うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞けば、この家はあなたとクラウドのもので、彼らは居候とか。他人の家のやりように口出しをするのは無粋かと思うが、どうも見ていて納得がいかない」

 かなり率直に彼はそう言った。

「い、いいんだ。そんな……」

「あなただって、あらかじめ、外出外泊の旨を伝えられていれば、心配したり落ち着かなかったりということはなくなるだろう」

 非常に整然と論理的に語るレオン。理屈としては文句のつけようがないほどに。

「で、でも……」

「家族として、ひとつの家で生活していくにはルールと協調性が必要だと俺は思う。あなたがそれをセフィロスに要求したとしても、誰も咎めないと思うが?」

「い、いや……あの、ありがとう、レオン。だ、だが……そうではないんだ。違うんだ……」

「何がだ?」

「その……セフィロスには……どちらかというと『居てもらっている』というか……離れて欲しくないというか……あの……願わくばそうあって欲しいと……その……」

「……? あなたはセフィロスと……」

「ち、ちがう、ちがう! すまない……説明が難しいが…… とにかくセフィロスは、別に彼自身、この家に居る必要性はないのだ。だが、私としては……やはり……大切な人なので…… できることならば、ずっと側にいて欲しいと……そう、思って……」

 我ながら何と口下手なのだろう。何より他人に説明している私本人が、釈然としていないのだ。

 だが、私にとって、なによりも家族が大切であったし、セフィロスにも、ずっとこの場所に居て欲しいと願う気持ち……それだけは間違いなく本物であったから。

 

「いや……よけいなことを訊ねて申し訳なかった」

 わずかな間隙の後、彼はきっぱりとそう言った。私が返答に窮しているのを見取ってくれたのだろう。

「あなたが心配そうにしているのが気になってな」

「い、いや……」

「だが、もう夜も遅い。そろそろ休んだほうがいい」

 そういうと、彼は私がソファの背に掛けていたガウンを取り上げ、差し出した。

「あなたのいうとおり、セフィロスならば何の心配もいらないだろうし、こんな居心地のいい場所を捨てるなどということは考えられない」

「……え……」

 絶句した私を、彼はいぶかしげに眺めた。

「何か?」

「……居心地のいい場所……? ここが……セフィロスにとって?」

「……? 当然だろう。もちろん、彼だけではなく、他の者たちにとってもそうだと思うが」

 ……クラウドはもちろん、三人の兄弟たちもこの場所になじんでくれている。

 だが、セフィロスは……? セフィロスもそうなのだろうか? 私はいつでも物事をマイナス方向にばかり考えてしまう。DG事件からの一連の流れのうちに、何度もセフィロス相手にこの場所に居てくれと希ってしまった。彼の気持ちなどまったく考慮しないまま……私の希望をひたすら述べてしまったのだ。

 物言いはきつくとも、心根のやさしいセフィロスは、あわれな私の願いを聞き届けてくれているだけかと思っていた……

 

 

「どうした、ヴィンセントさん。珍妙な顔をして」

「あ……いや…… その……クラウドたちはともかくとして……セフィロスがそんなふうに思ってくれているとは到底……」 

「思っているだろう? ああいう性格の人物だ。自らが望むようなことしかしないだろう」

 私の言葉を遮り、彼はいかにも不思議そうな声音でそう綴った。

「あのセフィロスのすることだ。間違いないと思われる」

「そ、そうだろうか……」

「俺はそう思う」

 きっぱりと言い切るレオン。

「………………」

「ヴィンセントさん?」

「あ、ありがとう……なんだか……ずっとそのことが心に引っかかってて…… 彼の気持ちを考慮することもなく、とにかくここに居てくれるよう……しつこく願ってしまったから……」

「あなたがか? ……奇特な人だ」

 呆れたように両手を軽くあげ、彼は宣った。リアクション付きで物を言うことなど、これまでほとんどなかったせいか、それはひどく印象に残った。

「え……? そ、そうだろうか……」

「彼は、悪い人間だとは思わないが、自己中心的な人物だ。端から見ていると、あなたはひたすら面倒を掛けられているように感じる」

 歯に衣を着せぬレオンの言葉に、ついドキドキと鼓動が早くなってしまう。常に私をひいきしてくれるクラウドやヤズーと異なり、異邦人であるレオン。その彼の言葉は、身内の発言には認めがたい安心感を、私に与えてくれた。

「ヴィンセントさんはもう少し、おのれの作り出した生活環境に自信と誇りを持つべきだ」

「……そ、そんなことは……だ、だがそう思っていいならば……とても嬉しい。セフィロスのことは……本当にただ一緒に居てくれるだけで……とても……大切な人だから……」

「……ふふ、クラウドがヤキモチを妬くのもわからないでもないな、本当に」

「それは……あの子の誤解だ……まったく、もう大人だというのに……」

「大人だからこそのヤキモチだろう」

 笑みを絶やさずにそう言うと、レオンは話はそこまでというように立ち上がった。

「……さ、ヴィンセントさん、部屋まで送ろう。セフィロスのことは何の心配もいらない。あの人にとってここより居心地のいい場所はそうないだろう」

「……あ、ああ。ありがとう。……君のおかげで眠ることができそうだ」

「あなたは心配性すぎる。真面目な性格は美徳だが、この家では繊細すぎると気疲れしてしまうぞ、はは」

「……そうだな。君の言葉を心に留めておくことにする」

 結局、彼は部屋の前まで付き添ってくれ、私が自室に引き取るのを見届けてくれた。

 

 彼の言葉のおかげだろうか。

 常ならば、この時間に目覚めてしまうと、なかなか寝付けないのだがこの日に限っては、すみやかに睡眠することができた。

 

 ふと気付くと、もう朝になっていたのだから。

 そう、そして、私が肝を冷やすのは、一夜明けた翌日のことだったのだ……