〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<20>
 セフィロス
 

 

 

 胸ぐらを掴み上げられ、身体がぐんと引っ張られる。

 どれほど痛めつけられようと、クラウドに手を出させるわけにはいかない。

 ……必ずチャンスはある。それまで、精神を持ちこたえさせるのだ。その千載一遇の好機を手中にするには、冷静な判断力が必要なのだから。

 

「やめてってば! セフィロスさんに触るな! おれを放せーッ!」

 クラウドの悲鳴じみた叫び。

 目の端に、必死にみじろぎしている小さな身体が写る。チョコボの雛とはよくもいったもんだ……

「セフィロスさん! はなせ、はなせこの……ッ!」

 あろうことか、クラウドは背後から腕を回している男の手に、いきなり噛み付いた。

「うおッ!」

 渾身の力を込めたのだろう。いかにガタイがよい野郎でも、指を噛みしめられてはたまらない。ヤツは熱いものにでも触れたように、クラウドを羽交い締めにしていた腕を放した。

「おい、バカヤロウ、何してやがる!」

 リーダー格の男に叱りつけられ、そいつは慌ててクラウドの前に回り込んだ。

「……どけよ! セフィロスさんの側に行くんだ!」

「このクソガキ! だまりやがれッ!」

 気の短い輩が、いきなりクラウドを殴りつけた。小さな身体は為されるがままに吹っ飛び、勢いよく店内の机や椅子を道連れに床に倒れ込んでしまう。

「クラウド……ッ! 貴様ァ……ッ!」

「神羅に関係ないガキとは言っても、英雄殿の知り合いとなりゃ話は別だ! 抵抗する気がなくなる程度に、痛めつけてやれ!」

 クラウドは床に倒れ伏したまま、必死に身じろぎしている。もともと華奢な作りの子に、さきほどの一撃は大ダメージだったのだ。

 あの子を殴りつけた野郎が、リーダーの命で、砕けた食器だの、テーブルだのを押しのけてふたたびクラウドのところへ向かう。

 もう一度、彼を押さえられたら終わりだ。もうこれ以上はクラウドが保たない。

 

 一瞬の隙を突き、オレは渾身の力を振り絞って、背後の男の顔面に後頭部を打ち付けた。

「ぎあッ!」

 そいつは、女のような情けない悲鳴を上げ、よろりとよろけた。緩くなった戒めをとき、続けざまにもうひとりの脇腹を肘で打つ。ふたりの大男が、ずるずると背後で倒れて行くのを感じながら、目の前に立つ男を蹴り飛ばした。

 リーダー格のその男は、挽き潰されたカエルのようなうめきを上げ、肩から壁に突っ込んでいった。

「くそ……! この野郎…… セフィロス〜ッ!」

 二三本、歯が吹っ飛んだのだろう。

 そりゃそうだ。百戦錬磨のテロリストとはいえ、こいつらの脚力とオレとでは雲泥の差だ。

 機関銃を取り上げ、一気に引き金を引く。クラウドに向かっていった男の足を撃ち抜き、続けざまに、オレを押しとどめていた者どもにも、急所を外して喰らわせてやった。

 全員、即座にぶっ殺してやりたいところだが、外にも連中の仲間がいるし、引っ括っていって色々吐かせることもある。

「ぐおぉぉ! おのれ……セフィロス……おのれ〜!」

 大腿部から派手に出血させていながらも、リーダーはオレをにらみつけて咆吼した。

「貴様もたいがい頑丈に出来ているようだな。だがオレの敵じゃない」

「おのれ……! だが、外には銃を持った仲間がいるんだぜ。満身創痍の貴様が、あのチビを連れて逃げられると思っているのか……!? あのガキを狙えば……」

「黙れ。……このまま、体中にぶち込んでやろうか?」

 オレは機関銃を、野郎の鼻先に突きつけ、静かに言った。

 唇の端が切れているのか、大声を上げるとひどく痛むのだ。

「ク、クソ……!」

「足とはいえ、その傷口じゃ、下手に動けば出血多量でおだぶつだ」

 そういい置き、オレはクラウドの側に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

「……クラウド!」

「セ、セフィロスさん! お、おれ……おれ……」

 そう言うと、小さな身体を丸め込み、激しく咳き込んだ。その拍子に紅い血が唾液に混じって床に落ちた。

「クラウド……大丈夫か? クソ……オレが付いていながら……」

 歯がみする勢いのオレに、まだまだ戦意を喪失していないらしいテロリストの大将が、じりりと忍び寄る。片足を撃ち抜かれているのに、その執念だけはみごとなものといえよう。

「だ、大丈夫です…… おれなんかよりセフィロスさんが……」

「泣くな、クラウド。オレは何ともない」

 そういいながら、手を差し伸べる。

「立てるか、クラウド? 中の連中はほとんど動けなかろうが、外にはまだテロリスト共がたむろっている」

「そうさ……! 貴様らを生きてここからは出さん! 差し違えてでも殺してやる!」

 背後でリーダーの男が怒鳴った。掠れた声はほとんどひっくり返っていて、常軌を逸しているようにも感じられた。

「……黙れ。おまえも、おまえの部下ももう動けない。おかしな素振りをしたら、この場で射殺する」

「ケッ! 生かして捉えて何か吐かせようってんだろ! てめぇら、神羅はいつでもそうだ!」

「常ならば必要な情報を入手するのが最優先だ。だが、今のオレの優先順位はそうじゃない。これ以上、この子に危害を加えようとするなら、オレは遠慮無く引き金を引くぜ。幸い機関銃だ。弾はまだまだ残っている」

 クラウドを片腕で抱きかかえ、オレは銃を構えた。脅しではないと伝わったのだろう。野郎はグッと喉を鳴らせ、口を噤んだ。