Summer Vacation 
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
18禁注意
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

 

「ん……あ……」

 カダージュの吐息が熱を帯びる。

 おかしな話だが、この子はこうしているとき、ひどく幸福そうな顔をしてくれる。俺としては冥利に尽きるという心境なのだが、この行為の正確な意味を理解してはいないのかと思うと、どこか寂寞とした感覚もぬぐい切れない。

「ん……ヤズー、もっと……」

 カダはキスが大好きだ。唇に口づけられるのも、身体の端々に接吻されるのも嬉しいらしい。

 以前そう言って、からかってやったことがあるのだが、不思議な微笑を浮かべて、彼はこう答えた。

 

『うん、何かね……そうしてもらうと、「僕はここに居る」って感じる。身体があるんだって思えるっていうか……』

 まだ兄さんに逢う前の話だ。

 そのときは、それほど深くその言葉について思い巡らせはしなかった。だが、この行為を繰り返し、その都度、求めてくるカダージュの気持ちを考えると、おぼろげながら、彼の不安が見えてくる。

 ……もっともカダ自身は、それを「不安」と理解しているとは思えないが。

 

 セフィロスによって生み出され、この世界に生を受けた俺たち。思念体という不確かな存在であるにもかかわらず、普通の人間と寸分違わぬ肉体を有し、彼らよりも優れた能力と強烈な自我をもつ俺たち……

 兄さんたちと会う前……俺たち三人だけだった閉ざされた世界に居たとき、カダはここまで不安定にはならなかった。今より見せる表情は遙かに少なかったが、その分落ち着いていた。

 だが、セフィロスに導かれ、兄さんと対峙したその日から、こうして兄さんの周囲の人々……ヴィンセントを初めとし、敵方であろう神羅の社長ルーファウス、その取り巻き連中、また俺たち自身の創造主・セフィロスに対面してから、彼の表情は格段に増え、感情の発露が著しくなった。

 

「あッ……くすぐったいよ……ヤズー」

 熱に浮かされたような吐息の中から、かすれた声で笑うカダージュ。

 唇で脇腹をたどったのがこそばゆかったのだろう。俺も人のことは言えないと思うが、カダージュの身体は、まだ十代だけあって、どこもかしこも不完全に細い。

 少女めいた肌理の細かさと、少年のしなやかな筋肉が同居しているこの身体は、眩くも美しいと俺には感じる。それは過渡期の少年が見せる一過性のものなのだろう。この子もいずれは、大人の身体になってゆく。だが、それはほんの少し遅くてもいいと俺は思っている。

 小刻みに震える下腹を手のひらでさすり、唇をゆっくりとずらせてゆく。薄い皮膚一枚を隔て、彼の身の奥でこらえがたい欲求が高まってるのを感じられる。

 

「ん……あ……はやく……」

 俺の髪に指をもぐらせ、恥ずかしげも無く急かすカダージュ。

 若い身体は、肉体の欲求に素直だ。彼の分身は、もう十分に力を帯び解放の瞬間を待ちわびるように、露を含んでいる。

「はッ……あッ……ヤ、ヤズー、早くったら……」

「ん……もう少し……」

「やだ……もう……なんでイジワルすんの……」

 駄々を捏ねるように、俺の髪を引っ張る。

「こら、痛いったら、カダ。抜けちゃうだろ」

「あ、ヤダ……やめないでよ……」

 鼻にかかったような声で訴える。

「ふふ……カダ、わかってる? ここ、兄さん家なんだよ? いくつか向こうの部屋には兄さんがいるんだぞ?」

「……? なぁに、それがどうしたの、ヤズー」

「……カダは兄さんが好きなんだろ?」

 指先だけの愛撫に切り替えて、俺は言葉を紡ぐ。

「兄さん? うん、好きだよ、もちろん」

「……知られちゃったら困らない?」

「どうして?」

 童女のようなあどけない面差しに、胸の奥に苦いものがこみ上げてくる。

 ……そう、カダージュにとっては、こうして彼に口づけ、その身体を抱き、快楽をもたらしてくれる人間ならば、必ずしも俺である必要はないのかもしれない。

 

「……どうしたの、ヤズー?」

「……え?」

「どっか痛いの?」

「何だ……? 俺は別に……」

「だって今、すごく苦しそうな顔してたよ……?」

 ひどく心配そうな顔つきで、カダージュはつぶやいた。

 

「いや……なんともないよ……」

「ホント? ねぇ、ホント? ヤズー、ウソついてない?」

「なんともないってば。……おまえが心配するようなことじゃない」

 俺は独り言のようにそう言った。

「やだよ、ね、ちゃんと僕のこと見て、そう言ってよ。僕、ヤズーがいなくなったら、ひとりぼっちになっちゃうよ。嫌だよ、そんなの。だったら死んじゃった方がいいよ。ヤズーと一緒に死ぬ」

「おいおい、バカなこと言い出すな。どうしたカダ。まだ気が立っているのかな」

「……ヤズー、僕に言いたいことない? かくしてない? 僕、なにかいけないことしちゃった? ヤズーに嫌われるようなことしちゃったの? ねぇ、ねぇッ?」

「しっ……カダ、声が大きい。ロッズが起きてくるぞ」

「いいよッ! そんなの……! ねぇ? ヤズーっていっつもいっつも、笑ってばっかりじゃん。僕に怒ることなんてないじゃない」

「それは……」

「ヤズーは僕に何か隠してる」

 断定的にカダージュがそう言った。

 ……隠している? そういうことになるのだろうか?

