うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「あ、『セフィ!?』 俺、クラウド!電話代わってもらった!」

 差し出された携帯電話をとるクラウド。

『……相変わらず、賑やかな子供だな。まぁいい』

「いや、あの俺、23……」

「そんなことはどうでもいいだろう、クラウド!」

 めずらしくイライラとヴィンセントが言葉をかぶせる。

『……おまえが私を引きずり込んで、コスタ・デル・ソルに戻ったときのことを覚えているか?』

「あ、う、うん!あんときはゴメン!」

『今更そんなことはどうでもいい……あのとき、我々が到着した場所……湾岸付近であったが……』

「わかるわかる、覚えてる。ウチからそう遠くない場所だもん」

『……コスタ・デル・ソルで、もっとも磁場が不安定なのは、あの海岸沿いだった。私に言えるのはそれだけだ』

「そ、それだけって……」

 クラウドが困惑したようにオレを見る。ガキのころから何かあると、こんなふうに他人のツラを眺めるのだ。

「クラウド、電話を貸せ」

「あ、う、うん。ちょっと待って『セフィロス』。今、ウチのセフィに代わるから!」

 クラウドの言葉も終わらないうちに、オレは電話をひったくった。

「おい、ボケ老人、オレだ」

『……相変わらず口の悪い男だな』

 そうつぶやくと、ヤツはフフッと低く笑ったようだった。

「話の続きだ。海岸沿いの……オレたちが初めて貴様と逢った場所のことだな?」

『そうだ。……帰りも私はそこから戻れた。あいにく着いたのは、ホロウバスティオンではなかったが』

「いつ道が開けるかは……」

『さすがにそれはわからぬ。私は今こちらの世界に居る故……だが、この電話が通じているということは……今現在、おまえたちが居る場所付近にも、わずかながら歪みがあるのかもしれぬ』

 『セフィロス』の言葉を受け、ヤズーとクラウドがあちこちを見回す。……だが、結局は見えない者同士なのだ。そう簡単に空間の歪みなんざ見つかるわけがない。

「チッ……そういわれても、生憎鈍い者ばかりでな」

『……亀裂が大きいなら常人にも感じ取れると思うのだが』

「……わからん」

『フ……ならば致し方がないな。やはりあの湾岸がもっとも可能性の高い場所だ』

「……そうか、ならば……」

『一つ言っておく、セフィロス』

 静かにヤツは言葉を続けた。何の抑揚もない声音で。

『……確かに、あそこは空間の歪みが連結しやすい場所ではある。だが歪みと一言で言ってもその規模はまちまちだ。人ひとり通ることもできぬほど小さなものから、家屋を飲み込むほどのものまで存在する。詳細はそちらの「クラウド」に訊ねるとよい』

 言われるがままに、傍らのチョコボ頭のツラをのぞき込むと彼はコクコクと頷き返した。

「……わかった。何か他に手がかりは?」

『残念ながらその程度だ。小さな亀裂を無理矢理利用しようとすれば、肉体の半分だけを食いちぎられることもある。無理はすべきではない』

「あー、まぁ、ラグナだからな、その辺は」

「オイィィィ!」

 とオレにつっこむ大統領。

『フフ……日参すれば思いの外早くにチャンスがあるかもしれないぞ』

「……なるほど、わかった。悪ィ、騒がせたな」

『別に……かまわぬ。フフ』

「なんだ?」

『いや……相変わらず面倒ごとに巻き込まれているなと思ってな』

 その言葉は、我が家の者たちへというより、オレ一人に向けての言葉だったのだと思う。同じ名、同じ顔をした『セフィロス』が、多くの人間に囲まれ、さらには異世界からの客人に引っ張り回されてドタバタと動き回っているのが滑稽に感じたのかもしれない。

「まぁな。退屈しなくて悪くないぞ」

『奇特な男だ……ではな』

 あっさりと『セフィロス』が電話を切ろうとしたとき、傍らのヴィンセントが、もはやじっとしていられないといった態でオレの腕に飛び込んできた。いや、正確には手にしている電話に対して、だ。

 ヤツの真剣な有様に気圧されて、オレはその無茶な行為を止め損なった。




 






  

「『セフィロス』、『セフィロス』!?」

『…………』

「『セフィロス』! あ、あの……あの、わたし……」

『……?』

「わ、私だ……『セフィロス』……君なんだな……ッ?」

『ヴィンセント・ヴァレンタイン……?』

 あちら側の『セフィロス』が尻上がりの声音で、低く訊ね返してきた。

「あ、ああ! ああ、私だ……っ! わ、わたしだ……っ!」

『……久しいな』

「『セフィロス』……ッ! 傷の具合はどうだろうか?食事は?きちんと採っているのか?体調を崩したり、病に伏したりなど、していないだろうか……っ!?」

『……ふ……相変わらずだな、ヴィンセント・ヴァレンタイン』

「『セフィロス』……『セフィロス』……君に会いたい……君の元気な姿が見たいんだ……」

「ちょっとォ……ヴィンセント?」

 恋人のあまりに必死な様子に、クラウドが不満げに名を呼ぶ。だがヴィンセントは完全に黙殺した……というか耳に入ってなどいないだろう。

「『セフィロス』……君に会いたい」

『フフ……おまえらしくもない』

 ピーッピーッ

 ヴィンセントを急き立てるような電池の消耗音。

「『セフィロス』……! もう二度と会うことはできないのだろうかッ!? 君はいったい何処に……っ」

『ヴィンセント・ヴァレンタイン……そう、私もおまえとならば、今一度会うのもよいと感じる』

「なんスか? 俺たちとは会いたくないっつーの?コレ」

 と、クラウド。

「兄さん、シッ!」

 弟に叱られる、アホチョコボだ。

「『セフィロス』……『セフィロス』……会いたいんだ……君の無事な姿を見たい」

 白い頬を伝って、惜しげもなく涙の粒が床に落ちる。オレから取り上げた携帯電話を握りしめる手は、小刻みに震え彼の動揺と緊張を表していた。

「『セフィロス』……ッ!」

『案ずるな……私は息災だ。……いささか退屈はしているがな』

 

 ピーッピーッ

 

「『セフィロス』……ああッ!もう時間が……!」

『フ……身体を労え……ヴィンセント・ヴァレンタイン』

 

 ピッ……ピーピーピー……

 

「『セフィロス』!『セフィロス』!?」

 ピーピーピー……

「『セフィロス』……っ!」

「……ヴィンセント、もう電池切れだよ」

 申し訳なさそうに、ラグナが言った。

「ああ……『セフィロス』……!」

「大丈夫だって。セフィは元気になってからホロウバスティオンに戻ったし、今だって退屈してるって言ってたくらいなんだから」

 肩を軽く叩き、やさしく宥めるラグナ。ここ数日で最も『大人らしい』態度だ。

「……ヴィンセント。ほら、もういいだろう。手を放せ」

「……え……あ?」

「携帯電話だ。そんな力で握りしめていたらぶっ壊れるぞ」

「あ……す、すまない……と、取り乱して……」

 そういうと、ようやく正気づいたように、携帯電話を手放した。

「……は、話が出来て……うれしかった……」

「ヴィンセントってば、どうしてそんなに……」

「兄さん、よしなさしよ」

 不満いっぱいのクラウドの文句を、ヤズーが止めた。

「あー、よしよし。とりあえず、ヒントはもらえたようだな。クラウド、あの男と一緒にコスタ・デル・ソルに戻ったときのことを話せ」

 善は急げ。

 オレは即座にクラウドにそう命じた。