うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時をあけずに、子ども達が戻ってくると、一休みの後、彼らは連れだって出掛けていった。

 本当に、レオンはとりまとめ役というか……クラウドなどもそういった役目を果たそうとするが、どうしても彼らと同じ目線でケンカなどしてしまうのだ。だがレオンはあくまでも保護者的な立場で、話を聞くし、必要があれば助言をするのだ。

 不器用な私など、本当に感動してしまう。

 

  後で考えてみれば、結局レオンがまともにこの家に居たのは一週間足らずだったのだが、こんなふうな慌ただしくもにぎやかで楽しい毎日であったと思い出す。

 不思議なことに彼は、私に対して人並みならぬ好意を示してくれ、いちいち気遣いをみせてくれた。

 食事の支度や買い物など、日常的な家事もまめまめしく手伝ってくれるし、時間のあるときは話相手にもなってくれた。

 そうそう、あまりに実直で気配りがこまやかなあまり、冷や汗をかかされることもあった。

 

 今、思い起こしても冷や汗が出る。 

 そう……その日……夜にセフィロスが出掛けたまま、帰ってこなかった。

 ここ最近、外泊をする機会は以前に比べ減っていたのだが、たまたまこの日は「でかけてくる」といったまま、夜が更けても戻ってくる気配はなかった。

 

 ……セフィロスがいきなり姿を消すということはない……私はそう信じているし、『信じられるようになった』のだ。

 だが、情けないことに、ほんの少し離れられるだけならば大丈夫……とは言い難かった。

 心が……というよりも、身体のほうがソワソワと落ち着かなくなるような感じなのだ。なにか物足りないような……心細いような……

 クラウドにはそんなふうに思わないのに……セフィロスに対しては、やはり一度は敵対していたからだろうか……無意識のうちに気持ちが向いてしまうのは仕方がないことだった。

 また言うまでもなく、彼はとても魅力的な人だし、すこぶる能力の高い人だ。愚図で何の取り柄もない私のために、こうして側近くに居続けてくれるのは身に余る光栄だと思っている……にもかかわらず、欲張りな私は、彼の姿をいつでも追ってしまうのだった。

 ……そう、そして今夜もまた……寝付けない夜を過ごしていた。

 

 

 

 

  私は、居間のソファから、ぼんやりと庭を眺めていた。

「……ヴィンセントさん、まだ起きていたのか?」

 飲み物をあがないに来ていたのだろう。グラスを持ったレオンが私に声をかけたのだった。

「え……あ、ああ……」

「どうかしたのか? 具合でも……」

「い、いや……違う……」

 生真面目な青年らしく、彼は私の様子をうかがった。

「……なんでもないんだ」

 私は言葉を繰り返した。

「だが、元気がないように見える。もっともあなたはいつでも物静かな人だが」

「……レオン」

「失敬。俺はあまり気の利く人間ではないからな。もし不快に思ったのなら……」

「え、ま、まさか……そんな……」

 要領を得ない返答をしていると、彼はズンズンと側近くに歩いてきて、私のとなりに腰を下ろした。ソファが深く沈むのを何となく感慨深く感じるのだった。

 

「……今日は……セフィロスが居ないから……どうも、家族が足りないと落ち着かなくて……」

「セフィロスが? どこかへ出掛けたのか?」

「あ、ああ。たまに夜に外出することがある」

「まだ戻っていなかったのか……気付かなかった」

 あっさりとレオンが言った。その言葉に妙に気恥ずかしい気持ちになる。

「あ、い、いや……いいんだ。彼は大人だし……強い人だし……」

「…………」

「心配……しているわけではなくて……」

 辿々しく言葉を繕う私。レオンはただ黙って聞いている。

「ただ……私が勝手に、落ち着かない気持ちになっているだけなんだ。セフィロスは……悪くない」

「…………」

「……レ、レオン?」

 黙ってしまった彼の名を呼ぶ。

「……ふふ。ヴィンセントさんは、本当にこの家の人たちを……家族を大切に思っているんだな。クラウドはあなたのことばかり口にしていたが」

「あ、ああ、そ、それは、私がこんなだから……覇気のない人間だから……明朗で快活な彼から見れば、一番心配なのだろう」

「そんなことはないだろう。『心配』という言葉を当てはめるのなら、直情型のクラウドのほうが、はるかに心配されるタイプの人間だと思うが」

 歯に衣着せぬ物言いのレオン。クラウドに好意は持っているからこその、明け透けな発言なのだろう。

「ああ……はは……確かに、彼はいい青年だが、いささか落ち着きのないところもあるな」

「その通りだ」

 レオンは間髪入れずに肯定する。

「ふふ、だが……とても気持ちの強い人だし、私のような人間にも本当によくしてくれて……」

「まただ、ヴィンセントさん。あなたは自己評価が低すぎる。『私のような人間にも』ではなく、あなたのような人だからこそ、あいつも尽くしたいと思うのだろう」

「あ、ありがとう」

 しどろもどろに返事をする私に、彼は笑みひとつ浮かべず、きっちりと頷き返すのであった。

 

「ところでヴィンセントさん。セフィロスはどこへ行ったんだ? 外泊できるような友人がいるというのは意外だ」

「……え、さ、さぁ?」

「なんだ、言い置いていないのか。まぁ、子どもでもないしな。いちいちおのれと交際のある人間を紹介したりすることもないな」

「ど、どうだろうか……」

「だが、やはりよそに泊まりにいくなら、せめてその旨を、一家のとりまとめ役たるあなたに、報告すべきだと思うがいかがだろうか?」

 ……確かに、そうしてもらえれば安心……というか、おかしな不安にかられることはなかろうが、到底私の口から、そんな話をすることなどできそうもなかった。