Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<11>
 
 セフィロス
 

 

 

 

恐ろしいことに、それから三日ばかり、オレたちは缶詰になった。

 雪が降り止まないのだ。

 

 こういった土地柄の建物らしく、雪積対策はとってあるものの、旅荘が無事ならそれでよいというわけにはいかない。

 なんとか帰り道なり、当初の目的地であった、アイシクルロッジへの道筋を見つけ出さなければ。

 ようやく、四日目にして、鬱陶しい降雪は落ち着き、太陽が顔を出した。朝風呂を終えた後、久々の陽光を心地よく浴びる。

 

 オレはあの日から、何気なくヴィンセントの様子を観察していたが、時折、熱っぽいと言って、寝室で横になってやり過ごしていた。なんとかピークの時期をごまかしつつ、堪えているようだ。

 クラウドは、額に傷を作ったヴィンセントを、ひどく心配し、側に居たがったようであったが、ひとりで静かに過ごしたいという彼の意向を無視することはできなかった。

 部屋に居る以外の時間……食事の手伝いや風呂など、短い時間ではあっても、ヴィンセントにくっついて回っている。いささか可哀想になるくらいに、献身的な姿だ。

 

「ようやく晴れてくれたね」

 オレの思考を破って、親しげに話しかけてきたのはヤズーであった。普段なら不快に思うところだが、不思議とコイツは他人を苛立たせない。弟のカダージュは対照的だ。

「ああ、そうだな」

「今日は少し周辺を回ってみようかと思うんだけど」

「出発しないのか?」

 オレは尋ねた。

「うん……俺が決めることじゃないと思うんだけど……また同じような状況に陥ったら、もう本当にどうしようもないじゃない? だから、まずはこの村の近場で、人が居そうなところを捜した方がいいと思うんだよ。いくら待っても、ここには誰も帰ってこないしね」

 形のよい顎をつまんで、ヤズーが言った。

 

 そうなのだ。待てども待てども、人っ子ひとり帰ってこない、この村。

 昨日、やや雪が落ち着いたので、期待したのだが、結局人の姿をみとめることはできなかった。

「……そうだな。それが妥当だな」

「朝ご飯、終わったら、俺たち捜しに行ってくるよ。セフィロスはどうする?」

「ここで待っている」

 オレは即答した。ヤズーは「やっぱりね」と言って苦笑した。

 

 結局、朝食を終えた後、今ひとつ体調の優れないヴィンセントを残し、クラウド始め、三兄弟は、道を見つけに外出した。

 オレとヴィンセントが旅荘に居残ることに、駄々をこねるクラウド。こいつを諫めるのが一苦労であった。

 

「仕方ないだろ。こいつをひとりで残していって、万一、モンスターにでも襲われたらどうする?」

「そ、それはそうだけど……だったら、俺が一緒に……」

「バカか、おまえは。ヴィンセントを心配するなら、一刻も早く脱出方法を探し出してこい」

「うぅ〜……」

「だいたい、このザマはおまえのせいだろう、クラウド。男なら責任を取れ」

「わ、わかってるよ! で、でも、ふたりっきりなんて……」

 ぐぐぐと唇を噛み締めて、不満をもらすクラウド。

「ほう、この私がこの男になにかするとでも思っているのか?」

「……だって、セフィロスはヴィンセントのこと、虐めるじゃないか」

「ということだ。どうする、ヴィンセント?」

 オレは、あえて後ろでオロオロしている男に声を掛けてみた。

 

「い、いや……あの……大丈夫だ、クラウド……セフィロスはそんな人間では……」

 ビクビクとした態度はそのままだったが、ヴィンセントは、オレをちらりと盗み見ると、クラウドにそう告げた。

「ハハハ、残念だったな、ガキ。ほら、さっさと行け。収穫を得るまで帰ってくるなよ」

「うう〜……ヴィンセント、本当に平気か?」

「あ、ああ、おまえは私を心配しすぎだ……」

「あたまえだろ、そんなの!」

 クラウドのストレートな物言いが可愛らしい。

 飛びつくようにして、細い長身をぎゅうぎゅうと抱きしめる。ヴィンセントは困惑しつつも、クラウドの頭を撫でている。

 このクラウドと、ヴィンセントを、二人並べて飾っておく……という構想は、案外、本当によい考えなのかもしれない。オレはそんなことを思い始めていた。 

 

「じゃ、セフィロス、ヴィンセントをよろしくね。出来る限りの努力はしてみるから」

 ヤズーが言った。

「ああ、まぁ……とりあえず、おまえが一緒ならそっちは平気そうだな」

「なんだよ、それッ! 普通、この俺に言うべきだろッ! シツレーなヤツだな!」

「まぁまぁ、兄さん。カダ、ロッズ、用意はいいか?」

「はーい!」

「は〜い!」

 手作りの弁当などを持たせてもらって、こいつらふたりはピクニック気分なのだろうか? 妙に元気でつやつやしてやがる。足取りも軽く、この雪の中を、タカタカと走っていってしまう。

 これだからガキにはついていけない。

「みんな、気をつけて……怪我などしないように……無理をしないでくれ」

 そう声をかけて、奴らの姿が見えなくなるまで、外で手を振るヴィンセント。

 

 

「おい、いいかげんにしろ。はやく中に戻れ、軟弱者」

 オレは火を起こしてあるフロントから声をかけた。

「あ、ああ……すまない」

「…………」

 相変わらずの白い無表情をじっと見遣る。

「……セフィロス?」

「四日目か。ずいぶんと頑張るな」

「……我慢することには慣れている」

「フン、クラウドは気づかないのか?」

「……おそらく。彼は機微に長けたほうではないし……」

「…………」

「……すまない、セフィロス。部屋でちょっと休ませてもらう。少し、苦しいんだ……」

 そうつぶやくと、ヴィンセントは、危なげな足取りでよろよろと歩き出した。今朝方、風呂に浸かったようだが、それでも高ぶりを静められなかったらしい。 

 だが、表情を変えぬまま、皆の朝食を賄い、クラウドの話相手をしていた。この忍耐強さは、ある意味賞賛に値するのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、ガタン!と派手な物音が耳に入った。

「おい?」

「あ……す、すまない。大丈夫だ、ちょっと戸口にぶつけてしまって」

 頬が紅い。事情を知っているオレとふたりきりになって、気が抜けてしまったのだろう。

 だが、好都合だ。

 オレ相手ならば、問題ないはずだ。

 

「……あの、セフィロス?」

 紅い瞳が、黙り込んだオレを不思議そうに見上げていた。