〜 出逢い 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<6>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「そうだ、クラウド。俺、おまえに謝らなきゃ」

 やや唐突だったが、そんな風に俺は切り出した。

「え? な、なにが?」

 クラウドがキョトンとした表情で俺を見る。

「いや……同室に新入社員が来ることは事前に知らされていたんだけどさ。式典の警備の仕事が思ったより長引いちゃって…… 指示だけ出して部屋に戻ろうと思っていたんだけど、なかなか現場、離れられなくてな。心細い思いさせたんじゃないかなって……」

「え、あ、そんなこといいんだよ。ザックス、仕事だったんだから」

「まぁ、そうなんだけどよ。最初って、みんな、不安じゃん? それにこの部屋、俺とおまえしかいないわけだからな。大丈夫だったか?何か困ったこととかないか?」

「あ…… う、うん……」

 クラウドが口ごもった。

 彼は、もじもじと居心地悪そうに身じろぎしていたが、ふぅっと大きく吐息をついた。

「……クラウド?」

「あ、う、うん……実はね……」

 言いにくそうに彼は小さな声で切り出した。

 クラウドの告白は、俺には衝撃的だった。

 ……多分、クラウド本人が感じているのとは、別の意味合いで。

 あのクソ意地悪い、面倒くさがりのトップソルジャー・セフィロスが、わざわざ新入社員を式場まで連れていっただと?

 しかも、クラウドの手を引いて、やさしい声で親切に誘導してくれた……だと?

 この段階で俺は耳を疑わんばかりであった。

 ……ってゆーか、どこぞの『セフィロスさん』とお間違えなのでは?と、ベタなジョークを飛ばしたいくらいに。

 

「あのね……それでね…… すっごくみっともない話なんだけど…… おれ、自分が情けなくってさ……憧れのセフィロスさんに、こんなダメなところ見られたショックもあったんだと思うんだけど……」

 そんなふうに前置きして、彼はウジウジと下を向きながら言葉を続けた。ああ、やはり、別れ際に嫌みのひとつでも言われたのだろうか。

「おれ……泣いちゃったの。ううん、泣くつもりはなかったんだけど、なんか色々思い出して…… 涙が止まらなくなっちゃって。そしたら、セフィロスさんが……」

「セ、セフィロスが……?」

「うん。セフィロスさん、何も言わないで、ずっと側に付いていてくれたの。おれが泣きやむまで、ずっと」

「ええええッ!?」

 信じられない展開に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「な、なに? どうしたの、ザックス?」

「あ、い、いや……」

「うん……それでね、しばらくしてから、『落ち着いたか?』って、すごくやさしい声で訊いてくれて。おれ、急いで謝ったんだけど、『別に謝罪する必要はない』って、頭撫でてくれたの」

 もはや俺は失神寸前であった。

「そのまま手を引いてくれてね、式場まで連れてってくれたんだ。恥ずかしかったけど……嬉しかった」

「あ、あの、ちょっ……待て、それ、本当にセフィロスか? おまえ、勘違いしているだけじゃ……」

「ううん。セフィロスさんだよ。あの人とだれかを間違えるはずないじゃない」

 そりゃもっともだ。

 クソ長い銀髪に、ムカツクほど整ったツラ……そして、2メートル近くありそうな長身。 一目見たら、まず見違えることはないだろう。

 ……クラウドが遭遇したのは、やはりセフィロス本人らしい。

「最期にね、おれの背中そっと押してくれたの。『大丈夫だから、行きなさい』ってカンジで」

「あの……いや……それ……ちょっ……」

「セフィロスさんって、テレビや雑誌でしか見たこと無かったから、ちょっぴり怖い人かなぁって思ってたんだけど、そんなことないんだね。とってもやさしい人で、おれ、すごく嬉しかった」

 いや、怖ェし、意地悪いっつーの。

 なんだ、この俺とクラウドの、セフィロス像の乖離は……?

 いやいや、セフィロスと付き合いのある連中は、大抵こっちと同意見だろう……

 ということは、つまり、クラウドのセフィロス像が特異なのだ。

 アンジールならともかく、あのセフィロスが、見ず知らずの一新入社員の手を引いて式場に連れていくなんて……想像も着かないビジュアルである。

「……ックス?」

「え……」

「ザックス? どうかした?」

「お、おう、いや、そうか。そりゃよかったな」

 もはや適当に相づちを打つ余裕しか、俺にはなかった。

「うん。……でも、ホントはソルジャーになれてから口を聞きたかったな。やさしくしてくれたけど、きっと『ダメな子だな』って思われたよなァ」

「え、いや、そんなことはないだろ」

「そんなことあるよー。あ〜あ、セフィロスさん、おれのことなんて忘れてくれないかなァ。修習生のうちはほとんど会う機会なんてないだろうけど……」

「……ま、まぁ、そんなに気にすんなよ。たいした失敗じゃないって」

「う〜ん…… でも、やっぱしね……」

「さ、クラウド。ダベッてないで、荷物かたせよ。俺も手伝うし。メシ、食いっぱぐれるぞ」

「あ! そうだよね! 教官に施設設備の手引き書読んでおけって言われてるんだ!」

「ああ、そんなのァ、俺が教えてやるから。まずは荷解きしないと、シャワーも浴びれないぞ」

「うん!」

 屈託もなく素直に頷くクラウドに、俺は一抹の不安を感じざるを得なかった……