〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<9>
 ジェネシス
 

 

「『よーし、こい!』だってさ。若いねェ」

 サングラスを持ち上げて、俺はとなりの席に座っている、銀髪の美青年に声をかけた。

「くそっ! 水泳ならオレだって得意なのに……!」

「仕方がないだろ。今日はチョコボっ子とザックスのデートなんだから。あ、でも見方を変えれば、俺とおまえもデートだよね。こうしてふたりして一緒に出かけているんだから」

 そう言った俺に、一瞬だけキッと目線を戻して、

「気持ち悪ぃんだよ、テメーは!」

 と怒鳴るセフィロス。

「だいたい、どうして貴様が一緒に来ているんだ! オレはひとりで尾行するつもりだったのに!」

「それは面白そうだったからだよ。それにおまえひとりじゃなにをしでかすか……」

「ケッ、テメーがくっついてこなきゃ、このチャンスにザックスの野郎を闇へ葬り……」

「あー、ほらほら。すぐにそういうことをいう。俺にとってはおまえもザックスも大切な友人なんだからな」

 セフィロスの物言いに、覆い被せるようにそう告げた。彼はフンとそっぽを向き、すぐにまた、泳いでいるチョコボっ子を見つめた。

 

 氷のように冷たく澄んだ瞳が、今は情熱的な輝きで煌めいている。

 今年入社の、あの小柄な少年がそうさせているのだと思うと、ほんの少し、胸が痛んだ。

 

 俺の思い人は、神羅屋敷の地下に眠る、黒髪の女神ただひとりだ。

 だが、セフィロスとはずっと幼い頃から一緒にいたのだ。そう、俺が十代で神羅に入社してから、ともに時を過ごしてきた。

 親の顔を知らない彼は、大人連中を嫌って、いつもひとりで居た。

 ……だが、唯一、同い年でソルジャーとして配属された俺に対してだけは、わずかに心を開いてくれたのだ。そうなるまでのいきさつは、ひどく長い話になるが、不器用ながらもうち解けようとしてくれた。

 

 俺にとっては、そんな彼の態度がひどく愛おしく、また嬉しくも感じた。

 恋愛感情ではない……と思う。

 だが、俺にとって、やはりセフィロスは特別な人間なのだ。

 

 遊び好きの彼が、何人もの玄人連中相手に、疑似恋愛を楽しんでいても何とも思わなかった。俺だって品行方正な男ではないし、セフィロスの相手がだれであっても、いちいち気に止めはしなかった。

 だが、今度ばかりは様相が異なるらしい。

 色恋沙汰の「い」の字も知らないような子供に、セフィロスが恋をした。

 わずか十四才の少年は、もちろん、そんな彼の気持ちになど気づいてはいない。

 きっと、セフィロスにとって、生まれて初めての『恋』なのだと思う。

 慣れない感情に平静ではいられない彼の姿を、こうして眺めているのは楽しくもあったが、同時にどこか切ない……寂しいような感じがした。

 

 

 

 

 

 

「それで、セフィロス。上手い告白の言葉は思いついたのかい?」

 すでに溶け始めたかき氷を、スプーンでいじりながらそう訊ねてみる。もちろん、まだ彼が考えついていないのを知っての上でだ。

「……いろいろ考えたんだがな」

 ぐっと二缶目のビールを飲み干し、セフィロスは口を開いた。

「うん?」

「オレとしては、シチュエーションが重要だと思うんだ」

 めずらしくも的を射た発言に、俺はほぅと頷き返した。

「そうだね。俺も同感だ」

「だろッ!?」

 賛同を得たことで安心したのか、今度は目の前のかき氷を、ガッと手に取り一気にかっ込む。 

 真っ青なブルーハワイは、今日の空の色のようだ。

「おまえらが言っていたように、クラウドは幼いからな。寮だの社食だので、好きだと告げても、いわゆる告白と受け取ってもらえない可能性は大きい」

「同感だね。おまえにしては、重要な点に気がついたな」

「まぁ、そう誉めるな」

 的外れの返事の後に、彼はすぐさま続ける。きっと、長い時間、頭の中で練りに練ったのだろう。

「だからな、告げる言葉はシンプルにしても、場面には配慮しなければ。オレとしては、最高級ホテルのスイートが理想なのだが、なかなか連れ出すのは難しそうだ」

「…………」

「あ、別にホテルのほうが後の都合が良いとか、オマエ、そういうんじゃねーぞ? そりゃ、いずれはソコまでいくだろうが、告白した当日に……」

「……あのさ、セフィロス。やっぱり……どこかずれてるね」

 ため息混じりに俺はそうつぶやいた。笑うつもりはなかったが、つい口元が歪む。

「なんだ、テメー! このオレさまの完璧なプランを……」

「そもそも、ホテルに連れ出すというシチュエーションに無理があるだろ」

「クソ偉そうに! 貴様だって、恋人なんざいねーじゃねーか! 花街の玄人相手は恋人とは言わねーんだからな!」

 笑われたのが不快だったのか、指を突きつけて怒鳴りつけてきた。チョコボっ子……クラウドの事を幼い幼いとはいうが、セフィロスも別方面ではずいぶんと子供じみているのだ。

「失敬な。地下室の女神に出逢ってから、そういった付き合いは控えているさ。……いいか、セフィロス。相手はまだ十代半ばの少年なんだ。いきなりホテルのスイートに呼び出されたら驚いてしまうだけだ。その後の話もまともに聞けないだろう。下手をしたら、保護者同伴でやってくるかもしれないぞ。なんせ同室はあの面倒見の良いザックスなんだから」

「おい、それは困るぞ! クソハリネズミが居たら、告白なんざ……」

「そうだろう? だったら、無理にホテルとかそういった場所ではなく、本社前のビーチとか、庭園広場とか、日常的に行く場所のほうがいい」

「……なるほど」

 素直にコクンと頷くセフィロスは、なかなかに可愛らしい。

「無理に呼び出すよりも、さりげなく誘導できれば上等だな。たとえば、社食で夕食を取った後、腹ごなしに散歩しようとか、そういう言葉で…… ああ、まぁ、食事にザックスが同席していると難しいかな」

「そんなのはなんとでもなる。事の前にザックスの野郎を動けなくしちまえば……」

「こら、暴力沙汰はダメだ。そうだな、さりげなく外食に誘ってみたらどうだ。一対一が難しいなら、俺も同席してあげるから。その後、席を外せば、ふたりきりになれるだろ」

 俺の提案にセフィロスが目を輝かせる。

 やれやれ……こっちは、地下室の女神と進展のしようもないというのに…… 俺としたことが、なにを懇切丁寧にアドバイスしているのやら。

「ジェネシス…… おまえ、案外イイヤツだったんだな」

「フフフ、今頃気づいたのかい?」

「よし! 早速実行に移すぞ! 修習生のスケジュールを調査して、ミッション期日を決定する!」

 ぐっと握り拳をつくり、セフィロスは雄々しく立ち上がった。