Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<14>
18禁注意
 セフィロス
 

 

 

 

 

 一度、絶頂まで追いやりかけた肉体は、簡単に火がついたらしい。

 くの字に身を折り曲げ、押し寄せる快感を必死にこらえている。骨張った指をオレの髪に差し込んで、なんとか引き剥がそうと無駄な努力した。
 
 こんなときでさえ、ヤツは力任せに、髪を引っ張ろうとはしないのだから。

 

「……あッ……ああッ……」

 口腔での愛撫を、指に変え、露を含んだ先端にわずかに爪を立てる。

「……んあッ……あああッ……セ、セフィロス……ッ!」

 堪えきれない悲鳴が喉奥からほとばしる。指の腹で一番敏感な部分を擦り上げ、奥に潜り込ませた中指をぐっと折り曲げてやった。

「……いッ……あッ……ああああッ!」

「いい声だ。……泣き顔が可愛いな、ヴィンセント……」

 痙攣する薄い腹を撫でながら、オレはうっとりとそうささやいた。ヤツを虐めるためではない。本当にそう感じて口をついた言葉だった。

 

「……ッ……あッ……セ、セフィ……」

 執拗な愛撫に吐き出しかけ、そのたびにギリギリのところで熱を冷まされ、それを何度くり返したところであったか。

 ヴィンセントの両の手が、抱擁を求めるように少し低い位置にある、私の肩におずおずと巻き付いてきた。紅い双眸に光はなく、彼がすでに、もうほとんど正気を保っていないと知れる。

「……セフィ……ロス……」

 壊れた人形がオレを呼ぶ。

 からみついてくる細い腕が愛おしく感じる。

 ……『愛おしい』だと? バカなことを……もう「人」でさえない、このオレがそんな感情をもつなど埒の外だ。クラウドを手元に置き、慈しんだあの頃とは違うのだ。

 

「……セフィロス……もう……」

「限界か?」

 人の悪い微笑を浮かべ、からかうようにそう訊ねてやった。

 だがヴィンセントは表情を変えなかった。羞恥に頬を染めたり、歯を食いしばって吐息を押さえることすらしなかった。

 オレの言葉にカクンカクンと頭を縦に振る。長い黒髪が、それに合わせて乱れて広がった。 

 

「どうして欲しい……? ヴィンセント」

 酷い仕打ちをしていると自覚しつつも、朱のはかれた耳朶にささやきかけた。

「……あ……」

 視線の定まらない瞳で、オレを見る。

「……ヴィンセント……?」

 

「……やめないで……くれ……」

 吐息混じりのつぶやき。

「やめないで……最期……まで……はや……く……」

 途切れ途切れに、震える口唇で希う。

「そう、それでいい……」

 オレは聞き分けのいい子どもにするように、額に口づけ、乱れた黒髪を撫でてやった。

 すると、縋ってくる細い腕に、微力ながらも力がこめられ、霞のような肢体がしがみついてくる。

「……ヴィンセント……」

 ヤツの名を呼び、唾液を伝わせている唇に接吻する。

 まるで魂の抜け殻のような……白痴のようなコイツは、何て妖しく美しいのだろう。

 

 未だ、何の刺激も与えていないのに、オレ自身の下腹に熱が滞留してゆくのがわかる。それはずっと前から置き火のように燻っていたが、今は小さな炎となって下肢を焼き付けるようだ。

 ヴィンセントの常ならざる媚態は、直接オレの身体に触れる以上に、興奮をもたらすらしい。

「セフィ……ロス……セフィロス……」

 譫言のようにオレの名をつぶやく。

 交わることも可能かと思われたが、やはりヴィンセントの身体にかかる負担は否めない。 

 オレは、しがみついてくる華奢な肉体をなだめつつ、上から押し倒すと、その肢体に覆い被さった。

 さんざん焦らし、固く強ばった熱の中心を、再度口腔に収めると、舌で刺激してやる。途端に、鼻にかかったような喘ぎが漏れ、オレの耳を楽しませてくれる。

「……んんッ……あッ……ああああッ! セフィ……ッ! セフィロス……ッ!」

 髪に差し込まれた指が、彼の肉体の限界を告げている。

 オレは、高ぶりきった肉体の要求を満たすべく、解放へ導いた。

 

「……あッ……あッ……ぁぁあああッ!」

 ひときわ高い声を放つと、ヤツは骨張った身体を大きく反らせた。

 情欲のあかしを思う様に解放する。肉の薄い腹は、すべてを吐き出しても、小刻みに痙攣し続けていた。オレはそれを嚥下したが、すでに夢うつつのようなヴィンセントは、そんなことに気づいてもいないだろう。

 

 横たわるヤツの身体から、ここに来る以前から続いていた、ピリピリと張りつめた空気は霧散して消えた。内奥に凝り固まった気が解放されたらしい。

 とりあえず、これで当初の目的は果たされたことになる。

 

 苦痛を与えず、このまま終えてやればいいのであろうが、オレはそんなお人好しではない。それに身体のほうが持ちそうになかった。

 

