おい、救護兵!」

 ジェネシスが素早く駆け寄ると、オレの身体を支えてくれた。すぐさま医師を呼ぶよう、兵士に言いつける。

「オレのことはいい…… それより、クラウドを…… 殴られた傷が痛んでいるはずだ……早く……!」

「大丈夫だ。あの子のこともすでに保護している」

「そう……か? よく見えな……い」

 緊張が解けたせいなのだろうか。急に視界が霞んできた。

 バカな……変態詩人の前で倒れてたまるか! 後からほじくり返して笑われるに違いない。

 それに、やはりクラウドの無事な姿を見たかった。

「テロリスト連中も確保済みだ。安心してくれ。ほら、俺につかまって。応急処置をするから、そこのマットに横になってくれ」

「大事にするな。オレは……なんともない」

「意地っ張りも大概にしないか! 武器もなくたった一人で応戦して、民間人を脱出させたんだろう。ソルジャークラス1stとして、十分なシゴトだ。後は俺たちに任せろ」

 妙に必死の形相でジェネシスが言う。そんなにオレはみっともないザマになっているのだろうか。

「……クラウドが……心配だ。クソテロリストの野郎に、一発殴られたんだ。あの子はあんなに小さいのに……可哀想なことを……」

「セフィロス……」

 くしゃりとジェネシスのヤツが顔を歪めた。男のクセに、妙に色気のある整った容姿が、なんだかひどく苦しげに見えたのだ。

「チョコボっ子は大丈夫だよ。本当に心配ないから」

「だが……医者はなんと言っている? 打ち身もひどいはずなんだ。身体ごと吹っ飛ばされて……」

 軽く請け合うジェネシスに苛立ちを感じ、オレは尚もクラウドのことを口にした。

 あの小さな子が、粗暴なテロリストに殴り飛ばされたのだ。オレのような頑丈なガタイを持っているわけではないのだから、ダメージは計り知れないはずなのだ。