〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<8>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「まぁ、そんときのことも含めてさ。もともとルーファウス神羅とセフィロスはそれなりに上手くやってきたわけ」

「……ああ、まぁな」

「でも、そこにあの修習生が入り込んじゃったわけだぞ、と」

「お、おい、それじゃ、クラウドがあんまり……」

 つい口を出した俺を、レノがわかっているわかっているというふうになだめた。

「もちろん、あの子が悪いわけじゃないぞ、と。むしろ迷惑被っているだけだ。おまえもそう言いたいんだろ、ザックス」

「そ、そうだよ、そのとおり」

「副社長がもうちょっと大人だったらなァ。なんだかんだ言っても、あの人オレたちよりガキだからさ、実際」

 そうなのだ。実年齢的にも年下なのである。

「ま、英雄がもっと上手いことやってくれりゃなァ。アンタらがこんなふうに心配する必要もないんだろうけど、大人げなさに掛けちゃ、あの人もいい勝負だからなぁ」

 いやいやそんな。いい勝負どころかダントツですよ、あの男は。

「ってなことでさ。じっさい、研修先でトラブル起こしたのは上手くなかったけど、あの修習生は完全にとばっちりだよ、ジェネシス」

 多少なりとも気の毒そうに眉をひそめてレノが言った。彼とクラウドにつながりはなかろうが、第三者的に見ればそう感じられるということだろう。

「……そうか」

「副社長にとっちゃ、これまでそれなりに上手くやってきたセフィロスを、横取りした相手みたいに感じてるだけだからさ。ただの焼き餅だぞ、と」

 さもくだらなさげに手を振るレノ。

「……たださ、ルーファウス副社長の言葉を、ただの焼き餅で済ませてしまうのは好ましくないんじゃないか? もちろん、私情は入っているだろうが」

「どーしてよ? 実際、そうなんだから仕方ねーじゃん?」

「処分の重さはどうであれ、こういった結果になったからにはね」

 ジェネシスは両手を広げてそう言ってみせた。立場的には『友達』と明言しているクラウドを心配してはいるが、だからといって副社長を批判するわけでもない……

 あくまでも中立的な立場をとった物言いだ。

 完全にクラウド側の立ち位置である俺としては、言葉を挟みたいところだが、ここはジェネシスに任せる。……たぶん、なにか考えがあるはずだ。

「そりゃ、地元警察に協力してもらったりとか、多少の手間暇はかかっただろうけど、事件としちゃたいしたことないだろ? 誰も死人はでなかったわけだし、怪我人っつったって、セフィロスが擦り傷こさえたくらいじゃねーか。アンタも一緒に居たんだから知ってんだろ、ジェネシス」

「ああ、もちろん。怪我人というほどの負傷者はでなかったよ。確かに事件としてはたいしたことではなかったかもな」

「っつーか、それがフツーの見方だろ? ツォンさんだってそう言ってたしな」

 キラリとジェネシスの目が光る。

「へぇ、ツォンが…… 副社長べったりなのになァ。修習生に同情しているのか?」

「そりゃアンタ、誰だってそうだろ。内情知ってりゃ、修習生はただのとばっちりだってわかるはずだぜ? 同情心も湧いてくるって」

「なるほどね……」

「それにツォンさんにしてみりゃ、あんだけ副社長の面倒見てやってんのに、当の本人がセフィロス、セフィロスじゃ不愉快にもなるんじゃね? 本音としては修習生に同情してても、ルー坊ちゃまの手前、言い出せないってのが一番近い感じだろうな」

「さぁ……まぁ、そうかもね。しかし……そんな『不当な処分』をするほどに副社長はセフィロスにご執心なのか。君たちタークスも困ってしまうだろうね」

「まぁ、そこは割り切りだぞ、と。ビジネスだからね、オレ的には。オレやルードはそれでいいけどさ、ツォンさんなんかはそうはいかないんじゃねーの。だから副社長の焼き餅にイラつくんだろ」

「ふぅん…… なるほどね」

「やれやれ、あの研修生も可哀想になァ」

 たいして同情しているように見えないが、レノはグラスを舐めながらため息を吐いた。

「せっかく頑張って入社してきたんだろーに。副社長のヤキモチとセフィロスの独断専行が原因で解雇とはよ。労働基準監督署に行かれたらヤベーんじゃねーの? ケッケッケッ」

「……ツォンに話をしても無理かな?」

 俺は恐る恐るそう言ってみた。

「あー、まぁ、どうだかねー。ツォンさんだって、不当解雇だと思っているだろうけど、副社長があの調子じゃね。説得するのも骨が折れるだろうし……」

「で、でもよ、アンタらが話してくれればさ! ツォンだって副社長の手前、除籍処分を否定していないってだけで、内心はクラウドに同情してくれてんだろ? 修習生相手に解雇はやりすぎだって思ってんだろ!?」