「はぁ……はぁはぁ……」

 線の細い腕を投げ出し、荒い吐息をくり返すヴィンセント。だが、ようやく解放を許されたせいだろう。白い顔に、微かな安堵の表情が見て取れる。

「ヴィンセント……」

 オレは顎をつまみ、半開きの唇に口づけた。呼び起こされ、紅い瞳が淡い光を灯し、オレを見る。

「……あ……」

「力を抜いていろ。痛い思いをしたくなければな」

 なにをされるか当然わかっているのだろう。

 従順に頷くと、瞳を閉じ合わせた。薄い胸は、さきほどの余韻にせわしなく上下を繰り返している。それにも関わらず、オレの言葉に従おうとする様に、本気で気持ちが動きかけ、オレはおのれを叱咤した。

 

 吐き出す寸前まで嬲ったせいか、内はひどく熱く潤み、オレの指二本を容易に受け付けた。吐き出された体液をからませ、さらにもう一本指を増やすと、さすがに苦しげに眉が寄せられる。

 

「……つらいか?」

 オレは低くささやいた。以前ならば、思いも寄らぬことを訊ねてやっている自身が滑稽でもあった。

 緩慢にかぶりを振るヴィンセント。

 そんなはずはないだろう。どこまで人がいいのか、こいつは。それとも最初から、覚悟の上だとでもいうのだろうか。だが仕掛けたのはオレだし、こんな状況など思いも寄らなかったことだろう。

 奥深く潜り込ませた指を抜き取り、骨の浮いた脚を抱え上げる。

 

 オレ自身はおのれの肉体に何も施してはいないし、ヴィンセントにさせたわけでもない。だが、この男の媚態を見ている内に、恐ろしいほど内の熱が高ぶってゆく。

  

 無防備な最奥に欲望の証しを宛ったとき、オレはおのれの身体が、ひどく興奮してゆくのを感じていた。残った理性を総動員しなければ、本当にこの男を死ぬまで屠ってしまいそうな気がした。

 

 ヴィンセントの身体が、開かれる生理的な恐怖にすくんだ。

「……力を抜け、ヴィンセント」

 できるだけやさしく、なだめるようにそう言った。抱え上げた脚を撫で、やわらかな首筋に接吻をくり返す。ヤツは思考の定まらぬ面差しで、惚けたまま、ただ頷く。その頬に触れ、半開きの唇に深く口づけた。

 

『バカな……』

 オレの脳裏に、微かな声が響く。

『バカな……これでは……まるで……』

 ……これでは、まるきり、想いのある者への交わりではないか……

 

 こいつはクラウドではないのに……この男のことなど、なにも知らないのに……

 

 ……この男はクラウドのものなのに……

 

 バカバカしい。

 リユニオンしていない、もとの肉体が見せるただの感傷なのだろう。

 あの頃、ヴィンセントに逢うことがあれば、おそらくオレはこいつに興味をもったことだろう。ただそれだけのことだ。想いだのなんだのという話ではない。

 生身の体の、肉体への欲求……ただそれだけだ。

 

 オレは、ひどく高ぶった身体の欲求を抑制しつつ、ヴィンセントに分け入った。

 綴じ合わせた双眸から、涙が筋を描く。けなげにもヤツは苦鳴を上げぬよう、必死にこらえているようだった。

「……ッ……ん……んんッ」

 時折、押し殺したような呻きが、朱味の浮かんだ口唇から漏れる。

「……おい……こらえるな……声を上げた方が……楽ならそうしろ……」

 そう言ってやる、自分の声にひどく余裕がなく、オレはいささか狼狽した。

 

 ヴィンセントの呼吸がおさまってくるのを見はかり、さらに奥への侵入を果たす。

 

「……くッ……」

 自身のすべてを、この男のうちに納める。同時に、喉元で、こぼれ落ちる声を押しとどめた。油断したら、恐ろしいほど、だらしない声を上げているところであった。

 

「んッ……はぁッ……はぁッ……はぁッ……」

 ヴィンセントが荒い呼吸をくり返す。上下する薄い胸を手の平でさすり、脇腹を静かに撫で上げる。微かな刺激に、細い身体がビクビクと反応し、それは繋がったオレ自身にも伝わってきた。

 シーツを握りしめる、細い指を外してやる。

 きつく閉じ合わされた紅い瞳が、うっすらと開かれ、不思議そうにオレを見上げた。

 

 ヴィンセントの腕を取り、オレの肩に回すように導いてやる。

「動くぞ……しっかりつかまっていろ」

 すると、骨ばった華奢な腕が、オレの髪ごと背を抱きしめた。

 こいつを抱いているのは、オレなのに、なぜかこの男に受け止められているような、不可思議な感覚に陥ってしまう。

 

 ヴィンセントの内は熱く、そしてひどく狭い。

 肉体の欲求のままに貪れば、この力無い身体を破壊してしまうだろう。

  

 慣らすように、ヤツの下肢をなだめつつ、ゆっくりと動いた。

 それほど力を入れているとは思えないが、導いてやったとおりに縋りつく腕の感覚が心地よい。

 

 それから後は、なりゆきのままだった。

 そもそも、そういう行為なのだから。

 肉体の満足を得るため、オレたちは高みに昇り、そして墜ちた。

 

 弛緩したヴィンセントの腕が、ずるりと滑り、シーツの上に落ちる。

 オレ自身、達した後はひどく呼吸が苦しかった。巨大なベッドの、ヴィンセントのとなりに仰臥し、しばらく呼吸を整えていた。

 そして、今の交わりに、たいそう満足を得ているおのれを自覚し、その感情を持て余した。