Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<5>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

食事を終えてすぐに、私は眠り込んでしまったらしい。

 テーブルの上のトレイが無くなっていることから、ヴィンセントが下げに来たのだろう。布団を掛けて寝た覚えはなかったのに、肩口のところまで毛布が掛けられている。

「……ずいぶん、眠っていたようだな……ふぅ……」

 乱れたガウンの前を直し、締め切りの窓を覗いてみる。案の定、外は真っ暗であった。時計を見ると、午後8時前だ。

 ここに着いたのが、昼過ぎ。風呂に入ってメシを食った時間を考えると、きっと二時か三時頃、ベッドに入ったのだろう。

 あろうことか、窓の外の雪は、いきおいこそ無くなったものの、相変わらず降り続けている。

「チッ……やっかいなことになりそうだな……」

 ひとりごちる。

 部屋の外に人の気配を感じないということは、他の連中も眠っているのだろう。これだけ、雪道を歩き回って、心底疲労していたのだ。風呂に入って暖まった身体が睡眠を欲するのは、ごく自然ななりゆきであった。

 雪が降っている以上、なにもできることはない。しかももう夜だ。

 ふたたび横になろうかとも思ったが、そうそう眠れるものでもない。とりあえず他の連中の様子を見に行くことにする。

 暖炉の火であたたまった室内から外へ出ると、まるで冷凍庫に入り込んだ気分になる。

 

 まずは一部屋飛ばしてクラウドの室の扉を叩いてみる。だが返事がない。カギがかかっているところをみると、眠っているのだろうか。そのとなりには、思念体連中が居るはずである。

 扉を叩こうとしたところ、中から勝手に開きやがった。

 

「ああ、セフィロス」

「……おまえか。他の連中は?」

 いつもと同じ、きらびやかな微笑を浮かべて、ヤズーがたたずむ。

「眠ってるよ。俺もさっき、目が覚めたところ」

「そうか……やむ気配がないな」

 俺……私は火の気のない、長廊下の窓から外を見てつぶやいた。

「そうだね、こればかりはどうしようもないからねぇ」

「のんきなヤツだ」

「騒いでもしかたないしね」

「……フン、ではな」

「あ……用があったんじゃないの?」

「別に。目が覚めたから、様子を見に来ただけだ」

 私は素っ気なくそう言った。

「そうなの? 兄さんは……」

「返事がない。ガキはよく眠るからな」

「ヴィンセントは?」

「……私に聞くな。あいつの部屋には行っていない」

「そう。じゃ、俺はカダたちについているから」

 そういうと、ヤズーは「おやすみ」と言い残して扉を閉めた。私はクラウドの室を素通りし、さきほどノックをしなかった、ヴィンセントの部屋の前に立つ。

 どうせ、ああいうヤツなのだから、死体のように寝台に転がっていると思うのだが。

 

 コンコン

 

 やはり、返事がない。

 別にどうでもいいことだ。このまま室に眠るためだけに戻るのも癪なので、火で乾かしておいた、ローブを取りに行く。多少汗もかいたし、もう一度、湯に入ってこようと考えたのだ。

 屋根続きの露天風呂は、半分外界に繋がっているため、久しく浸かっていても、のぼせることがなく、汗が噴き出すようなこともない。
 
 何に例えればよいか……そうだ、羽毛につつまれ、横になっているような、常ならば決して味わうことの出来ない、ぜいたくな心地良さなのだ。

 私は廊下を通り、露天風呂に続く仕切扉を開いた。

 そのまま歩みをすすめていく。

 

 乱暴にバスローブを脱ぎ捨て、静かに身を浸した。数刻前、クラウドと会話したあたりに、手頃な大岩が自然のままに配置されている。そこに身をあずけて、目を瞑ると、天にも昇るような心地がするのだ。

 私は定位置に陣取り、双眸を閉じる。

 外は異様なほどの静けさだ。当然だ。雪の降る夜は物音が聞こえない。

 多少、昼より衰えたとはいえ、今でさえも十分大雪と言っていい勢いで降り続いている。

 降りしきる雪が、湯に溶け出しても、湯の温度が変わらぬということは、この広い露天風呂のどこからか、熱湯が沸きだしているのだろう。

 

 目を閉じたまま、つらつらとそんなことを考えていたときである。

 外の……ずっと向こうのほうで、不自然な水音がした。雪山に棲む動物だろうか……いや、アイシクルエリアに巣喰うモンスターということも考えられる。

 生身に素手でも、モンスターの一匹や二匹、どうということもないが、さすがに湯の中だと、遅れを取る可能性がなきにしもあらずだ。

 マサムネなど、持ってきてはいないが、冬山の旅荘なのだ。さがせば武器のようなものを置いているはずだ。

 どうする……戻るか?

 自慢ではないが、私はかなりのめんどうくさがりの男だ。このクソ寒い中、空き部屋だのフロントだのを探って武器を取り出してくるなんざ、冗談ではない。

 私は気配を消したまま、音のした外続きの露天へ、湯の中を移動した。

 

 ……人影が見える。

 一瞬、人型モンスターかと思ったが、それは杞憂であった。