〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<4>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 バンッ!

 と叩きつけるような勢いで、ドアが開かれた。まるで、石壁を割り砕くような音に、風を起こして俺たちは振り返った。

 ダスッダスッ!

 と、地を揺るがすような足音を立て、こちらに向かってくる熊のような巨躯の男……

 

「げ……ッ」

 思わず俺は喉の奧から、吐き戻すような音を立ててしまった。

 腰を抜かした俺の視点からは、ものすごいあおりパースで、その男は視界を遮った。

「セ、セ……」

「おい……てめェ……」

 地の底から響いてくる、空恐ろしい声。いつも怒鳴り声や下品な笑い声ばかり聞いているせいか、怖いくらいの凄みを感じる。

 セフィロスが俺の襟元をぐいと掴み締め、そのままつり上げた。

「ぐぅ……お、おい、セ……セフィロス……」

「ザックス……貴様……」

「セ、セフィロス……!」

 何か言おうと試みるが、喉元を締め上げられては不可能だ。

「セフィロス、落ち着けよ」

 ジェネシスが今にも噛み付いて来んばかりの英雄の腕を取った。俺を床に降ろさせ、人目から庇うように側近く引き寄せる。

「貴様ら……今の話……」

「セフィロス…… いいから……ほら!」

 ジェネシスは握りしめた腕をそのまま、ぐいぐいと下に向けて引っ張った。セフィロスは崩れるように椅子に腰を下ろした。

 ヤツの氷のような色合いの双眸に、ふつふつと怒りの炎が燃え上がり、呼吸さえも、肩で押さえつけているようなカンジだ。まるで気を抜いたら、一挙に噴火せんばかりに。

「ザックス、大丈夫か。ほら、座って。腰抜かしている場合じゃないよ」

 ……実際締め付けられた首が苦しかったわけじゃないんだ。ただ、セフィロスの迫力に圧倒されただけで……ヤツにとっては、クラウドの進退問題がここまで激するほどに重大事なのだということはわかった。

「……セフィロス、ほら、お茶しながら話そうよ」

 ジェネシスは、まだ口を付けていなかった紅茶のカップをセフィロスにすすめた。

 だが、噴火寸前の英雄はそんなものに目もくれない。

「貴様ら……先ほどの話は本当なのか!? 上層部のゴミどもがクラウドを……!?」

 俺は困惑してジェネシスを見た。

 答えは『ハイ、そうです』なのだが、正直にそういったら、即座に連中を叩き斬りに飛んでいきそうな勢いだったから。

「……そういう動きはあるってことだよ。想像もしていなかったのか、セフィロス?」

「…………」

 ジェネシスは逆にヤツに問い返した。一瞬返答につまるセフィロス。激昂していた感情が、わずかに呼吸をずらされた感じだ。

「チッ……!」

「相変わらず社内情報には疎いな、おまえは。逆に訊ねるが、チョコボっ子が何のお咎めもなしで済むと思っていたかい? それこそ不自然じゃないか?」

「……今は、謹慎中だと聞いている……! 可哀想に……」

「それはただ単に正式な処分決定がなされるまで、待っていろってことだよ。それに可哀想とはいうけど、仕方がないことなんじゃないか? 実際、あの子が禁止されていた夜間行動をしたことによって、今回のトラブルが引き起こされたんだから」

「ジェ、ジェネシス……」

 クラウドを庇ってくれないジェネシスに、俺は思わず声を掛けていた。だが、目線が合うと、彼はあのいたずらっぽい微笑を浮かべて微かに頷いてみせた。

「それは……! 確かにそうだったのかもしれないが…… だが、あの子だってこんな事態になるとは思っていなかっただろう! なんとか自分の役目を果たそうと、頑張った結果が想定外の状況になってしまっただけだ」

「そうか。だったら、やはり、あの子に神羅の兵士になるのは不向きなんじゃないかな。返って今回のことで適性がわかったとも言えるかな」

「おい、ジェネシス、てめェ!」

 ようやく落ち着いたと思ったのに、噴火寸前のセフィロスは、すました面持ちのジェネシスの襟首を引っ張り上げた。

「…………」

「貴様は、あの子がどれだけソルジャーにあこがれているか知らんのか! 母ひとり子ひとりにも関わらず、のどかなで平和な田舎町を捨て、たったひとりで必死に努力して神羅に入社したんだ!」

「…………」

「そんなクラウドの努力を……たった一度の失敗ですべて無に帰せと? そういうのか、貴様は!」

「……そうさせたくないんだろう? あの子のこれまでをゼロにしたくないのなら、ここが正念場なんだよ、セフィロス」

 そういうと、ジェネシスは周囲をはばかり声を潜めた。

「おまえが激昂して上層部の連中に手など出したら、それこそ取り返しのつかないことになる」

 穏やかにジェネシスが言った。いや、言い聞かせたというほうが近しいかもしれない。

「…………」

「本当にチョコボのことを思うのなら、腕づくではなく、最悪の事態を回避できる方法を見つけるべきだ。……そうだろう?」

「……なにか……策があるのか?」

 と、セフィロス。噴火する火山を、押さえつけるような声音だ。

「色々考えられはするけど…… 下手に動くわけにはいかないからな」

 え……、ジェネシスって、もうそんなに打つ手を考えてんの?

 クラウドのためにわざわざ?

 そんな思いが顔に出てしまったのだろう。ふと視線が絡むと、ジェネシスは目だけで笑ってみせた。