Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<4>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 クラウドが行った後、なにげなく思い巡らせて、ふと我に返ると、大分時間が経ってしまったようだ。

 ここは露天風呂と言うだけあって、半外半内のつくりになっている。もちろん、私が身を沈めているのは、屋根のついた内の部分だ。だが、そこから外へは繋がっていて、衰えることなく吹きすさぶ雪がよく見える。

 つまり気温が屋外とほとんど変わらないので、いつまで浸っていてものぼせないのだ。

 

 クラウドが行ってから、ひとり虚けたように湯に浸っていた。

「……そろそろ上がるか」

 だれにともなくそうつぶやき、私は部屋から持ってきたバスローブに身を包んだ。気の利いた大きさのローブは長身の私の身さえも、すっかりと覆い尽くしてくれた。

 

 室に着いても、出掛けに暖炉に火を入れておいたおかげで、内はかなり暖かい。いや、風呂上がりの身体には暑いくらいだ。バスローブを脱ぎ捨て、素肌にそのままガウンを羽織り、ベッドに転がる。

 身体は温まったが、疲労と空腹が頂点に達しているのか、いささか、めまいがする。それに眠い。

 このまま、眠ってしまおうか、と考えていたところ、遠慮がちなノックの音に気づいた。 

「チッ……誰だ、鬱陶しい」

 舌打ちしつつ、声を張り上げる。

「開いている。用があるならさっさと言え!」

 すると、扉がギィと音を立て、黒髪の男が湯気の立つトレイを携えて立っていた。

 彼も湯浴みを終えた後らしく、室内着の上に、ガウンを羽織っている。既成の服がだぶだぶになっている様は、いささか滑稽でもあった。。

 

「あ……セフィロス……すまない、眠っていたのだろうか……」

「……いや。メシか?」

「あ、ああ、こんな事態だし、台所にあったものを勝手に使わせてもらった。眠る前に、少し食べておいた方がいいと思う」

 オドオドとヴィンセントが言う。しかし、何故にコイツはいつもこんなに遠慮がちなのだろう。わざわざ皆の分の食事を作って、それを持ってきてくれているのに、もっと偉そうな態度をとっても、バチはあたらないと思うのだが。

 

「ちょうど、腹が減っていたところだ。ありがたくもらおう」

「そ、そうか、よかった……じゃ、ここに置いていくから」

 そういうと、ヴィンセントはすぐさま、そそくさときびすを返した。

「おい、ヴィンセント」

 そんなヤツを呼び止める。

「え……なんだろうか……?」

「おまえは食ったのか?」

「あ、ああ」

「……クラウドは?」

「さっき、ヤズーが持って行ったようだ」

「ふふん」

 俺はヴィンセントの物言いを、鼻で笑ってやった。

「どうして、あいつを避ける? 見ている分には面白いが、だいぶ傷ついていたようだぞ」

「……あ……そんなつもりは……」

「オレにはどうでもいいことだ。わざわざ説明してくれる必要はない」

「……すまないとは……思っている」

「フン、いいかげん、あのガキに愛想がついたか? まぁ、そのほうが賢明というものだが……」

「そ、そんな……そうじゃないんだ……」

「別にオレには関係ない。呼び止めて悪かったな」

 そう言いながら、俺はテーブルに移動した。実際、空腹だ。

 

「……食器はそのままにしておいてくれ。後で下げに来るから」

「わかった」

「……その……セフィロス……」

「まだ何かあるのか?」

 俺は自分が最初にコイツを引き留めたにもかかわらず、そう言い返した。

「……そ、その、よけいなことだと思うが……セフィロスは自分のことを『オレ』と言っていたんだな。なんだか……あの……そのほうが自然で、似合っているようで……いいなと思って……」

「…………」

「あ……すまない……つまらないことを言って……で、では失礼する」

 最後のほうはかなり慌てた様子で、ヴィンセントは取り繕うように言った。そしてすぐに姿を消す。

 ……本当にあの男は、神経を逆撫でしてくれる。

 ひどく不快なのだが、あのオドオドとした態度にごまかされ、なんとなく、ヤツの言ったことを受け止める形になってしまう。

「そう考えると、ますますもって不快だな」

 不快であろうとなかろうと、空腹は収まらない。とりあえず、目の前に並べられた食事にありつくことにした。

 こんなところで、作ったものにも関わらず、ヤツの料理はやはり上手くて、私の不愉快さを倍増してくれた。