〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<11>
 ジェネシス
 

 

「ジェ、ジェネシスさん?」

「ずいぶんと頑張っているんだね。本格的に夏になれば演習もあるものね」

「は、はい…… ごめんなさい」

 俺の言葉をどうとったのか、チョコボっ子はしゅんとして謝った。

「謝る必要なんてないよ。それより休みの日なのに、練習している君は、とてもいい子だよ。修習生としてよく頑張っている」

 そう言って、チョコボの尾っぽのような髪を撫でてやった。

「でも、どうせ練習するなら、効率よく行うべきだ。さっきから見ていたけど、もう一度基本に戻ったほうがいいな」

 ザックスに目線で、任せてくれと合図を送る。この期に及んで異議を唱える気力もなくなったのか、彼はため息混じりに一歩引いた。

「いいかい、チョコボっ子。俺の手に掴まって。まずはその場でバタ足」

 基本中の基本を指示した。彼はちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに素直に俺の手を掴み、バタ足を開始した。

「途中で苦しくなったら、息継ぎして。そう、足は膝で曲げないで、まっすぐ伸ばしてよけいな力はいれないで」

「は、はい!」

「うん、良い調子だよ。そのままもう少し頑張ろう」

 幼稚園の教員にでもなったような気持ちで、チョコボっ子を励ます。徐々に水を蹴る足の形が変わり、それにつれて水しぶきの形も変化するのだ。

「はい、そこまで。ちょっと休憩」

「ジェネシス、もう休憩かよ? 甘いなァ!」

 腕組みしたまま、ザックスが言った。いわゆる彼はスパルタタイプ……体育会系のキャラクターなのだ。

「疲れたときは休めばいい。せっかく訓練するんだ。どうせなら楽しみながらやったほうが得じゃないか」

「いかにもアンタらしいな、ジェネシス」

 ザックスはそう言ったが、チョコボっ子は俺の言葉に何か感じるものがあったのか、こぼれ落ちそうな大きな瞳で、じっと見上げてきた。

「どうした、チョコボっ子?」

「……あ、いえ、そんなふうに言われたの……初めてだったから……」

「ああ、そう。俺はね、どんなことでも基本的に楽しむことにしているんだ。仕事でもお遊びでも人付き合いでもね。せっかく生きているんだから、つらいと感じるよりも、楽しいと考えたほうがお得じゃないか?」

 そういいながら、海水にもしょげない金のくせ毛を撫でてやる。

「は、はい……」

「だから、今日の練習も一生懸命、楽しんでやること。いいね、チョコボっ子」

 そういうと、察しのよい彼は、コクンと頷いて、

『はい!』

 と大きな声で返事をした。

 

 

 

 

 

 

「さてと……それじゃ、クロールの練習に移ろうか。さっき泳いでいるところを見ていたけど、息継ぎの要領が悪いね」

「息継ぎ……」

「そう。無意識なのかもしれないけど、息を継ごうとするとき、水面から顔全体を無理に引き上げようとしてしまっている。そのせいで身体のバランスが崩れるんだ」

「…………」

 思案顔のチョコボっ子に、さらにレクチャーを続ける。

「極端な話、息継ぎなんて、口元さえ水から出ていればできることなんだから。顔を上げようとしないで、口を外に出すという意識でやってみよう」

「は、はい」

「大丈夫。俺が右脇について、一緒に移動するから。息継ぎは右向きでしてみて」

 俺の指示に従って、チョコボっ子が泳ぎ出す。その横について、片手を彼の身体の下に宛て、一緒にゆっくりと移動する。

 その安心感も手伝ってのことだろう。大分、緊張の取れた様子で泳ぐことができていた。

 しばらく進んだところで、息を継ごうと頭を持ち上げる。その動作に従い一瞬、身体に力が入ったとき、下になった左肩に片手を添え、もう一方をそっと頬に添えた。

 さきほどの注意事項を思い出させることが肝要だ。

 その場所からしばらく進んだところで、ふたたび息継ぎの機会がやってくる。今度は軽く顎を持ち上げただけで、すぐに泳ぎの体勢に戻ることができた。よけいな力も大分抜けている。

 それは当然のことだった。力が入るのは、無理に顔を水面から持ち上げようとするからなのだ。その結果、全身のバランスが崩れ、疲労が蓄積される。

 口を出して軽く息継ぎをするだけなら、身体を緊張させる必要などないのだから、疲れの度合いも大分異なるはずだ。

 

 チョコボっ子は、まだ頑張っていた。

 たぶん、何メートル泳いでいるのか、自覚などないのだろう。深い場所にいかないように誘導しつつ、彼の努力を見守ることにする。

「……すげー……クラウド、泳げてる。さっきよりもずっと早い」

 ザックスがそう言った。俺はそれに微笑みで返す。

 我慢しきれなくなって、海に飛び込んできたセフィロスに、そっと指を立て、

「静かに」

 と合図を送り、チョコボっ子の泳ぎを邪魔させないよう計らった。

 もともと余分な肉などついていない、スレンダーな身体をもつ子だ。しなやかな細身は、水の抵抗を難なくかいくぐり、ずっと早く進んでいった。

 息継ぎの感覚も掴むことができたのだろう。長距離を泳いでいる彼は、何度か水面に口を出したが、それによって身体のバランスが崩れることはなくなっていた。