〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<最終回>
 ザックス・フェア
 

 

 

俺が正気に戻ったのは……

 ああ、いや、ちゃんと探索中も、研修所からの撤収作業中も、一応正常な行動はとっていたと思うが、心と頭がきちんとリンクしたのは、ようやくその日の夜になってからのことだった。

 カムランらに修習生の引き上げを任せ、俺は病院へ赴いた。

 当然、セフィロスとクラウドの容態が心配だったからだ。ああ、いや、セフィロスは大丈夫だろうが、とうとうクラウドとは一言も話せずじまいだったから。

 助け出された彼は、精も根も尽き果てたかのように、昏睡していたからだ。

 

「ああ、ザックス。来ていたんだ」

 病室に案内される前に、ロビーでなにやら手続きをしていたジェネシスに会えた。

 田舎町……いや、僻地と言っていいほど、奥地の病院だ。最新の設備が整っているはずもない。

 クラウドの状況によっては、早々にミッドガルへ搬送せねばならぬと覚悟した。

「ああ、ジェネシス。……すまん、いろいろと」

「いや、そう気にするな。……彼らの様子を見に来たんだろう? 修習生たちは大丈夫なのか?」

「ああ、もちろん。引率は俺だけじゃないからな。引き上げて社に戻らせた」

 俺はそのとおりに答えた。クラウドが見つかってから後は、あっさりと……いや、想像以上に予定通りに進行した。

 

「そうか。彼らに動揺が無ければいいのだが」

「そうだな。クラウドが無事だったことは伝えてあるから。同じ班の連中も安心していたよ。彼が社に戻れたら、よろしく頼むと告げておいた」

「そうか……」

 思案顔で頷いたジェネシスだったが、いい加減、俺がクラウドに会いたくて疼いているのに気づいたのだろう。

 まずは話をすればいいということで、病室に案内してくれた。

 病院内は、想像通り、到底近代的とは言い難かったが、古いなりにも清潔感があり、俺はホッと息を吐くことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ザックス……! ザックス〜ッ!!」

「クラウドッ!」

 クラウドは今にも俺に抱きついてきそうなほど、ベッドから身を乗り出した。そいつを慌てて押しとどめる。もちろん、彼の怪我に障るのが心配だったのと、隣の寝台のセフィロスが、鬼のようなまなざしで睨み付けてきているからだ。

「ザックス! ザックス! ごめんなさい。心配かけてごめんなさいッ!! め、迷惑掛けてごめんなさい!!」

 さすがにコイツにもコトの重大さが理解できるのだろう。ヒシッとしがみついてくるなり、そう言って泣き出してしまった。

 ますます英雄の眼差しが恐ろしいモノに変わってゆく。人を殺せる視線っつーのは、こういうのを言うんじゃないだろうか?

「いや、もういいから。ほら、身体に障るぞ、クラウド」

「でも……でも……」

「そういう話は、本社に戻ってからだ。今は早く身体を元に戻さんとな」

 そういいながら、彼の背中をぽんぽんと叩いてやった。

 ヒックヒックと息を引きつらせているのが、ひどく可哀想に見える。結果的にこんな大事になってしまったが、クラウドがわざとこんな事態を引き起こしたわけではないのだ。

「う、うん…… セフィロスさんやジェネシスさんにも……すごく迷惑掛けちゃって……おれ……おれ……」

「よしよし、クラウド。その話はもう済んだだろう? ちゃんと指導教官に謝罪すれば問題ない」

 そういうと、セフィロスは俺の胸から、ひょいとクラウドを抱き上げて、よしよしと背を撫でた。

 ……まるで赤ん坊をあやすお母さんだ。

 

 ……だが、『問題ない』ってことはない。

 セフィロスみたいに、最初からVIP扱いのトップソルジャーにはわからないんだろう。

 今回の一件、上層部に話が漏れれば、俺は降格は当然として…… 当の本人のクラウドは……下手をしたら除籍だ。

 『除籍』

 ……つまり、解雇ということである。

 状況が状況だったとはいえ、地元警察の協力を得ることにさえなってしまったし、なにより……

 そう、なにより、セフィロスとジェネシスがこの一件に関わってしまったという事実が大きい。

 このふたりの性格上、正式に休暇をとって……という手段も踏んでいないのだろう。ああ、ジェネシスはその辺、上手くやっているかも知れないけど、セフィロスは有給休暇はもう残っていないはずだ。

