〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<10>
 ジェネシス
 

 

「ぷあッ! ゲホッゲホッ! ゴホッゴホッ!」

 必死に泳いでいるチョコボっ子だが、どうやらチョコボの子どもだけあって、水泳は苦手らしい。ザックスのところに辿り着く、数メートル手前で足を着いてしまった。

 鼻に水でも入ったのか、顔を覆って、苦しげに咳き込んでいる。

「うーん、腕の送りとかは悪くないんだけどなァ。息継ぎのタイミングに問題があるのかな」

 チョコボっ子が立ち止まった場所まで移動し、ザックスが背中をさすってやっている。

「う、うん。鼻に水、ちょっと入っちゃった」

「かたっぽ抑えて、思い切り息を吹き出してみろ。背中、ぜいぜい言ってるな。苦しいか?」

 

「ザックスはなかなか面倒見が良いな。もうちょっとコツを掴めるように指導してやったほうがいいが…… おい、セフィロス?」

「……ザックスの野郎! なれなれしく撫でくり回しやがって……!」

「……おまえねェ。見てわからないか? 咳き込んでいるあの子を介抱してやっているだけだろう?」

「だがクラウドは素肌だぞ、素肌! オレだって、まだ触れたことがないのに……!」

「今は水着だからな。不可抗力だ」

 ぎりぎりと歯噛みするセフィロス相手に、辛抱強く諭してはみるが、なかなか溜飲は降りぬらしい。

「ゲホッ、ゴホッ…… なんかわかんないけど……お水飲みそうになる。息継ぎ……言われたようにしているつもりなんだけどな……」

 水に濡れ塩垂れた髪が、チョコボっ子の心情を現しているようだ。

「うーん、タイミングだけじゃないんだよなァ……ええと、なんて言えばいいかな……」

 思わず独り言が出る。ザックスの教えた内容はまさしく教本どおりで、文句の付けようがないのだが、それは泳げる立場での理屈だ。息継ぎひとつにしても、タイミングは合っていても、わざわざ教科書では触れていない部分に問題が在る場合が多い。

 

「よし、もう一回な!」

 ザックスのかけ声と共に、ふたたび泳ぎ出すがそう上手くはいかない。

「歯がゆいなァ……」

 水面からぴょこぴょこと黄色い角が飛び出す。一生懸命頑張ってはいるのだろうが、あれではいつまで経ってもまともに泳げるようにはならない。

 ブルーハワイのような空の色、同僚の初恋、泳げない子チョコボ……そんな陽気な休日が、少しばかり俺を浮き足立たせているのかもしれない。

 不器用な雛鳥に手を貸してやりたくなったのだ。

「セフィロス。おまえはここに居ろよ。出て行くと面倒なことになる」

「おい?」

「おぼれかけのチョコボっ子が見ていられなくてね。ザックスに叱られるから、おまえはおとなしく待っていてくれ」

「ジェネシス! テメェ!」

 俺の席のほうが海辺に近かった。その利点を上手く使い、セフィロスの妨害を軽くスルーして海に向かう。

 いたずら心で、ザックスたちの後を付けていたときは、海水浴をしようなんてこれっぽっちも考えていなかった。

 最初からノリノリだったセフィロスの奨め通り、水着を下に着用してきたのは思わぬ正解だったようだ。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、チョコボっ子。頑張っているね」

「ゲホッゲホッ! あ…… ジェネシスさん?」

 ザブザブと海水を分けて、雛鳥が咳き込んでいる場所まで追いつく。ザックスはぎょっとしたようだったが、とりあえず俺一人なのを見取って、いきなりつかみかかるような真似はしなかった。

「ジェ、ジェネシス……! な、なんだよ、アンタ。話が違う……」

「まぁまぁ、ザックス。固いこと言わないで。それより大丈夫かい、チョコボっ子。気管に水が入っちゃったかな?」

「だ、大丈夫……です。ゲホッ…… ちょ、ちょっと、鼻がつぅんとします」

 正直な自己申告に、思わず頬が緩む。まだまだ男の身体になりきっていない華奢な肢体……肌の色は、少女のようなピンク色だ。

 容姿だけでなく、性格も素直なこの子に、セフィロスが夢中になるのも、なんとなく理解できるような気がした。

「ジェネシスさんはどうしてここに?」

 チョコボっ子が、ごしごしと顔を擦りながら訊ねてきた。泳ぎだの何だのという前に、もともと水が苦手なのだろう。

「いや、ちょっと通りがかっただけだよ。君が一生懸命泳ぎの練習をしているのが目に入ってね。なにか手助けができないかと思って」

「……特にアンタにしてもらうことなんてねーよ。英雄連れてさっさと帰れよ、もう!」

 不愉快そうにザックスが言う。もちろん、その程度でめげる俺ではない。

「まぁまぁザックス。今日は休日なんだし、たまにはチョコボっ子と遊ばせてくれても良いだろう?」

 苦虫をかみつぶしたようなザックスを無視して、俺はクラウドの手を取った。