Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<12>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「……ヴィンセント、来い」

 オレは端的にそういうと、細い腕を引っ張った。

「え……あ……」

 足がもつれるのか、なかなか歩き出せないヴィンセント。気の短いオレは、華奢な長身を抱き上げた。

「セ、セフィロス……ッ?」

 さすがに驚いたのだろう。紅い双眸が大きく瞠られる。

「セッ……セフィロス……なにを? お……下ろしてくれ」

 腕の中で必死に訴えるのを無視し、オレはヤツの部屋の扉を蹴り開けた。

 そのまま、ズカズカと中に入り込み、都合のよい大きさのダブルベッドに、ヴィンセントの細い身体を放り出す。

「……ッ! セ、セフィロス……?」

 オレを見上げる、怯えた血の色の瞳……久々に背筋がゾクゾクしてくる。

 

「ちょうどいい機会だろう」

「…………?」

「安心しろ、クラウドはあと5、6時間は戻ってこない。ふたりきりだ」

「……え? セフィロス……?」

「オレでは不満か?」

「バカな……ダメだ……! こ、この前のことを忘れたのか?」

 ヤツはずるずると後ずさると、頭を振った。それを追い、寝台に片足を掛ける。追いつめられる獲物のごとく、白い顔がサッと青ざめた。

「ああ、リミットブレイクの話か? 心配するな、相手はオレだ。怪我をさせようと、殺そうと、何の痛痒もないだろう」

「バカなことを言わないでくれッ!」

 そう叫んだ、コイツの口調は、いつになく激しいものであった。

 

「なぜ……そんな……セフィロスが私を嫌っているのは知っている……だが私にとって君は……大切な……いや……」

「……なんだ?」

「傷つけたくないんだ……もし万一のことがあったら、今度こそ、私は自分を許せない……ッ!」

「どういうことだ? 時折、おまえはオレの知らぬことを口にするようだが……」

 緩慢にかぶりを振るヴィンセント。

「まぁ、そんなことはどうでもいい。それから、おまえはひとつ誤解をしている」

 逃げる細い身体を抱き寄せ、小刻みに震える白い顔を片手で固定する。細い顎はオレの手で十分に押さえつけることができてしまう。

「やめろ……ダメだ……ッ」

 必死に身じろぎするヴィンセント。微かに水気を含んだ黒髪から、心地よい香りがする。

 

「オレがおまえを嫌っていると言ったが、それは貴様の勘違いだ。オレはおまえに興味があるらしい」

「……え……?」

「そう……貴様を傀儡人形にして、側近くに飾っておきたいくらいにな」

「……セフィロス……ッ! 放してくれッ!」 

「フン、嫌なら振り解いて見ろ」

 オレは意地悪くそう言ってやった。そのまま、両手を掴み締め、仰向けたままベッドに押しつける。必然的にオレの身体に組み敷かれ、ヤツは身動き一つできなくなった。

 紅い瞳が絶望に染まる。

 ああ、なんて心地よいのだろう。

 

「貴様の力ではオレに抗うのは無理だ。わかっていることだろう」

「…………」

「これから、おまえがオレにされることは、『おまえが望んだことではない』」

「……セフィロス……?」

「無理やり『される』んだ。だからクラウドを裏切ったことにはならない。まぁ、もっとも貴様の持論によると、肉体の交わりは必ずしも重要なものではないらしいが」

「セフィロス……!」

 オレを呼ぶ声が、悲鳴のようだ。

 

「よせ……やめてくれッ、セフィロス!」

「聞き分けのない男だな。まぁ簡単に屈服されるのも興醒めか」

「違う……それよりも……もし、もし、ブレイクしたら……」

「オレを誰だと思っている」

「セフィロス……」

「貴様がどんな姿になろうとも、片腕で押さえつけてやる。オレをあのガキと一緒にするな」

「……で、でも……」

「おしゃべりはここまでだ」

 オレはそう言って会話をうち切った。

 

                             ★

 

 ヴィンセントが必死に抵抗していたのも、初めのうちだけだった。

 暴れても無駄だと悟ったのだろう。ヤツはおのれの肉体が暴走しないことにだけ、気持ちを集中させているようであった。

 オレの施す愛撫に、時折、苦しげに眉を寄せ、口を塞いで嗚咽をこらえる様を見せるが、あられもなく乱れるようなことはない。

 

 クラウドのつけた痕を、辿るように唇をすべらせ、骨張った下肢を撫で上げる。

「んッ……んんッ……」

 片手で必死に塞いでいる口から、鼻に掛かった呻きが漏れる。それはオレの内奥に置き火のような火種をくすぶらせた。

 

 だが、まだまだだ。

 人形のように無表情で、たゆたうように生きているコイツが、声を上げて啼く様が見たい。こんなにも必死に拒絶し続ける肉体が、自ら愛撫を乞うて開かれる様を見てやりたい。

 クラウドへの気持ちとは、まったく異種のうろ暗い情欲……それを無意識に掻き立てるのがこの男なのだ。

 

「おい、手を外せ」

 オレはヤツが口を塞いでいるほうの、腕を取った。

「いや……だ……放してくれ……」

「フフ、まだそんなことを言っているのか? このまま放っておかれるほうがつらいだろう」

「……セフィロス……ッ」

「おまえの啼き声が聞きたい」

 オレは片手で、ヤツの両腕をまとめると、磔の要領で、頭上に固定した。そしてすぐさま近くにあったローブの帯を抜き取る。

「……なッ……セフィロス……嫌だ……!」

 オレはひとまとめにした腕を交差させ、手首のところで縛った。そのままベッドの桟にくくりつける。

 

「セフィロス……!」

 両腕を持ち上げた格好をさせたこの時に、オレはこいつの身体の異変に気づいた。

「あ……痛ッ……」

 ヴィンセントが呻いた。

 

「……なんだ、これは……?」

 骨ばった細い腕の内側……幾重にも軌跡を描く刃物の傷あと。それは血が止まり青黒く痕になったものから、生々しい朱のものまである。

「おい、ヴィンセント、これは何だ……どういうつもりだ?」

「……痛みは……正気を保ってくれるから……」

 目線だけをオレから反らせ、ヤツは言い訳のようにささやいた。

「……おまえは……」

「…………」

 平静を装うために、くり返し自らを傷つけて耐えていたというのか?

 肉体が暴走しそうになるたびに、なんどもなんどもナイフを滑らせたというのか……?

 

「……セフィロス……?」

 震える唇がオレの名を綴る。

 何故か怒りのようなものが、フツフツと腹の底から沸いてくる。整った白い顔を殴り飛ばしたくなる衝動を、オレはなんとか堪えた。

「……いいだろう。殴られた方がまだマシだと思わせてやろう」

「……え?」

「フ……いや、独り言だ」

 私はそうつぶやくと、上からヤツの痩躯を睥睨した。