 いったいどうやって、この場所を突き止めて、やってきたのかは知らないけど……

 

 だが、この事態。

 修習生を救出したソルジャークラス1stのふたりには、おとがめ無しだろう。無理矢理、休暇を取っていたとしても、今回の活躍でチャラになるはずだ。

 だが、そのふたりのトップソルジャーの手を煩わせたクラウドは……

 今回の一連の事件が、ルーファウス神羅の耳にでも入ったら、十中八九、除籍処分が決定されるだろう。

 いや、なんといっても、あいつは副社長なのだ。

 こんな些末なことにまで首を突っ込むとは思えないのだが……いや、これはやや希望的観測だろうか。

 

 ……ああ、いかん。

 暗い顔をして、ここでグズグズ考えていても致し方がない。

 怪我人のクラウドに、不安な思いをさせる必要など、今はまるでないのだから。

 

「……三人とも。明後日、本社から迎えが来るから。ミッドガルに着いたら……その……」

「ああ、わかったよ、ザックス。……さて、そうなると、いろいろ手続きがあるな。手伝ってもらえないか?」

 先回りするように、ジェネシスが話を引き取った。セフィロスなんざクラウドに夢中で俺の話など聞いていないありさまだ。

「一緒に、フロントへ行って、事務方に手続きをしてほしい」

「え、あ、ああ?」

「じゃあな、セフィロス。チョコボっ子を頼むぞ」

「ふん、貴様に言われるまでもない」

 ツンと偉そうに顔を背けると、すぐにクラウドに注意を向け直した。

「さぁ、クラウド。もう一度横になったほうがいい」

「セ、セフィロスさん……」

「大丈夫だ。オレがちゃんと守ってやる。何も心配するな」

「セフィロスさん……」

「よしよし。不安なら今夜は一緒に寝てやるからな。大丈夫だ、なにも怖いことはない……」

 ネコ好きが、子猫にささやきかけるような口調で目尻を下げ、セフィロスはメソメソと涙を流すクラウドを抱えて寝かしつけた。

 普段なら、連続技を駆使して、速攻で止めに入るところだが……今はそんな気持ちの余裕がなかった。さすがのセフィロスも病院内でとんでもないことはしないだろうし、かすり傷とはいえ、クラウドはまだ本調子ではないのだから。

 

「やれやれ、ザックス。……これからがちょっと厄介だねェ」

 ロビーへの行きがてら、天気の話のようにジェネシスがつぶやいた。

「ああ。俺は降格でもなんでも覚悟しているさ。……だが、クラウドが……」

「うん。俺たちが出てきちゃったのが仇になったね。……最終的にはね」

「お、おい! そんな言い方すんなよ。アンタらが協力してくれたからこそ、クラウドは無事に……」

「まぁ……『救出』まではね」

「…………」

「セフィロスは上層部がどう判断するかなんて、想像もしないだろうけど……あの性格だからな」

「……ああ、あの人は仕方がねぇよ」

「ん……」

「……ジェネシスは……どうなると思う?」

「最悪は『除籍処分』……解雇だろうね。修習生という身分なんだし、いたずらや悪気があったワケじゃないのだから、そこまではいかないと思いたいが……」

「ああ……それはもちろん」

「だが……副社長あたりの耳にはいると厄介かな」

 ああ、やっぱりジェネシスもそう思っているんだ。

 そりゃそうだよな。……俺が考えつくことなんざ、この人はとっくに予想済みなはずだ。

「……ま、あまり深刻になっても仕方がない。いざとなったら、俺たちも最良の対応をするよう努力しよう」

「頼むよ。……ホント、悪ィな、ジェネシス」

「バカだなぁ、ザックスのせいじゃないだろ?」

 そんな風に言われて、ちょっと涙腺が緩みそうになっちまった。

 夜空に瞬く満天の星を眺め、俺は柄にもなく祈ったんだ。

 

『どうか……どうか……クラウドが無事に研修生を続けられますように……!!』

 声には出さなかったが、またもや俺の気持ちを読んだのか、ジェネシスも何も言わぬままに、夜空を仰いだのであった。

 

 散々だった研修旅行。

 一瞬の気のゆるみが命取りだと、身をもって体験させられたこの一件以来、自らの心持ちが少し変わったような気がする。

 だが、その自覚はもっとずっと先の話で……

 

 ……俺たちにとって、目下の大問題は、数日後に迫ったミッドガルへの帰還であった。





 TO BE CONTINUE……?