〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<14>
 ジェネシス
 

 

 ソルジャークラス1st専用の執務室は、ソルジャーフロアにあるが、サードやセカンドらの部屋とは、エレベーターを挟んで離れた場所に位置どられている。

 曲線のフォルムを貴重とした、日当たりの良い執務室はなかなか気に入っているのだ。

 ガラスの自動扉をくぐり抜けると、真面目な顔をして書類とにらめっこしているアンジール。そして両足をだらしなくデスクの上に放り出したまま、眠りこけているセフィロスが居た。

「やぁ、アンジール。今日は午前で終わりだろう。相変わらず真面目だなァ」

「ん……ああ、ジェネシスか。おまえこそ、めずらしいじゃないか? 土曜の午後だぞ」

「ふふふ、ソルジャーに休日なんて……ね?」

 そういって微笑み返してやると、アンジールはやれやれといった様子で、書類の束を抱え直した。

「すまんが、ラザードと打ち合わせの予定が入っているんだ。しばらく留守にするが……」

「ああ、かまわないよ。俺とセフィロスが居るから。あまり遅くならなければだけどね」

「大丈夫だ。三十分程度で戻る」

 生真面目な返答をしつつ、アンジールは部屋を出て行った。そんなやり取りの間も、セフィロスは平気でいびきをかいているのだ。

 アンジールを送り出してから、紅茶を一杯飲んでホッと一息吐く。

 親友のためとはいえ、勤勉に動き回りすぎた。

 

「セフィロス」

 顔の上にグラビア雑誌を載せたまま、高いびきをかいている彼に声を掛ける。セフィロスは一度眠りにつくと、なかなか目覚めないのだ。

 眠りの浅い俺から見ればうらやましい体質だ。

「セ〜フィロス!」

 雑誌を退けると、白皙の美貌といってやっても差し支えないほどに、整った面差しがあらわれる。

 俺の恋する地下室の女神とは趣を異にするが、セフィロスも息を飲むほどに美しい容姿をしているのだ。

 薄い唇を半開きに、スースーと規則的な寝息を立てている。

 セフィロスはよく眠る。俺などは思索に耽ると、それこそ私室のデスクで朝陽を眺める日も多いのだが、彼は違うのだ。遊びで夜更かしはするものの、太陽が昇るまで起きているということはめったにない。

 また、彼はいつでも時間があると、よく眠り込む。

 真っ昼間の公園でも、夕方の執務室でも……だ。図体の大きな彼がこうしてぐっすりと寝ている姿は何だかひどく可愛らしく感じる。

「セフィロス、起きろよ。いい話があるんだぞ」

 軽く肩を揺すってみるが、その程度で目覚める輩ではない。

 ふと悪戯心がむくりと頭をもたげてくる。

 地下室の女神ではないが、それこそ撫でくり回しても目覚めないのではないかと。

 任務中のセフィロスは、こんなに深く眠り込むことはないし、兵士の足音一つで目覚めて構えをとる。

 完全に戦闘モードと日常モードでは、精神の緊張が異なるのだろう。

 そのあたりは、さすが英雄と呼ばれるだけのことはある。

 

 

 

 

 

 

 すこやかな寝顔を、惜しげもなく晒す彼にそっと近づく。

 切れ長の双眸が閉じ合わされると、彼は少しだけ幼く見えた。

 長い長い睫毛…… 雪のような額…… やや薄い形の綺麗な唇。

「セフィロス……」

 LOVELESSの序章を思い出し、俺も目を綴じ合わせ、顔を近づけた。

 唇が触れ合おうという、まさにその瞬間……

 

「うがッ!」

 とばかりに、彼は勢いよく身を起こした。

 当然、至近距離に接近していた俺と、みごとに衝突してしまう。

 ゴツッと鈍い音がして、俺は額をおさえた。

「痛ッ! ひどいなァ〜、セフィロス、この石頭!」

「ってェ…… なんだ、テメェは! 顔近づけんな、気色悪ィ!」

 ……気色悪いだなんて……セフィロス以外に言われたことはない。

「失敬だな、セフィロス。そんなふうにいうのはおまえくらいだ」

「気持ち悪いんだよ! 男のクセにべたべたすんな!」

 チョコボっ子相手に、ひどくべたべたしているくせに……自覚がないのだろうか。

 俺はセフィロスを真似て、フンとばかりに腕組みをすると、ついと顎を持ち上げた。

「おや、親友の俺にそんな暴言を吐いていいのかい? 今日だっておまえのために、いろいろと動いてやったというのに」

「……? なんだ、恩着せがましい物言いしやがって」

「たまにはいいだろう? セフィロス、今日の夜は空いているよな?」

「あぁ? 新しい任務のことでラザードに呼ばれているが、そう遅くはならないだろうよ」

 めんどうくさそうにセフィロスが答えた。

「そうか……ラザードとの約束があるのか。じゃあ、まぁいいや。おまえは後から来てくれれば」

 わざともったいぶって俺はそう言った。

「おい、何の話だ? 後から?」

「実はさっきチョコボっ子と約束をしたんだ。明日は休日だろう? 今夜、泳げるようになったお祝いに、三人で食事をしようとね」

『もちろん、チョコボっ子と俺とおまえの三人だよ』と、言葉を続けるつもりだったが、セフィロスは椅子から跳ね起きた。

「なんだとッ!?」

 勢い余って、ふたたび俺とデコをぶつけそうになる。

「お、おい、貴様、今、なんと言った、ジェネシス!?」

「なんだよ、聞いていなかったのか? だから、チョコボっ子が泳げるようになったご褒美に、一緒に夕食に……」

「誘ったのか!? で、クラウドは?」

 悪気はないのだろうが、胸ぐらを掴み締めて、グイと引き寄せられる。普通の人間相手ならばともかく、セフィロスにやられると、さすがの俺も踏ん張ってはいられない。

 細身だが、その怪力はソルジャーの中でも、群を抜いているのだ。

「もちろん、一緒に行きますって。18:00にエントランスで待ち合わせにした」

 普段は冷ややかな氷色の双眸が、カッと熱を帯びる。

 彼はぐぐぐと拳を握ると、ぶるりと胴震いした。

「でかした、ジェネシス!」

 そういうと、彼はがっしと俺の両肩に手を置いた。いや……『置いた』というか、叩き付けたに近い。実際、両の肩がズクズクと痛んでいるのだから。