〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<9>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「おかえり、ザックス。……遅かったね」

 ようやく部屋にたどり着くと、クラウドがパジャマ姿でちょこんと座っていた。

「な、なんだよ、まだ起きてたのか? もう夜中の1:00過ぎだぞ?」

「うん……なんかね、一度ベッドに入ったんだけど、眠れなくて」

 クラウドが独り言のようにつぶやいた。

 ……可哀想に心細かったのだろう。

 現在、クラウドは自室謹慎ということで、部屋から出ることはできない。授業は担当教官がそれぞれ資料を配付してくれるし、同級生がノートを取ってくれているのでそれほど心配はないのだが、やはり一方的に部屋の中に閉じこめられているのがつらいのだろう。

「……そろそろ、ザックス、帰ってくるかなと思ったから、起きちゃった」

「そ、そうか……悪かったな」

「ううん?全然。おれが勝手に眠れないだけなんだから」

 そう言いながら、彼は無理に笑顔を作った。

 いいんだよ、クラウド。俺の前で作り笑いなんかすんな!

 ちくしょう!副社長め!ハイデッカーめ!ツォンめ〜〜ッ!! おまえら大人げなさ過ぎるんだよ! 強い立場にあるんなら、下のヤツを守るのが道理だろうが!

 セフィロスの態度が気に入らねーっつーんなら、クラウドじゃなくて、本人に当たれよ!

 

「……ザックス……あの……ゴメンね」

 クラウドは俺の顔を見ずに低くつぶやいた。

「? なんだよ、どうしたってんだ?」

「聞いたんだ。……ザックス、本当はソルジャークラス1stへの昇格の話があったんでしょ?」

「は? あぁ、いや、別にそんなこと……」

「今、部屋の外、出られないから……人づてに聞いたんだけど、この前の件で……その話、ダメになっちゃったって……」

 クソッ! 誰だよ、つまんねーこと、クラウドに吹き込みやがって!

 ジェネシスはここに来ては居ないし、アンジールがそんなくだらない話を修習生に聞かせるはずがない。……タークスか? それともクラウドのクラスメイト?

「……ホント、ゴメン……もう……おれ、なんて言ってザックスに謝ればいいのか……」

 俯いたクラウドの瞳から大粒の涙がこぼれる。

 それはぼとぼとと惜しげなく頬を伝わり、パジャマの膝を濡らした。

「おい、馬鹿だな……そんなつまんねーことで泣くなよ」

 細い肩を両手で掴んでゆさぶる。だが、クラウドは顔を上げてくれない。

「なに……言ってるの。つまんないことじゃないじゃん。ザックス、クラス1stに昇格するために一生懸命頑張ってるって言ってたじゃん。アンジールさんと一緒に仕事するんだって……」

 ああ、そういや、出逢ったばかりのころ、そんなことを話した記憶がある。もちろん、アンジールと一緒に働きたいって気持ちは今でも持っているし、変わることはないだろう。

 だが……あの…… ぶっちゃけ、セフィロスとジェネシスの同僚になるのはゴメンなんだ。それにまだまだ俺では力不足だ。

 今回の一件では、イヤと言うほどそれを思い知らされた。

「あのよ、クラウド。そうだな、確かに俺もソルジャーなんだから、力をつけてクラスを上げていきたいとは思ってるよ。だがな、そいつは実力を伴ってこそだ」

「ザックス……」

「俺にはまだクラス1stは早すぎる。ああ、いや、おまえのせいってことじゃない。……俺自身が痛切にそれを感じたんだ。今、上手いこと昇格しても、きっと後から後悔するだろうって」

「……? よく……わかんない……」

 グズグズと鼻水をすすりながらクラウドがつぶやいた。

「とにかくおまえのせいじゃないって。何も気にする必要はないぜ」

 話は終わりというように俺は勢いよく立ち上がった。

「さ、クラウド。おまえはもう寝ろ。俺もシャワー浴びたら、すぐ眠るから」

「ん……」

「な? そんな薄着のままでぼんやり起きていたら、風邪引いちまうぞ」

 ぽんと肩を叩いて、いつもどおりの物言いでそう言い聞かせた。

「うん……そうだよね…… なんだかすごく心細くなっちゃって…… 昼間はいいんだけど……みんな、いろいろ心配して見に来てくれたりするし」

「…………」

「夜……ひとりぼっちになると…… 胸が苦しくなってくるの。おれのせいでザックスや、セフィロスさんやジェネシスさんにすっごい迷惑かけて…… なんて勝手なことをしちゃったんだろうって……」

 ごしごしとパジャマの袖で頬をぬぐう。ただでさえ、桜色の肌が布地にこすられて紅くなってしまっていた。

「クラウド……」

「ご、ごめん。こんなこと、今更言っても何にもならないのに……」

「それがわかったなら、研修旅行に意味はあったな」

 俺はクラウドの頭をぐりぐりと撫でくり回した。

「え……?」

「本社での座講や演習ではなかなか理解できないことだ。力の過信や、一瞬の判断の誤りが、どんなことを引き起こすのかよくわかっただろう。自分でそのつもりがなくても、どんどん悪い方へいっちまう……そういう事態は、実戦で外に出てりゃ、何度もぶつかるもんだ」

「…………」

「そいつが早い内にわかってよかった。……そう考えろよ。な、クラウド」

「うん……」

 ようやく納得してくれたふうの彼を置いて、俺はさっさとシャワーを浴びた。

 これから眠るのだから気分をしゃっきりさせる必要はないのだが、クラウドの顔を見たら、またもやあれこれと埒もない思考が脳内を駆けめぐる。

 クソッ……ジェネシス。

 頼むよ、なんとかしろよ!

 俺は頭が悪いから、クラウドを慰めたり、セフィロスを引き留めたりするくらいのことしかできない。

 だから、アンタに願うしかないんだ。

 どうにかしてくれ……頼む、ジェネシス……!!

 

 無意識のうちに、繰り返していたおのれの言葉に、なんて勝手な言いぐさだと自嘲する俺であった……