うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「大統領だもんね〜、ちょっと惜しかったなァ〜」

「惜しいって何がだよ、ヤズー」

「だって兄さん、大統領だよ?国家元首なんだよ?しかもエスタって近代国家らしいし」

「みたいだね。レオンの居る、ホロウバスティオンなんかよりはずっとね」

「でしょう!? ってことは間違いなく経済発展しているわけだし、その国の大統領!きっと国家財政も潤っているよねェ〜」

「おいおい、ちょっ……何考えてんの、ヤズー? 言っておくけど、ファーストレディにはなれないぞ? 一応女じゃないとな」

「愛人さんでもいいんだけどね〜」

 冗談なのか半分くらいは本気なのか、イロケムシのヤツはヘラヘラ笑いながらそう言った。テーブルのボウルには皮むきしたジャガイモが放り込まれている。

 ヴィンセントのヤツも皮むきに参加していたのだが、うっかり指を切って今はエンドウ豆の外皮外ししかさせてもらっていない。普段ならこんなつまらないミスはしないだろう。

「ヴィンセント、血、止まった?」

 心配そうにクラウドが訊ねる。コイツも未熟ながら豆の皮むきを手伝っていた。

「あ、ああ……すまない」

「謝ることはないけどさ。でもヴィンセントってば、ただでさえ、血ィ少なそうだから、心配なんだよ」

「……大げさだ、クラウド」

 ヴィンセントがまさしく『聖母の微笑』といった雰囲気で微笑んだ。

「あー、でもやっぱ無理か〜。あっちの『セフィロス』が相手じゃさ〜。なんていうかああいうタイプの人にって絶対勝てないよねェ」

「まだ言ってんのか、アホか、おまえはイロケムシ」

 雑誌をラックに放り投げ、オレはため息混じりに馬鹿にしてやった。

「だってさ〜、貴方と違ってあっちの『セフィロス』って天然じゃない? ああいうタイプが最強だよね、恋愛は」

「ラグナを好きなわけでもないくせに、よく言うぜ」

「そういう言い方はないんじゃない?セフィロス。確かに愛してはいないけど、好ましいと思うよ、キャラクター的に。もっというなら、彼の持ち物はそれ以上に魅力的だよね」

「持ち物?」

「社会的地位に財産、可愛い息子……」

「可愛い息子ってレオンのことォ?」

 無礼にもクラウドのガキが、ブフッとおかしな声で吹き出した。

「持ち物か…… 彼の携帯電話は……いいな……」

 緑の豆を弄びつつ、ボソリとつぶやくのはヴィンセントだ。

「ったくおまえは……」

「あっはっはっ、ヴィンセントにとっては魔法の電話に見えただろうねェ」

 イモの皮むきを終えたヤズーが、髪のリボンを解きながら、さもあろうというように微笑んだ。

 ほとんど独り言のようなつもりでしゃべっていたのだろう。ヴィンセントは、無意識の発言を、皆に聞かれたのが恥ずかしかったらしい。弁解の言葉を探していたようだったが、やがてあきらめた自嘲を漏らした。

「でもさァ……いくら同じ世界の同一機種とはいっても……コスタ・デル・ソルとホロウバスティオンで通話できるなんて不思議だよねェ。やっぱ空間の歪みが関係してるんだろうけど」

「そうだろうね。異なる世界同士がくっつくと通じるんじゃね? ああ、フツーに電話できるなら、俺、『クラウド』としゃべりたい」

 自分と同じ名とツラを持っている、別世界の『クラウド』のことを、こっちのクラウドが名指しした。おかしな気分だ。

「レオンとクラウド……そして『セフィロス』の居るホロウバスティオンか……どのようなところなのだろう……?」

 夢見るようにヴィンセントがつぶやいた。

「さぁな。エスタとやらはずいぶんと機械化が進んだ都市らしいがな」

「あっちからはレオン、『クラウド』、『セフィロス』、ラグナさんがやってきたのに、こっちからは兄さんだけしか行ったことがないんだよね〜、なんか不公平!」

「何言ってんだよ、ヤズー。冗談じゃないっての!」

 当事者のクラウドが即座に反論した。

「ヴィンセントが居ない世界なんて行きたくもないね。もう毎回毎回とにかく一刻も早く帰ることだけを考えてさ〜。ヴィンセントがなんか困ってないかとか、セフィに意地悪されてないかとかさ〜。胃が痛くなっちゃうよ!」

 チョコレート・クッキーを箱食いしても、ケロリとしているくせによくもいう。

「ま、確かにね。帰り方がわからない状態だったらたまらないよねェ。でもさ、あっちの『セフィロス』に空間の歪みとやらを見つけてもらえばさ、そこから戻れるでしょう?」

「そりゃそうだけど、上手くコスタ・デル・ソルとつながるとは限らないんだぞ?歪みだって、いつでも見つかるってわけじゃないみたいだし」

 うんちく垂らすクラウド。

「ふぅん、そっかァ〜、戻りたいと願ったらいつでも帰れるっていうなら、俺なんかは是非一度ホロウバスティオンに行ってみたいな〜」

「あ、あの……わ、私も……!」

「ちょっと、もう縁起でもないこと言わないでよ、ヴィンセント!」

 冗談を笑い飛ばすでもなく、いちいち真面目に抗議するクラウド。殊ヴィンセントのことになると真剣そのものである。

 

 

 

 

 

 

 ……ラグナのいなくなった家は、なんだか少し広く感じる。

 あいつは騒々しい男だったから。

 

 だが……ヤズーではないが、オレの見たことのない世界があるのなら、是非一度足を運んでみたいものだとも思う。

 そいつはもちろん単純な好奇心もあるが、そこがオレの望む約束の地……かもしれない。

 ああ、いや、『もうひとりのオレ』がそこに居るのなら、そいつだけはないか。

 

 阿呆のラグナに堅物レオン、そして可愛い『クラウド』、もうひとりのオレ……そいつらの世界をこの目で見てみたい。

 不思議なほど歓心を煽られている自らを、少しだけ笑った。

 傍らのヴィンセントが、そんなオレを見て、不思議そうに首をかしげた……

 


 
 

                                                          終わり