〜 出逢い 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<5>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 ……金髪チョコボが部屋に居た……

 到底、クラウド本人には言えないが、彼と会った第一印象はそんなカンジだった。

「あ、居たんだ。ノックもせずに悪い!」

 片手を「すまん!」というように持ち上げて、ちょこんと座ったチョコボっ子に謝罪する。

「あ、い、いえ…… あ、おれ……」

「確かクラウドって言ったよな? もらった名簿に名前、載ってた」

「あ、は、はい」

「同室のザックスだ。これからよろしくな!」

 ドアを片手で閉め、ベッドに座り込んでいた彼に握手を求めると、クラウドは慌てて立ち上がり、勢いよく頭を下げた。俺の片手はからぶりだ。

「あ、あのッ、こ、こちらこそ! どうぞよろしくお願いします!!」

 おいおいおい。礼儀正しいのはいいかもしれないが、ルームメイト相手にそれじゃ疲れちまう。それに先輩とは言っても、対して年も変わらないし、妙な上下関係は苦手だ。

「あ、悪いけど、俺、敬語とか苦手なんだよ。ふたりきりの部屋なんだし、もっと楽にして欲しいんだけど」

 そういうと、クラウドは大きな水色の瞳を見開いた後、少し困惑したように眉を顰めた。もうちょっと具体的に言ってやった方がいいのかもしれない。

「俺はクラウドと友だちになりたいんだ」

「え……」

「俺、最近まで一般兵だったし、あんまり先輩扱いされるの好きじゃないんだ。上下関係とか苦手だし。だから普通にしゃべってくれよ。ダチだと思って」

「あ、は、はい……あ、うん。ザックスさん」

「『ザックス』な。クラウド」

 そういって、ぽんと肩を叩いてやると、ようやく緊張が解けたらしかった。彼はようやく笑顔を見せ、

「うん、わかった。ザックス」

 と言ってくれた。

 笑うと、もともと少女めいた色白の面が、ふわりと花開くようでとても可愛い。彼は女顔なのだ。

 海の色を模した大きな瞳、長い睫毛が煩いほどで、高すぎない鼻梁はツンと尖っていて、そこも愛らしい。今年の新入社員ということは、きっと13,4才くらいだろう。

 だが、後数年もすれば、そこらの女が放っておかないような美青年になりそうなヤツだった。

「よし、クラウド。荷ほどき手伝うぜ。一段落したらメシ食いに行こう」

「う、うん。でもザックスはお仕事なんじゃないの?」

「今日はもうオフだ。ルームメイトが来るって言ったら、上の連中が気を利かせてくれたらしい」

 そういってウィンクすると、クラウドはびっくりしたような顔をし、

「もしかして、迷惑掛けたのかな」

 などと言い出す。

 ガキんちょのくせに、ずいぶん気遣いのあるヤツだ。でも俺のことでそんなふうに心配顔をさせる必要はなかった。

「違う違う。全然、そんなことねぇよ。むしろラッキー!アンジールにも言われてきたんだ。ちゃんと手伝って、いろいろ教えてやれって」

「アンジール?」

「ああ、俺、一応1stのアンジールって人に面倒見てもらってるんだけどさ。すごくいいヤツなんだ。ただ強いだけじゃなくて、頼もしくて思いやりがあって。いつも『夢を持て、誇りを持て』って言われる」

 尊敬するアンジールのことに話が及んだせいか、俺はずいぶんと熱心に彼について語った。この場所に来たばかりのクラウドは、まだ面識がなかろうが。

「あ、あの……ザックス。1stって…… ソルジャーの……?」

「アンジールは、ソルジャークラス1stなんだぜ。俺も早く同じ位置に並びたい!」

「ザックスは……ソルジャー?」

「ああ。とはいっても、まだ2ndだがな。頑張るぜ〜」

 シュッシュッと拳を振るってみせる。

 そう、俺は必ずソルジャー1stになる。いつまでもアンジールの後を追いかけているだけの『子犬のザックス』などという不名誉なあだ名は返上だぜ!

「ザックス、すごいんだね。ソルジャーなんだ!」

「お、おう!」

 クラウドは何の屈託もなく、純粋に驚いているようであった。

「俺さ、神羅入ったのって、ソルジャーに憧れてなんだ。ド田舎から出てきてさ。おまえと同じように学校入って、研修生になって」

 ちょっと照れくさかったが、昔のことを話す。クラウドは熱心な面もちで聞いてくれる。

「そうなんだ…… ザックスも研修生だったんだね」

「そりゃそうさ。おまえと同い年で入社したんだから」

「そっか……」

 クラウドはうんうんと何度も頷いた。頬が桃色に昂揚している。

「な、おまえは? 何か夢とかあんのか?」

 俺はすぐさま、そう訊ねた。

「あ、う、うん。……あ、あの…… わ、笑わないでね、ザックス」

「バカ言ってんな。笑うはずないだろ」

「うん…… おれ……おれもソルジャーになりたいんだ。ザックスみたく、すぐにはなれないだろうけど……でも、努力して絶対にソルジャーになるんだ!」

「そうか!」

 俺は嬉しくなった。

 同室になったのがクラウドでよかった。彼は純粋に『夢』を持って神羅に入社してきたんだ。何年か前の俺と同じじゃないか。

「そうか、そうか! クラウドがルームメイトでよかったぜ! 一緒に頑張ろうな!」

「ザックス……」

「俺も何年か前はおまえと同じ制服を着て、ここに入って来たんだ。スタートはみんな同じなんだよ。おまえだって、ソルジャーになれたらそれで終わりってわけじゃないだろ?」

 そういうと、クラウドはコクコクと何度も頷いてみせた。チョコボの尾のようなトンガリがそのたびに前後に揺れる。

「俺、英雄になりたいんだ!」

 俺はついそう口走っていた。

「英雄……? セフィロスみたいな?」

「ああ、そうだな。『英雄』になりたい」

 クラウド相手だからだろうか。ついついそんな言葉まで口を吐いて出てしまったのだ。

「もっとも、ラザードなんかは、『かないそうにない、いい夢だ』なんて言いやがるがな。クソッ、見てろ!」

「ラザードって……」

「ああ、ソルジャー統括の人だよ。話せばわりといいカンジの人だ」

 取っつきにくそうなインテリ銀縁メガネの男を思い出しながら、そういってやる。

「すごいなァ、ザックスは…… なんか、おれなんかとは別世界の話だよ……」

「そりゃ、おまえ、今日入社式終えたばっかだろ。これからこれから!」

「あ、う、うん、そう……だよね」

 『入社式』という言葉を口にした瞬間、クラウドの表情が曇った。

 そう……気にはなっていたのだ。

 入社式の当日、各地から新入社員が本社に集まってくる。まず、この寮に誘導され、荷物の確認を終えた後、本社ホールで式典に臨むことになるのだ。

 もちろん、この日初めて本社に足を踏み入れる新入社員も多い。それゆえ、同室の者が新入社員の面倒を見て、滞りなく式場へ誘導するのが常となっているのだが……

 あいにく、この日、俺はアンジールと共に、式典の準備に奔走せざるを得なかったのだ。頼りにされる身はツライ……じゃないが、気が付いたらすでに式典開催の時刻を過ぎていた。俺自身は出席するわけではないが、裏方で警備の指揮を執っていたのだ。

 同室の少年のことが気にならなかったわけではないが……