〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<16>
 ジェネシス
 

 

 

 子供というのは、本当に幸せそうに物を食べるのだな、と思った。

 俺の場合、日常生活で、あまりこの年頃の少年と一緒に行動することがない。まだ修習生である彼は、14、5才だと思われる。

 ザックスのように、二十歳前にソルジャーになった人間たちとは、それなりに付き合いがあるが、修習生とは接点がないのだ。

 それゆえ、目の前でうれしそうに食事をするチョコボっ子は、俺にとって、めずらしくも愛らしい動物にしか見えなかった。

 

「チョコボっ子、美味しいかい?」

 答えはわかっているが、ついそう訊ねてしまう。

「はい! とっても美味しいです! こんなに素敵なゴハン、食べたことありません! こんなお店も初めてです!」

「フフフ、そう、それはよかったね」

 いかにも子供らしく愚直に答える様は、かえって気持ちがよいくらいだ。この年齢くらいになれば、そろそろ斜に構え、格好付けたくなるものだが、田舎町出身のチョコボっ子には、まったくそのような素振りは見られなかった。

「クラウド……どうして私に言わないのだ。おまえが行きたいのなら、いつでも、どんな店でも連れて行ってやるのに」

 セフィロスがひどく不満げにつぶやく。

 ……なんというか、我が親友ながら、現状認識が著しく欠けている部分があるのだ。

 修習生のチョコボっ子が、VIP扱いの英雄相手に、どこそこの店に連れて行ってくれなどと要求できようはずもないのに。

「え、そ、そんな! ダメです。悪いです。おれ、まだ修習生なんだし、ゼータクしちゃダメだって、ザックスも言ってました」

「チッ……あのクソハリネズミ……」

 セフィロスが、クラウド少年に気付かれないように毒づく。

 ザックスから訊いたのだが、彼はチョコボっ子と懇意になるための第一歩として、『頼りになるお兄さん』ポジションを狙っているらしい。

 あくまでも紳士的かつ、フレンドリーであり、包容力のあるところを見せたいというのだ。確かにチョコボっ子の前では、一人称も、いつもの「オレ」ではなく、「私」になっている。

 クラウド少年は気にも留めていなかろうに、そんなセフィロスの努力は、どこか的外れで、可愛らしくも感じるのだ。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなの三人組であったわけだが、思いの外会話は弾んだ。

 きっと、セフィロスの独壇場になると予測していたのだが、案外、そんなことはなかったのだ。

 辿々しいながらも、クラウド少年は、自分自身のことを話してくれたし、やはりソルジャーに憧れて神羅に入社したという経緯があるからだろう。

 これまで、俺たち、ソルジャークラス1stが経験した現場の話などは、ひととおり聞き終えても、次から次へと質問をしてきた。もちろん、おもしろ半分ではなく、至極真剣にだ。

 子供相手は苦手な俺ではあるが、真摯な眼差しで見つめられると悪い気分になるはずもない。

 途切れることなく話ながら食事をしていたせいだろうか。

 セフィロスとふたりで外食に出る時の、倍以上の時間がかかっている。

 チョコボっ子が、デザート前に中座したのを見計らって、となりのセフィロスに声を掛けようとするが、彼の面は始終緩んだままだ。

 いつもは意志的にきりりとつり上がった眉が、ややハの字に近くなっており、切れ長の双眸がやに下がっている。

 彼にこんな顔をさせているのが、あの小さな少年だと思うと、一度は治まった嫉妬に似た感情が、ふたたび沸き上がってくるような気がした。

 念のために繰り返すが、嫉妬の感情とはいっても、セフィロスがチョコボっ子に寄せるような思いではない。なんだか今まで側についてずっと大切にしてきたものを、横合いから盗られるような、子供じみた感覚なのだ。

 

「セフィロス」

「…………」

「セフィロス、ってば」

「え、あ、なんだ?」

 どこか夢見心地な様子の彼は、俺の呼びかけに驚いた様子だった。

「やれやれ、ずいぶんと恋愛ボケしているみたいだね」

「ふぅ……なんとでもいえ。ああ、やはりクラウドは可愛いな。くるくる変わる表情も愛らしいし、フォークを口に入れたまま、なにやら考えている素振りをするのも、リスみたいで可愛い」

 チョコボっ子を形容する言葉に、『可愛い』という単語しか見つからないのか、セフィロスは同じセリフを何度も繰り返した。

「それはよかった。……自称親友としてはおまえの役に立てたかな?」

「自称な。今回のシチュエーションは上出来だ」

「そうか。……じゃ、そろそろ俺は消えるから」

 当初の予定通り、そう告げる。そもそも今日の目的は、チョコボっ子への告白なのだ。

「今が一番タイミング良さそうだ。……あの子には上手く取り繕っておいてくれ」

「な、なに?」

 なぜか動揺するセフィロス。

「落ち着けよ。そもそも最初からその予定だっただろ。……なにも食事中に告白する必要もない。帰り道だっていい。チャンスは無数だ」

「そう……だな」

 こくんと頷き、ごくりと唾を飲む。その様子を斜めに見て、

「ただし、一言だけ言っておく。……今夜中に最後まで行けると思うなよ? 目的はおまえの気持ちを、あの子に理解してもらうことだ。まずはそれからだからな」

 繰り返し言い置き、俺は席を立った。

 テーブルに残されたセフィロスが、彫刻のように固まっている様子が、なんだかひどく微笑ましく感じた。

 ドアを開くと、夜風がふんわりと肌を撫でた。

 夜も更けて、ずいぶん冷えてきたようだ。