 俺はたたみかけるようにそう言った。レノは俺の剣幕に、身を逸らせるようにしたが、はぁ〜っと音が出るような不快ため息を吐いた。

「まぁな。ツォンさんの本心はな。だがよ、オレらタークスも副社長に逆らってまでって、義理がねーのよ。確かにやり過ぎだし、その子には同情すっけどよ。そこまで頑張って一修習生救って何になんの? 何の得があるってんだよ?」

 素っ気ないレノの物言いに、頭に血が上りそうになるが、ここはグッとこらえる。

 俺が激昂してしまっては、解決の糸口が無くなってしまう。

「で、でも……ッ」

「まぁまぁ、ザックス。おまえの気持ちはよくわかるけどね。ここでレノとルードに迫っても気の毒だよ。今日はただ飲みに誘っただけなんだから」

 穏やかにジェネシスが言った。やわらかな微笑のおまけつきだ。なんだよ、なんでこいつこんなにあっさり……

「……それでもさ、内心ではツォンも彼らタークスも、チョコボっ子に同情的だとわかって、せめてもの慰めになるじゃないか」

「慰めって……アンタ……!」

 アホか!

 慰めなんて何の意味もねーんだよ! クラウドが除籍されてしまえば、いくら内部の同情をかっていたとしてもそんなの無意味だ。もう神羅の社員じゃないのだから。

「やれやれ、本当にセフィロスにも困ったものだね。……こんな形で修習生を追い込むことになるとはな」

「あ、いや、でもよ、ジェネシス。間一髪ってところで、セフィロスが助け出したんだろ。その辺はさすがにソルジャークラス1stだよな」

「ふふふ、まぁな。……でも、その当のセフィロスも、こんな結果になるとは思ってもみなかっただろうに……」

 そう言ってジェネシスはつらそう苦笑した。落ち着かない風情のレノに、

『それでも、本当は不当な処分だと皆が考えているのだとわかって、少し気持ちが落ち着いたよ』

 と繰り返した。

 ……せめてものなぐさめでってか!? 納得いかないんだよ!!

「いや、すまない。おまえたちに愚痴ることじゃないな。……さて、そろそろお開きにしよう。明日も仕事があるしな」

「飲み逃げで悪ィな、ジェネシス」

 とレノ。ルードはきちんと礼を言っている。

「いや、俺が誘ったんだから。また機会があったらいい店を紹介するよ」

 そんな言葉で、ジェネシスはタークスのふたりを送り出した。

 

 

 

 

 

 

 店でふたりで取り残されて、俺はさっそくジェネシスに噛み付いた。

「おいっ! 連中と話したコトってなんか意味あるのかよ!? 連中の同情かったって、クラウドの処遇が変わるわけじゃないんだぞ!」

「まぁまぁ、落ち着けよ、ザックス」

 と、のんきにグラスを弄ぶジェネシス。その様に頭にカッと血が上る。

 クソッ! 結局クラウドのことを本気で考えてるのって、俺くらいのモノなんだ! そりゃ、セフィロスだって一生懸命かもしれないが、ヤツの場合は元凶でもある。

 唯一、参謀タイプのジェネシスが頼みの綱だってのに!!

「俺はもう帰るッ! クソッ、アンタに付き合って無駄な時間を使っちまった! こんなことならまだセフィロスと話していたほうがマシだったぜ!」

「……そうだな。おまえはしばらくセフィロスについていてくれ。あいつが癇癪を起こしたり、突飛な行動に出ようとしたら止めてくれよ」

「な、なんだと……そんなこと、アンタに言われるまでもない!」

「わかってくれているならいいんだ。しばらくセフィロスを頼むな。……俺はいろいろやることがあるし……」

 な……何なんだよ……コイツ……

 やることって? クラウドのために何かするってのか?

 いや、だって現段階でできることなど何もないだろう。さっきのタークスの連中の話を聞けばわかりきったことではないか。

 ルーファウスがクラウドを除籍にしようとしていて、タークスのトップと、軍事部門の部門長がそれに賛同している……

 一介のソルジャーがそれを覆すなんて、どう考えても……

「さて、ザックス。俺たちもそろそろ部屋に戻ろう。チョコボっ子が心配しているだろう」

 そういいながら、ジェネシスはさっさと立ち上がった。

 支払いのことを訊ねると、すでに済んでいるという。

 クソッ! どーせ、俺はカードなんて持っていませんよーだッ!