うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 結果論で言うと、ラグナが神の恩恵に恵まれたのは、それから五日後のことであった。

 五日後というのは、非常に微妙だ。

 例の『セフィロス』とのやり取りの翌日とか、そこまで早くなくとも、せいぜい二、三日の間なら緊張感を保てただろう。

 だが、ただでさえ飽きっぽい連中揃いなのだ。おまけに砂浜は暑いし、皆退屈してしまう。最後まで親身になっていたのはヴィンセントくらいであった。

 その日の付き添いはヴィンセントとオレのふたりで、クラウドに教えてもらっておいた場所をぶらついていた。

 

「暑ぃ……」

「あ、ああ、そうだな……」

「なぁ、もう帰ろーぜ。今日は無理無理」

「セ、セフィロス……」

「だいたいよ、見えるヤツがひとりもいない状況で、空間の歪みを見つけ出すなんて無理だろ、フツー」 

「セ、セフィロス、そんな投げやりな言い方……」

「おまえももういい加減、飽きたろう?ヴィンセント」

「セ、セフィロス……! ラグナさんの気持ちを……」

 文句ぶぅぶぅのオレ様を、おろおろとヴィンセントが宥める。

 自分だって暑くてたまらないくせに、不平ひとつ言わない。白すぎる肌は、いっそ透けるほどに蒼白で、南国の日差しの中でみると、そのまま溶けて消えそうに見える。

「あー、いいっていいってヴィンセント。一応、ヒントはもらえたわけだし、毎日つきあってもらわなくても大丈夫だよ」

「そんな……ラグナさん。貴方はここの地理にくわしいわけではないし、もし運良く戻れたとしても、別れすら告げられないではないか……」

「ヴィンセント……」

「……え……?」

「ヴィンセントって……」

 ラグナのヤツは、うるうると両目に涙を浮かべ鼻をすすった。

「あ、あの……ラグナさん、どう……」

「ヴィンセントってやさしいんだね〜っ!俺、もう超カンドー!」 

 真っ昼間の海岸で、ヴィンセントに飛びつくラグナ。そんな中年男を足蹴にしてやった。

「ぎゃ!痛いなァ〜、ひどいよ、セフィロス」

 あっけなく吹き飛ぶラグナ。大統領なんつー堅苦しい職に就いて鍛えていないのだろう。

 だが、異変はそのときに発生した。

 

「う、うわ、あれ……ッ!?」

 頓狂な悲鳴に、オレもヴィンセントも思わず目を引きつけられた。

 そこには生まれて生まれて初めて観る光景があった。

 

 

 

 

 

 

 ラグナの後ろには紺碧の海……その頭上には澄み渡った夏空が広がる。もちろん、足下の浜辺にはまばゆい白砂。

 どれもこれも南国特有の強い色彩だ。

 そこに立つひとりの男……そう、異世界からの客人。

 そいつの身体の半分ほどが、空間に溶け込むように色を失った。

「おい、ラグナ……!」

「ラグナさんっ!?」

「え……あ、あれ? ヴィンセント?セフィロス? よく見えない……」

 オレたちからラグナが透けて見えるように、ラグナのほうからも、こちら側の人間が霞んでいるのだろう。

 空間の歪み……この世界とあの世界を隔てる壁が、今、亀裂を生じたのだ。

「なんかフワフワする。もっとスゴイ感じで吸い込まれるのかと思った……」

「楽に戻れるならそのほうがいいだろ。二度と来るなよ、疫病神」

 オレの憎まれ口に、傍らのヴィンセントが苦笑した。

「ラグナさん……気をつけて。貴方の素晴らしいご子息にどうかよろしく……」

 オレはヴィンセントの言葉に吹き出しそうになる。彼は至極真面目にしゃべっているのに。

「そ、それから……あ、あの……あのっ……」

「えー?なーに? ヴィンセント、もうあんまし声……聞こえな……」

「そ、それから……ッ! できることなら、セ、『セフィロス』に……か、彼に……」

「え〜?ヴィンセント〜?」

「あー、もうこっちのことは気にするな。無事にたどり着けよ、大統領」

 きっとそう返したオレの言葉もまともに聞こえていなかったろう。ラグナの身体はまさしく別世界へ溶け込むように、空でかき消えたのであった。

 一週間……このオレ様を煩わせた疫病神は姿を消した。

 本当なら小躍りして喜びたいところだが、不思議に憎めないキャラクターであったせいだろうか。何となく気抜けしたような不思議な気分であった。

 それは傍らで惚けたように突っ立っているヴィンセントのせいかもしれない。

 熱病になりそうな日差しの中、オレはヴィンセントに声を掛け、正気に戻らせた。