Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<15>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

呼吸はすぐに元に戻った。だが、けだるい感覚の中、10分くらいは横になっていただろうか。

「ヴィンセント……」

 オレはヤツに声をかけた。

 しかしいらえはない。

「……おい、ヴィンセント……?」

 身を起こし、ヤツを見下ろす。

 目を閉じたまま、微動だにしない。

 

 ヤツの情けない身体では耐えきれず、どうやら人事不省に陥ったらしい。その前もさんざん泣かせてやったのだから、仕方がないと言えるのだろうが。

                                                          

「……まさか、死んだわけではないだろうな」

 そんな冗談を口にしている場合ではなかった。すぐに立ち上がるのはひどく面倒だったが、オレは放り出されたガウンを羽織り、もう一枚をヴィンセントの裸体に掛けてやった。寝台から降りると、キャビネットで、ブランデーを失敬する。

 身体を冷やさないよう、ローブを肩に掛け直し、適当に前を合わせてやる。

 放り出された腕の手首に、紅く戒めの痕が残っているのが痛々しい。もっとも、縛り付けた人間のいうことではないと思うが。

 

 ヴィンセントを抱き起こし、オレの肩に寄りかかる姿勢をとらせると、気付けの強い酒を一口含み、そのまま口うつしする。

 

「……ん……ぐ……ごほっ! げほっ!」

 すぐさま背を丸めて咳き込むヴィンセント。

「ごほっ! ごほっ!……はぁっ……はぁ……あ……?」

「……気がついたか?」

 すぐ間近にオレが居たせいだろう。ぼんやりと見上げた直後に、ひどく狼狽して顔を伏せる。

「……あ……セ、セフィロス……?」

「おい、名を呼ぶなら、オレを見て言え」

「す、すまない……」

 そう答え、ちらとこちらを見るが、またもや居たたまれないようにうつむく。

 

「セ、セフィロス……あの……大丈夫か……?」

 震える口唇で思いも掛けないことをささやく。

「大丈夫かどうかは貴様の話だろう。失神したヤツに言われたくない」

 そう言ってやると、面白いように頬に紅味が戻ってくる。

「リミットブレイクなら心配するな。そんなことにはならずにすんだ。オレのおかげだ、感謝しろ」

 オレは横柄にそう言ってやった。なにか言い返しやすいように。だが、こいつは口答えを思いつくようなキャラクターではなかった。

 

「……ああ、よかった……なにも起こらずに……」

 目を閉じ、そんなことをつぶやいた。

『いやいや、しっかり起こっていると思うわけだが、オレとおまえとの間で』

 ……そういうツッコミは入れないことにする。この天然男では何を言われているのか理解できないだろう。

 

「……セフィロス……」

 めずらしくもヴィンセントのほうから声をかけてくる。

「なんだ」

 無愛想に返事をするオレ。

「……おかげで静まったようだ……久方ぶりだ……こんな落ち着いた気分は……」

 ふぅ……と大きく息を吐き出すヴィンセント。

「フン、そりゃよかったな」

「……その、すまなかった……こんな面倒を……」

 オズオズと謝罪する。

 

「……はぁ?」

「私のために……迷惑を掛けてしまって……クラウドたちと一緒に行くつもりだったのだろう……?」

「……貴様は何の話をしてるんだ?」

「あ、あの……だから……迷惑を掛けて申し訳ないと……あやまりたくて……」

 

 オレはもう笑う気にもならなかった。

 こいつはこういう男なのだ。

 ああ、なるほど、と思う。

 あれだけの激動の人生を生き抜けてきたクラウドが、なぜこいつを好きになったのか。どうして、あそこまで、この男に執着するのか……

 

「あ、あの……セフィロス……?」

 黙り込んだオレを心細げに見上げる。気分を害したのではないかと不安に思っているのだろう。

「……いや、もういい、何も言うな」

「…………」

 細い眉が寄せられる。

「違う。怒っているわけではない。……おい、おまえ、動けるか?」

「……あ、ああ……いや……その……」

「ああ、いい。まだ無理だろう。おい、風呂に行くぞ」

「え……」

 何か応える前に、ローブ一枚のヴィンセントを抱き上げる。

「湯に入った方が、身体がほぐれる。温泉は滋養効果もあるらしいからな。しばらく浸ってろ」

 オレはそういうと、乱暴に脚で扉を開き、露天の湯殿へ向かった。

 

 空を見ると、もう太陽が傾いている。雪国の日暮れとはいえ、かなりの時間が経っていることに気づいた。

 

  

 腕の中のヴィンセントは、緊張しているようではあったが、オレのすることに逆らいはしなかった。