〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<26>
 ザックス・フェア
 

 

 

「……やぁ、セフィロス。おはよう」

 のんきなジェネシスの掛け声に、俺は黙したまま、その情景を棒立ちになって見ていただけだった。

「おせーんだよ、てめェらは。……ああ、痛ってェ……」

 長い銀の髪には、木の葉が引っかかり、黒コートの裾も破れてしまっている。彫刻みたいに整ったツラには、いくつものひっかき傷ができてしまっていて……それはまぁ、ある意味当然っつーか…… 煩わしげに片足を引きずっていたが、それも致命的なダメージになっているようには見えなかった。

「セフィロス、足が……」

「たいしたことはない。ちっとドジ踏んだだけだ」

 どうでもよさそうにセフィロスが言った。

 

 逆にその程度の怪我であったのが、不思議なくらいだ。

 落下地点のここから見上げると、昨夜俺たちが居たはずのポイントが確認できる。正確な位置ではないだろうが、『あの辺り』という程度はわかる。

 そこを見上げると、今更ながら足がすくむのだ。

 ジェネシスなどは、「結構高いねぇ」などと言っていたが、俺などは、もう二度と見たくもない場所だ。

 あの場所からセフィロスは跳んだんだ。クラウドを懐に抱えたまま。

 そして彼を守りつつ、ここまで自分の足で立って歩いてきた……

 ……なんてヤツだ。

 

「セフィロス。……チョコボっ子を預かろう。彼はどんな具合だ?」

 ジェネシスが懐の子供を受け取ろうと側に寄った。もちろん、俺も一緒にセフィロスを囲む。本当はなにか言葉を掛けるべきなんだろう。

 だが俺は…… 俺は、目の前のトップソルジャーに圧倒されていた。

 こいつは本当に強いんだ。腕っぷしだけでなく、判断力、胆力……総じて並外れている。

 とても俺なんざ、敵やしねェ。

「大丈夫だ……この子も擦り傷程度だろう」

 セフィロスは、そっと……それこそ宝物の包みを開くように、そっと腕を開いて見せた。

 そこに、金髪チョコボが、レモンイエローのパーカーにくるまって眠っていた。

 本当にかすり傷程度で済んでいるのが驚異的であった。

「クラウド…… クラウド……よかった」

 俺は、丸くなって眠り続ける、赤ちゃんチョコボの髪を撫でた。

「当然だ。オレが付いていたんだからな」

 クソ偉そうなセフィロスのセリフに、突っ込む気にもならなかった。

「ああ、ホントだよな…… アンタ、やっぱスゲーよ……」

「ケッ。本当はもうちょっとキレイに済ませたかったんだがな。足場が最悪だった」

「雨も風もひどかったからな」

 とジェネシスがつぶやいた。

「……森の方に跳べば、剣もあるし、なんとかなるとは思ってた。そいつァ、予想通りに上手くいったが、泥だらけになった。……クソッ! あ、おい、ザックス! 修習生のガキどもは近づけるなよ。こんな格好は見せたくない」

「ああ、わかってるよ。もうひとりの引率ソルジャーが撤収の準備をさせている」

 クラウドが見つかってすぐに、ジェネシスが指示を出してあったのだ。

 研修旅行はもう終わり。後は皆で神羅本社に引き上げるだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 バラバラバラバラ……

 

「ヘリが借りれたのか。ラッキーだったな」

 空を仰ぎ、人ごとのようにセフィロスがつぶやいた。さすがに疲れた声だ。

「ああ、運良く今日は晴れたからね。地元の警察に交渉したんだ」

「相変わらず手回しがいいな、オメーは」

 そういうと、セフィロスは誰の手も借りずに、ザッと勢いよく立ち上がる。

「行こうか、セフィロス。さすがに俺たちが研修所に合流するわけにはいかないだろうからね。ほら肩を貸すから」

「よけいなお世話だ。テメェで歩ける」

 ケッとばかりに悪態を吐くセフィロス。

「たまには親友に頼れよ」

「貴様はただの鬱陶しい同僚ってだけだ。……おい、ジェネシス、ヘリは病院に直行させてくれ。オレはなんともないが、一応クラウドを診せたい」

「もちろんだ。……おまえだって手当が必要だぞ。……その足」

「軽くひねっただけだっつてんだろ。地面がぬかるんでいて不覚をとった。……他の連中にはいうなよ。てめェもだぞ、ザックス!」

「え、あ、ああ。だが……」

「オレ様に恥をかかせんじゃねーぞ!」

 クソ偉そうにそう言い置くと、英雄はジェネシスと一緒にクラウドを連れてヘリで飛び立っていった。

 

 ……ここまでの出来事が約三十分。

 そう、セフィロスが無事な姿を現してから、わずか三十分後。

 ソルジャークラス1stのふたりは、さっさと段取りを決め、迅速にすべき行動を取って、俺の前から消えていったのだった。

 ……気絶したように眠り続けるクラウドを連れて。