うらしまクラウド
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 
 

 今朝のメニューは、和食だった。

 おそらくヴィンセントが、オレの体調を気遣ったのだろう。

 

 山菜の炊き込み飯に、吸い物、焼き魚、和え物、煮物、そして漬け物とかいう名のピクルスだ。

 焼き魚に苦戦する『クラウド』の分を、ヴィンセントが丁寧に骨を外し、食べやすく身をほぐしてやっている。女顔ヤローはそのお綺麗なツラに似合わず、けっこうな量を食う。まぁ、もちろんオレにはかなわないが。

 

「おい、『クラウド』」

 ふと思いつき、オレのとなりのガキに声をかける。              

「……え、あの、な、なに?」

 未だに緊張しているのが、どぎまぎとした様子で答える。上目使いなのが可愛らしい。
 
「おまえ、いくつだ?」

「……23」

 ……やはり計算は合っている。これまでここにいたクラウドと同い年だ。

 

「なに訊いてるの、セフィロス。入れ替わっただけなんだから年は同じでしょ」

「生きている場所が入れ替えになったなら、『時間』が入れ替えになってもおかしくないだろ」

「……なるほど、君の発想は実に興味深いな」

 学者のような物言いをするヴィンセント。

「ねぇ、『レオンさん』は? 年いくつ?」

 興味深げにイロケムシが訊ねた。

「あ、ええと……25?、6だったけかな……」

 白い頬にポッと朱味が差した。

「『レオン』? 昨夜も聞いた名だな」

「彼の一番大切な人!」

 妙に誇らしげに宣うイロケムシ。なにを勝ち誇っていやがるのか。

 

「ほぉ、『セフィロス』じゃないのか?」

 冗談でもなくそう訊ねてみると、『クラウド』は視線を落とし、わずかに逡巡した。

「……『セフィロス』は……たぶん、オレのことなんて……ただの人形みたいなものだと思ってるから……」

「ちょっ……間が悪い人だね!セフィロス! あなたね、空気読んでよ、空気!」

「あ、別に……平気だから……それより、ゴメン。オレ……すごく、気、使わせてるみたい……」

 ポソポソと『クラウド』はつぶやいた。

 居たたまれないのか、誰とも目線を合わせようとはしない。

 

「そ、そんなことないってば。おかわりは? 『兄さん』?」

「……ごちそうさま。もう十分」

「『兄さん』……」

「ふたりとも、料理上手いんだね。レオンのゴハンも美味しいけど、このうちのもすごく美味しい……」

 ようやく顔を上げて、『クラウド』が笑った。

 不安と焦燥を押し隠した淡い微笑が痛々しく映った。

 

 ヴィンセントが丁寧に茶を振る舞う。

 急須とかいうポットから注ぎ込まれた緑茶だ。

 渋みのある、だがどこか甘い香りのするそれを、オレは気に入っている。

 そいつを飲み干してから、おもむろにオレは口を開いた。

 

「おい、『クラウド』。食い終わったか」

「……う、うん」

「出掛けるぞ、付いてこい」

 オレはやや強引にそう言った。

 海の色をした大きな瞳が、さらに大きく見開かれる。

「ちょっ……セフィロス? どこ連れて行こうっての?」

「ギャーギャーわめくな、女顔め。ただの散歩だ。家の中で燻っていても仕方ないだろ」

「でも、まだ……!」

「あー、うるさいうるさい。生理痛の女顔は放って置いて、ほら、行くぞ、『クラウド』」

「ちょっ……!」

「……では頼む、セフィロス。ふたりとも気を付けて……」

 不満顔のヤズーとは対照的に、やわらかく微笑んでヴィンセントがささやいた。

 

 

 オレと『クラウド』は連れだって、海沿いの道を歩いた。

 未だ午前中であるにも関わらず、照り付ける日差しがジリジリと肌を焼く。

「……暑い」

 掠れた声で『クラウド』がつぶやいた。

「フフン、倒れそうか? 軟弱者」

「そ、そんなことはないけど……ここ、すごく暑い土地なんだね。それに景色が綺麗だ……空と海の色が……本当に真っ青なんだ……」

 今気が付いたというように、『クラウド』は天を仰ぎ、海を見遣った。

「気に入ったか?」

「うん……こんな綺麗な場所……だからなのかなァ……みんな……うちにいる人たちも強くて……元気みたいだ……」

 そうつぶやいた『クラウド』は、少し寂しそうに見えた。

「ヴィンセントがいるだろ」

 少し意地悪く、オレは言ってやった。

「……ヴィンセントさんだって、すごく物静かだけど……芯は強い人だと思う」

 人っ子独り居ない浜辺に腰を下ろすと、『クラウド』もオレに習って、となりに座った。

 

「フ……おまえはなかなか人を見る目がある。あいつは相当強情なヤツだぞ」

「……うん。なんか……わかる、そういうの」

「ま、よく泣くけどな」

「……やさしい人だから」

「おまえもよく泣くな」

 からかい半分でそう言うと、

「……オ、オレは違うよ……やさしいとかじゃなくて……ただ……ダメなヤツだから……」

 と、掠れた声で『クラウド』が笑った。