〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
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 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「クラウドを懲戒解雇にするとほざいているのは、上層部のどいつなんだ? エデュケーションの部長か?それとも軍事部門の部門長か!?」

「しっ、セフィロス、声が大きいよ」

 と、ジェネシスが彼をなだめる。

 ……しかし、どうもセフィロスは敵味方の区別がついていないようだ。エデュケーションスクールの学部長が、修習生を除籍しろというはずはないではないか。

 なによりもまずルーファウス神羅の名を出すべきだろう。俺だって考えつくことだ。

 ジェネシスが彼のコトを、政治関係には思いの外疎いと言っていたが、どうやらその言葉は正鵠を射ているらしい。

「エデュケーションスクール側は、チョコボっ子に同情的さ。まだ修習生なんだしね」

「じゃあ、どの野郎だッ!」

 イライラとジェネシスを怒鳴りつけるセフィロス。

「そうだな。ハイデッカーは『役立たずはさっさとやめさせろ!』と騒いでいたがな」

「あの、メタボくそヒゲ野郎がッ!」

 セフィロスが激しく吐きだした。こんな場合なのに、あまりにも的確な人物描写に思わず笑いが出そうになる。

「待てよ、セフィロス。確かにハイデッカーも解雇に賛成しているが、あくまでも上に追従しているだけだ。本心では修習生の進退問題など、どうでもいいことだろう」

「『上』だと? 野郎は軍事部門の部門長だぞ! 無能な男だがな!」

「……『ルーファウス神羅』」

 静かにジェネシスがその名を口にした。

「フツーに思いつくだろ。わかんなかったのかよ」

 と、俺は少しばかり、この政治に疎い英雄にやり返してやった。

「ルーファウス!? なぜ、あのガキの名が出てくるんだ!? 野郎は無関係だろ!!」

「……表向きはね。別に副社長は軍事部門の担当じゃないんだから」

「だったら……!」

「でも、副社長だからね。次の社長になることが決まっている人物だ。軍事部門だろうが、兵器部門だろうが、それこそエデュケーション……企画教育部門であろうが、どこにでも口出しできる立場だよ」

 今にも噴火寸前のセフィロスとは対照的に、ジェネシスの声はどこまでも静かに穏やかだった。

「…………ッ!!」

「セフィロス、あらためて言っておくよ。副社長は君のことを気に入っている。そしてソルジャーでも、別格であるソルジャークラス1stの俺たちのことをね」

 何のてらいもなくジェネシスは告げた。

「今回の事件を引き起こしたのがチョコボっ子じゃなかったら、ここまで修習生の進退問題に口出しなどしなかったろう」

「クラウドだからだってのか!? それこそ『特別扱い』じゃねェか!」

「……そうだね。そしてあの子の引き起こした事件で、俺とおまえ……ふたりのソルジャークラス1stが、結果的に救助作戦に参加することになり、そのうちのひとりは負傷した」

 セフィロスのことだ。

 もっともたいした怪我ではなかったが、病院に行ったから、記録はしっかりと残っている。

「俺の怪我なんざ、擦り傷程度だ! てめェだって、知ってんだろうが!」

「もちろん、知っているさ。だがね、怪我の度合いなどは問題にならないんだよ。報告書には『負傷した』との記載しかないんだから」

「………………」

「……わかるか、セフィロス。おまえは無理矢理、チョコボっ子の研修旅行についていった。休暇でもないのに、ごり押しでな。……その結果がこれだ」

 ひどく冷ややかにジェネシスが宣告した。まるで、クラウドがやめさせられるのが、セフィロスのせいだというように。

「だが……ッ! もし、オレがいなければ、クラウドは無事じゃすまなかったんだぞ!」

「そう。そのとおりだよ。……あの子は兵士部門の修習生だ。見習い兵から一般兵へ……通常通り昇格していけば、危険な戦場へ出て行く機会が増えるだろう」

「……そんなことはわかっている! だが、ミッションなら、オレたちソルジャーが同行することも多いし、側に置いて守ってやることもできるだろう!?」

 だだっ子のように英雄が叫んだ。

「おまえがいないミッションではどうするつもりだ? いや、むしろそういったケースのほうが多いだろう。赤の他人に『クラウドを守れ』と命じるのか? 同じ立場の神羅の兵士に?」

「…………ッ!」

「これから先、あの子が神羅の兵士である間中、側について守るつもりか? そんなことで、クラス1stの仕事を果たせると思っているのか?」

「お、おい、ジェネシス……」

 オレは容赦なく言葉を重ねるジェネシスの腕を引っ張った。またもやセフィロスが激昂するのではないかという懸念と同時に、なんだかクラウドのために必死になってくれている『神羅の英雄』が気の毒になってきたからだ。

 セフィロスのクラウドに対する特別な感情には、正直未だに素直に賛成することはできない。だが、今回の研修旅行での事件は、引率ソルジャーである俺の責任だし、セフィロスは無関係だ。だがこんなにもクラウドを守ろうとしてくれる彼に、俺はいつの間にか感動を覚えていた。

「……じゃあ、どうしろってんだ!」

 叩き付けるようにセフィロスが叫んだ。俺自身、周囲の目に気配りする余裕も、もうなくなっていた。

「おまえがチョコボっ子を本気で好いているのはわかっている。別にその感情を捨てろとはいわない」

 いや……アレ……捨てさせてくれよ……

 俺は心の中でひそかに突っ込んだ。

「……だが、あの子は神羅の兵士だ。おまえはそれをきちんと認識しろ」

「バカを言うな! そんなことオレだってよく知って……」

「そういうことではない。『認めて識れ』。想い人で在ると同時に、神羅の兵士だと、『認識』するんだ。ひとたび、戦場に出れば、銃弾はおまえの恋人だけを避けてはくれない。あの子が軍人として成長するのを遠くから見守れ」

「…………ッ!!」

「それができず、ずっと側についていたいと考えるなら、今回のようなことは何度でも起こるぞ? あの子を辞めさせて、ただおまえだけの恋人にしないかぎりはな」

「お、おい、そんな……! それじゃあ、クラウドが……!」

 俺は慌てて割って入った。

「もちろん、チョコボっ子に拒否権はある。……俺は今後の話をしているだけだ。もし、今回の一件を上手くクリアしたらな」

 ジェネシスはそれだけ言い置くと、セフィロスをおいてさっさとティールームを出ていってしまった。

 俺は後を追おうと考えたが、即座に考え直した。

 セフィロスに付いていよう、と。

 彼が副社長室に殴り込みに行くことを心配してではない。

 さきほど、ジェネシスに言われたことを、きっと気が遠くなるほど反芻しているであろうセフィロスを、一人残していくのがはばかられたからだ……