うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「そんでさー、レオンってばさ〜、もうホントまいっちゃうよね〜、くそ真面目でさ〜」

「あら、いいじゃない、兄さん。不真面目よりは真面目なほうが好感もてるよ。俺、ああいうタイプ大好きだけどね」

「そうだな……とても誠実な好青年だった。彼とももう一度会ってゆっくりと話をしたいものだが……」

「へぇ〜、ヤズーとヴィンセントにそういわせるなんて、あいつも案外捨てたもんじゃないんだなァ。おっととと、うーん、お酒が美味しい!」

 お調子者の疫病神は新鮮な懐石料理と地酒に舌鼓を打った。酒はここコスタ・デル・ソルの名物、なんとアルコール度数が40%を超える強い銘酒だ。

「セ、セフィロス、君は……?」

「ああ、もらう」

 いつまでも仏頂面していても、肝心のラグナはまったく堪えず、ヴィンセントばかりがオドオドと不安そうにする。アホらしくなってきたのでラグナをぶん殴るのは別れ間際にすると決めたのであった。

「あー、魚も美味しいし、お酒も旨いし、極楽極楽〜」

 プハァ〜とオッサンじみた吐息をつくラグナ。クラウドのガキもとなりでせっせと食っている。こいつはアルコールがそれほど強くはないので、もっぱら食いに徹している様子だ。

「この前庭でやったような海鮮バーベキューもいいけど、やっぱ技巧をこらした懐石っていうのも味わい深いよねェ。はい、ヴィンセントどうぞ」

「え……あ、ああ、だが私は酒はあまり……」

「たまには羽のばしたっていいじゃない。今日はカダたちいないんだし」

「そうそう、はい、ヴィンセント、飲んで飲んで」

 クラウドにまで勧められて、ようやくヴィンセントは猪口を空けた。彼は熱燗を好んで呑んでいる。

「ん……美味しい」

「ね!もう何本か頼んでこよう!ラグナさんは何にする?」

「あ、俺、冷や」

「オッケー。セフィとヤズーはビールだね!」

 そういうと、クラウドのガキは気を利かせて、タカタカと注文しに行った。

「やれやれ、我が息子くんが、この場所でずいぶんといろいろと迷惑を掛けたようだね〜、すまんねェ、コレ」

 ヤマダーのような口調で、手酌しつつつぶやくラグナ。だいぶ酒が回ってきているらしい。だらしない40男だ。

 だいたい『迷惑』っつーんなら、レオンなんぞより、遙かにこの男のほうが掛けまくってくれていると思うわけだが。

「まぁ、あいつもね〜、けっこういろんなトコに顔つっこんでるみたいだしね〜。まぁ、以前のあいつに比べれば今のほうがずっといいんだろうけど」

「以前のレオンって?」

 とヤズー。オレも思わずそう聞き返すところだった。

「ん〜、まぁ、事情があってさ。あいつとは離れて暮らしていたんだけどね。人付き合いは避けるようなヤツでさ。友達って呼べるような連中も側に居たみたいなんだけど……自分から距離をとるようなところがあってさ」

「ああ……ん……なんとなくわかるような気がする」

「はは、ヤズーは鋭敏だからね」

「恋人……はガーデンにはいなかったのかな。ホロウバスティオンは別にあいつの故郷ってわけじゃないんだけどね。どういうきっかけか知らないが、あの場所の復興に携わるようになったらしい」

 ラグナが独り言のようにつぶやいた。エスタとホロウバスティオンは同じ次元の世界に存在するが、別の国になるのだろう。

「……なんかけっこう大変そうだけど、楽しそうにやってるみたいだ」

「ふぅん、そう……なんだ」

「でも結果的にはよかったと思ってる。今は向こうの世界の『クラウド』くんと一緒に住んでいるし。仲もいいみたいだしね」

「ああ、『クラウド』もレオンのことを大切に思っているようだ」

 しみじみとヴィンセントがつぶやいた。いったいどういう意味合いでかは触れずに。

 

 

 

 

 

 

「でも、今は盛りがついたワンコみたいに、『セフィロス』『セフィロス』ってよ〜」

 ヒックと酒臭い息を呑みこむラグナ。

「だいたい年下のくせに生意気なんだよね、あいつは〜。俺とセフィがラブラブになんのを阻止すんだよ。息子のくせによ〜」

「テメー、酔っぱらってんだろ」

「やっだぁ、怖い顔しないでよ、セフィロスってばぁ。同じ『セフィロス』でも俺の世界のセフィの話なんだからさ〜」

「たりめーだ。親子共々あのめんどくせー男相手によくやるもんだ」

 吐き捨てるようにそう言ったところで、クラウドが熱燗と冷や、そしてビールをゲットして戻ってきた。ったく運んでもらえばいいものを。

「いよっ、盛り上がってるぅ?今夜は無礼講だね〜。いいですな〜、ガキがいないと、大人の雰囲気で〜」

「どっちかというとおまえもガキ組だと思うがな」

「失礼だな、セフィ!俺はもう大人なんだからな!しっかり大人!」

「あーはいはい」

「ちゃんと聞けよ!」

「ああ、もう暴れないでよ、兄さん。ほら、座って座って」

 賑やかな晩餐。

 傍らに座るヴィンセントが淡く微笑む。

 そう……オレたち……いや、あいつのいうところの『家族』の姿を見守りつつ。

「……あ、ど、どうかしたのだろうか、セフィロス?」

 オレの視線に気づいたのだろう。当惑を押し隠した笑みを浮かべ、そっと訊ねてくる。食の細いこいつは、さきほどから、もっぱら酒と野菜くらいしか口に入れていない。

「いや……ああ、そうだ。手を貸せ、ヴィンセント」

「え? あ、ああ……」

 おずおずと差し出される白い手。白蝋のような指は骨張って細い。

 ぐいとひったくって、手のひらを自分の頬に押しつける。ヤツは驚いたようだが、抗いはしなかった。

「冷たくて気持ちがいい……」

 オレにしてはずいぶんと無防備なセリフだったのだろう。薄目で眺めたヴィンセントが瞳を瞠っていた。

 ひんやりとしたヴィンセントの手が、アルコールに火照った頬に心地いい。オレほどではないにせよ、こいつも多少は口にしているだろうに、体温は上がらないらしかった。

「おい、ちょっ……!セフィ!ヴィンセントにベタベタすんなよ!ほらどいてどいて!俺、間に座るッ」

「クラウド……よさないか。乱暴にしてはいけない」

「だって、セフィがヴィンセントの手を……」

「そんなに怒るようなことではないだろう?」

 つくづくオレに甘いヴィンセント。別にクラウドをないがしろにしているわけではなかろうが、オレとクラウドがトラブると、大抵オレの味方をする。

 もっともクラウドの言いぐさが、あまりにも幼いせいだろうが。