〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<18>
 セフィロス
 

 

 

 と、そのときだったのである。

 

 ガシャーン!ガシャーン!という、次々に皿やグラスが砕ける音。

 間髪入れず、バリバリバリバリと機関銃が咆吼した。オレはほとんど条件反射のように、クラウドを抱き込み、床に伏した。

 目の前に割れた食器の破片が飛んで落ちる。

「きゃっ!」

「大丈夫だ、クラウド。顔を上げるな」

 小刻みに震える頼りない身体を懐に抱き、オレは注意深く周囲を見回した。

 同じように床に倒れ伏している輩は多いが、負傷している様子はない。せいぜいが破片で怪我をした程度だ。

 ……『威嚇射撃』……

 プロの仕業だ。おそらくはウータイの残兵……いや、アバランチかテロリストか?

 神羅カンパニーには、敵が多いのだ。

 

「全員、その場で立て! テーブルを離れるな!」

 ガチャッと銃を構える音がして、ガタイの良い男が叫んだ。おそらくこいつらのリーダーだろう。

「きっ、君たち! 何の真似だ! 僕らは何の関係も……」

 近くのテーブルに居た優男が取り乱して叫んだ。連れの女がそいつの背広にしがみついてガタガタと震えている。恋人の前で格好をつけたい心情は、この上なく理解できるが相手が悪かった。

 

 ガゥンッ!

 と、銃が咆吼し、その男の足下の床板がはじけ飛んだ。 

 

「一般人を傷つけるつもりはないが、抵抗すればその限りではない。静かにしてもらおう」

 ドスのきいた声で、リーダー格の男が告げた。

 驍ニ肉の盛り上がった二の腕を肩口まで捲り上げ、鈍く光る機関銃を背負っている。とうてい、あの優男の叶う相手ではない。

「用があるのは、神羅カンパニーの関係者だけだ」

 無精ひげを擦り上げ、リーダーが唸る。

「一名ずつ糺して行く。正直に答えてもらおう。もし何か不穏な動きをすれば、その場で鉛の弾を喰らうことになる」

 奧のテーブルで女がひとり気絶した。わずらわしげに、それを外に出せと手振りで命ずる。

 ……なるほど、こいつらにもテロリストとしてのプライドはあるようだ。

 民間人には手を出さないというポリシーを貫き通してくれるなら、オレとしても動きやすい。

 

 

 

 

 

 

「……おい、貴様ら。神羅の関係者はオレだけだ。他の連中は一般客。オレのツラに見覚えはあるだろう」

 あちこちのテーブルから、『セフィロスだ』『セフィロス……』というつぶやきが聞こえる。売名行為をしているわけではないが、ソルジャークラス1stとしてのオレを知る輩は多い。特にこのミッドガル周辺では。

「セ、セフィロスさん……」

 クラウドが不安げに見つめてくるが、それを目線で宥め、言葉を続けた。

「一般人を解放してもらおう。話はそれからだ」

「セフィロス…… ああ、そうだ。話があるのは貴様だ、セフィロス……! この銀髪鬼が!」

 血走った目で、こちらをにらみつけるリーダー。

「ここで貴様に出逢えるとは我らが同胞の導きだ! セフィロス以外の輩を全員建物の外に出せ!」

 機関銃を構えたまま男が命じた。こいつらの仲間はせいぜい15、6人。

 建物の中にはその半数が居る。残りの連中は外を見張っているのだろう。

 

 出入り口に近い席から、乱暴に外に追い立てて行く。

 もっとも、どんな物好きであろうとこの場に滞在したい輩がいるはずもなく、テロリストどもの誘導に従って、大して多くもなかった客連中は流れ出すように出口へ向かった。

 

 ……さて、どうするか。

 銃を持っていてもサシでやり合えるなら勝算はあるが、室の中だけでも武装したテロリストが五、六人はいる。しかも半数は飛び道具を構えている。下手な動きはできない。

 なんせ、今日は非番……ナイフがひとつ、ベルトに仕込んであるだけで、丸腰も同然なのだから。

「そら、巻き添えを食いたくなければ出て行け」

 次から次へと民間人が追い立てられ、最後にオレとクラウドだけが残った。

「おい、セフィロス。その連れの者は……」

「この子は民間人だ。先に外に出してやってくれ」

 オレはそう言った。泣き出しそうな眼差しで見上げてきたクラウドに、安心するよう頷き返す。

「民間人? なぜ一般人のこんなガキが貴様と一緒にいる?」

「ソルジャーは民間人と関わってはいけないのか? この子は神羅とは関係ない。プライベートでの付き合いだ」

「ケッ、よし、ガキ出ろ!」

 小山ほどもありそうな無骨な男が、クラウドの細い腕を乱暴に引いた。

 ……こんな場面でなければ、生まれてきたことを後悔するほどに、殴り倒してやるのだが、今は我慢するしかない。クラウドのためなのだ。

 この子さえいなければ、どれほど暴れようと問題はない。丸腰のオレも無傷ではいられなかろうが勝算はある。

「おい、ちょっと待て」

 声を掛けたのは、リーダーとおぼしき野郎だった。ギラギラと血走った目が、怯えきったクラウドを睨め付ける。

「そのガキ…… 神羅の英雄殿と一緒にいたということは、社員でなくとも、友人か……顔見知り程度ではあるわけだ」

「お、おれは……」

 震えるクラウドの声に、オレはすぐさま言葉を重ねた。

「無関係の子供だ。早々に解き放て」

「いや…… むしろ、そのガキが居た方が良い。英雄殿とて、知り合いの子供を人質に取られれば、無茶なことはできんだろうからな」

 茶化すようにそういうと、リーダー格の男は、いきなり銃身を武器に殴りかかってきた。

 寸でのところでそいつはよけたが、残った男共が、背後からオレを羽交い締めにした。ご丁寧にふたりがかりでだ。

「セフィロスさんッ!」

「動くな、クラウド! おとなしくしていろ」

 そう言いつけた瞬間、ガッと顎に衝撃を喰らう。殴られたと自覚する前に、続けざまに腹に蹴りが食い込んできた。

 無様に胃の内容物を吐き散らさぬよう、オレは腹筋に力を込める。

 クラウドの悲痛な叫びが、店の中に響き渡った。