〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<6>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

『研修なのだから、浮ついた気持ちでいてはいかん!』

 と一喝、教務官が訓練機の中で、浮き足立つ修習生に注意を与える。ちなみに彼らの任務は、訓練機で無事修習生を研修地に送り届けることで、現地での実習は俺たち現役ソルジャーが見ることになるのだ。

 まだまだ14,5才のガキばっかりだ。クラウドだけではなく、この時始めて飛行機に乗ったという連中もいるのだろう。皆一様に興奮している。

 だが、そこは子供の遠足と神羅の兵士見習いの差だ。

 上官の命令には、すみやかに従う習性を叩き込まれているのであった。

 

「クラウド……大丈夫か?」

「麦茶、飲む?」

「ポカリとかのほうがいいんじゃね? 俺、すぐ出せるぞ」

「あ、僕、酔い止め持ってきてるよ? クラウドも持ってるって? でも、リュック降ろして中探すのつらいだろ? 遠慮するなよ」

「タオルしぼって来た! 額に乗せてやってくれ」

 後ろのほうの席からざわめきが聞こえて、俺のとなりに座る教官が立ち上がった。

「あ、いいッスよ。俺、見てきます」

 そう言い置いて、足早に機内奥に向かう。すでに安定飛行に入っているので、それほど難儀ではなかったのだが……

「おい、大丈夫か?」

「あ、ザックスさん!」

 クラウドを守るように周囲を取り巻いていた同級生らが俺の姿に気付いて、わらわらと道を開けてくれる。

「おう。乗り物酔いか?」

「そうみたいです。今、酔い止め飲ませたんだけど……」

 真面目そうなメガネの少年がそう言った。クラウドと背丈の変わらない、どちらかというと小柄な修習生だ。

「クラウド、大丈夫か?」

「え……あ……ザックス?」

「なんだ、おまえ、飛行機ダメなのか」

「だって、乗ったの……初めてだもん。気持ち、ワルイ……」

「吐きそうか?」

「……わかんない。今はまだ……平気っぽい」

 口を動かすのもしんどそうに、クラウドはつぶやいた。あー、セフィロスがいなくてよかった、ホント。もし、この場に野郎が居たら、強引にパイロットに命じてどこぞに着陸させそうだ。

 そしてクラウドと一緒に勝手に降りて、『この修習生の面倒はオレ様がみる!』とか抜かしてよ……相手は神羅の英雄。そこらの教官や2nd、3rdじゃ意見のしようもなかろう。

 あー、あぶねーあぶねー。さてと……

「よし、吐き気止めの応急処置。クラウドで実地訓練だ!」

「う〜……ザックス〜」

 うらみがましい眼差しで、クラウドが睨み付けてくるが、本人は楽になるわけだし、一石二鳥だと思う。

「いいからいいから。すぐ楽になるからな」

「うん……」

「よし。いいか、まず靴を脱がせて、足に毛布を掛けてやれ」

 傍らの修習生が丸められた毛布を丁寧に広げ、クラウドの膝に掛けた。

「次。足元に注目。強い吐き気のあるとき、足は冷たくなるんだ。だから、足のツボを刺激してやると具合がいい。……足の第2指を下に曲げてみろ。え?靴下履いてるって? ああ、じゃあ、だいたいでいい。指の先端がつく所に『裏内庭』っつーツボがあるから。そこを強すぎないくらいの力で押してやれ」

「はい!」

 俺の両脇に立っていた修習生ふたりが、すぐに指示通りに動いた。

「それから、冷たいタオルを首の裏に。反対に肩は冷やさないように気を付けろ」

「あ、俺、もう一回タオル絞ってくる!」

「余分の毛布後ろから取ってきた!」

 くるくると小気味よく動き回る修習生。あー、初々しい。普段毒された場所(1stの執務室)に出入りする機会の多い俺にとっては、非常に新鮮で清廉に感じるのであった。

「……あ、なんか……収まってきた……みたい」

 皆が見守る中、クラウドが恥ずかしげにポソポソとつぶやいた。

「よし、毛布は掛けたままにして、できれば目的地まで眠っちまえ」

「うん……」

「クラウド、喉、渇かない?」

 観察力があるのか、メガネの少年が目を閉じたクラウドに小声で問いかけた。

「あ、うん……身体、あったかくなってきたら、のど……渇いてきたかも」

「はい。血糖値が下がっているかもしれないから、スポーツ飲料だけど……」

「あ、ありがと。……なんか、ごめん」

「何言ってるんだよ。まだいっぱいあるんだから、気にしないで」

 水に溶かすだけのアルカリイオン飲料の袋を、ひょいと持ち上げて見せてくれた。なんだ、クラウド。普段無愛想で引っ込み思案なくせに、いい友だちに恵まれているじゃないか。この真面目そうな少年ももちろん、同じクラスの連中はなかなか友だちがいのありそうな奴らだった。

 ……そりゃ、クラウドの周囲がこんな連中ばかりなら、俺だって、セフィロスとクラウドのことをそこまで心配はしないのだが……やっぱり現実は違うはずだ。

 つい先だっての、おたふく騒動のとき……あの、ルーファウス神羅の態度……あれがたぶん、普通のヤツの反応なんだと思う。強く欲しているのはセフィロスのほうなのに、非難の眼差しは無力なクラウドに向けられるものなのだ。

「……ザックスもごめん。騒がせちゃって」

「え? ああ、いや、いいさ。応急処置の実地訓練も教えられたしな」

 そういってやると、線の細いクラウドのおもてが、やわらかく溶けた。

「よし。みんな、協力ご苦労。まだしばらく飛行機の旅が続くからな。身体を休めておけよ」

 先輩らしくそう言い残し、俺は自分の席へ戻った。