〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<15>
 ジェネシス
 

 

 

「よしッ! よくやった、ジェネシス! ただの変態詩人かと思っていたが、なかなかやるじゃねーか! そうか、クラウドもOKしたのか!」

「……別におまえの告白をOKしたわけじゃないだろ。このまえの約束通り、親友の恋愛にささやかな助力をしたまでだよ」

「そーかそーか! クラウドが来るか……! よし、こうしちゃおれん!」

 そういうと、セフィロスはデスクに広げていた書類の束を、乱暴にキャビネットに放り込んだ。基本的には物の置かれていないデスクなので、そうして書類の束さえ押し退ければたいそう綺麗になる。

 『重要・至急』と赤印の押されたレジュメまでも、適当な引き出しに放り込むさまを見て、俺は多少困惑した。今回のお楽しみを用意したことについては何の後悔もないが、テンションMAXのセフィロスは、周囲の人間の迷惑など省みない。

 今まさに、アンジールを置き去りに、執務室を飛び出そうとしている。

「おい、ちょっと待てったら、セフィロス。さっきも言ったろ。約束の時間は18:00だ。仕事を終えてからでも十分間に合うだろ」

「バカか、テメェは。ちっとは使えると思いきや……」

 ケッと悪態をつくセフィロス。恩人扱いをしてくれたと思えば、もうこれだ。

「いいか、今は午後四時前!」

「そうだろう。まだ二時間以上ある」

「あと二時間しかないの間違えだ! ええと、これから風呂に入って……服を用意して……ああ、そうだ、ジェネシス! クラウドはどんな格好をしてくると言っていたんだ!? フォーマルか? カジュアルか? クール系か?ラブリー系か?」

 セフィロスはガッと俺の胸ぐらを掴み締めると真剣な面持ちで訊ねてきた。

「知らないよ。……ただ、気を遣わせるのも可哀想だと思って、普段着でかまわないとは言っておいたけどね」

「普段着…… ならば、ラブリー系か? いや、クラウドは存在そのものがラブリーだからな。服の系統までは推し量れんか」

 長い指を顎に押し当て、思案深げな面持ちで思考する。

「まぁいい。じゃあな、ジェネシス。テメェも約束の時間に遅れるなよ! エントランスに18:00な!」

「おい、ラザードとの約束があるんじゃないのか?」

 無駄かと思ったが、一応そう訊ねる。

「あぁ? ラザード? 変態眼鏡の頼み事ならアンジールあたりが、代わりに行ってくれるだろ!」

 あまりといえばあまりな物言いに、俺は深々とため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「あッ! セフィロスさん、ジェネシスさん!」

 よい子のチョコボっ子は、約束の時間前に、きちんとエントランスロビーで待っていてくれた。

 シンプルなセーラーのツーピースは、どこかのブランドの新作だったはずだ。セフィロスがチョコボっ子に贈ったのであろうことは、わざわざ確認するまでもなかった。

「クラウド!」

 人目もはばからず駆け寄るセフィロス。そのまま、ぐいとチョコボっ子を抱き上げてしまう。

 ……おいおい、ここはまだカンパニーのロビーなんだぞ。

 まったく、セフィロスには有名人という自覚はないのだろうか。そろそろ仕事を終えようという職員や、案内嬢がぎょっとしたように眺めている。

「クラウド、その服、よく似合ってるぞ。オレの見立てどおりだ」

「ハイ、ありがとうございます。今日、初めて着てみたんですけど……おかしくないでしょうか?」

「クラウドはもとがいいからな。とても愛らしい。ブランドのモデルなぞより、遥に映える」

「やれやれ、セフィロス。べた褒めだなァ。まぁ、確かに彼の言うとおりかな。とても可愛いよ、チョコボっ子。食べてしまいたいくらいだ」

「あ、ありがとうございます……」

 クラウド少年は、ポッと頬を染めてわずかに俯いてしまった。さすがに立て続けに誉められたのが照れくさかったのかもしれない。

「おい、エロイことを言うな、ジェネシス。クラウドが困ってるだろ」

「……エロイって……ただのホメ言葉だろうが。さ、こうしてロビーでじゃれあっていても致し方がない。そろそろ行こうか」

 彼らを促すが、セフィロスなどはチョコボっ子に夢中でまともに聞いていない。ただ、俺の後をついてくるだけだ。一緒にいけば、適当に食事にありつけると思っているのだろう。

 今日の彼の目的は、夕食なんかじゃない。

 チョコボっ子への愛の告白なんだから。

 

 ハイヤーに乗り込んで、運転席がシャットされてから、チョコボっ子はおずおずと口を開いた。

「あ、あの、おれ…… 泳げるようになったお祝いだなんて……図々しくお呼ばれちゃいましたけど、おれのほうがおふたりにお礼を言わなくちゃならないんです。あの……本当にありがとうございました」

「まだ、そんなことを言っているのかい? 思いの外、気にするんだな、チョコボっ子」

「ジェ、ジェネシスさん……」

「クラウドは真面目で良い子だな。オ……私はおまえの成長を間近で見られるのがこの上なく喜ばしいんだ。こうして夕食の席を共に出来るのもな」

 クラウド少年の小さな手を、ぎゅっと握りしめて、この上なくやさしげな声音で宣うセフィロス。

 ……こんな彼をソルジャーMTルームに集う連中が見たら腰を抜かすだろう。

「ああ、ほら、手ェ握ってないで。もう着いたよ。……軽めのフレンチだ。マナーにうるさい店じゃないから、チョコボっ子も気楽にな」

 そういって、小柄な少年を車から降ろしたのであった。