 いや、違う。俺は一度だって、カダに俺の気持ちを隠したことなどない。

 愛しているから「愛している」と告げ、こうしてこの子の身体を抱いているのも、カダが望むだけでなく、俺自身が「そうしたい」と思っているからだ。

 だが……その意味を、俺の望むその意味を、正確に理解できないのはカダージュのほうであり、それを強いるのは、俺の本意じゃないだけだ。

 

 俺はこのままでいい。いや、変化など望むべくもない。なにか変化を起こそうと試みて、俺の望む形ではなく、カダージュの気持ちが遠ざかってしまったとしたら、俺はきっと狂うだろう。

 

 家族としての愛情でも、ひとりの男としてでも、なんでもかまわない。

 カダージュが、俺を必要としてくれて、側にいてくれて、俺の名を呼んでくれて……そうしてくれれば、もういいのだ。それ以上は何も望まない。

 

「ヤズー……? どうしたの?」

「え……あ……」

「急に黙っちゃって……僕、何か気に障ること言っちゃった?」

「いや……違うんだよ……」

「ねぇねぇ、ヤズー、頼むよ…… 僕が何かいけないことしたら、そう言ってよ。ちゃんと直すから。ね? 僕、ヤズーに嫌われたくない。ヤズーに嫌われたら……死んじゃうよ」

「……カダ」

「ヤズーが……僕じゃない誰かを、僕より好きになったら……寂しくて怖くて死んじゃうよ。そうならない前に、僕に言ってよ……なんでもいうこと、聞くから…… ね?」

「……わかってる、わかってるよ……大丈夫だ。俺にはカダだけだよ。だれよりもおまえを一番愛してる」

 俺は小さな頭を抱きかかえながら、耳元に言葉を送り込むように、そうささやいた。

「ホント?」

「ああ……」

「ホントだね、ヤズー……」

「……ああ、こんなふうに抱くのはおまえだけだよ」

  俺はそう語りかけると、カダージュの、形よい足の指を口に含んだ。そのまま裏側を舐め、大きく膝を割る。

「……アッ……」

 カダの細いからだが、魚のように刎ねた。

「ん……あ……」

 焦れたようにシーツを蹴る、しなやかな足。

 足先からすべらせた口唇が、彼の中心にたどり着くころには、華奢な身体に汗を浮かせ、その部分は熱を帯びて、固く張りつめていた。

「……あッ……ヤ……ヤズー……」

「……ん?」

「やっぱ……今日はイジワルだ……」

「……どうして」

 片手で熱の中心を押し包み、俺は紅く染まった耳朶にささやいた。

「だって……いつもはすぐ……」

「ん……今日は長く話、しちゃったからね……」

 俺は言った。

 

「……怒った? ヤズー……」

「まさか」

「……怒ってない?」

「もちろん」

「なら……はやく……してよ。も……苦しいよ……」

 そうつぶやくと、一重の大きな瞳からボロボロ涙がこぼれ落ちた。俺はその跡を丁寧に舌で舐め取り、下肢に回した手で、震える両の脚の付け根を開く。そしてわずかにできた隙間に、身体を滑り込ませた。

 

「カダ……大丈夫そうか? それとも一度、出すか?」

 わずかに逡巡し、カダージュに問う。

 一度、射精すれば、肉体は弛緩する。男を相手にするときには、なるべくそうして相手の身体に負担がかからないよう配慮するものだと思っている。

 もちろん、カダに対してはなおさらだ。

「ううん、いっしょが……いい。平気……」

 たどたどしく、言葉を綴るカダージュ。

「ん……」

 俺は彼の頬を撫で、深く口づける。歯列を割り、舌で口腔を愛撫する。それにつたない所作で応えるカダージュ。

 緊張をほぐすように、内股を撫で上げながら、最奥に指を這わせる。

 

「……カダ、力、抜いて」

 俺は、いつもと同じ言葉を、カダに耳打ちする。

「うん……」

 そこは熱く、そしてひどく狭い。

 カダの求めに応えて、肌を重ねることは多いが、最後まですませることは案外少ないのだ。俺自身が行為それ自体に淡泊だということも理由だし、やはりカダの身体に負担がかなるのは好ましくないからだ。

 枕元に置いておいた潤滑油を、指で十分過ぎるほどになじませ、細い身体から強ばりが消えるのを、辛抱強く待つ。

 

「ん……も……いいってば……」

「痛いのは嫌だろ?」

「ん……いいよ、ヤズーなら……だいじょう……ぶ……」

 そんなことを言ってくれるのが、可愛らしい。

 俺は、一回り小さな彼の身体に体重を掛けないよう、十分注意して身体を重ねる。

 

「いッ……んッ……んんッ!」

 こらえきれない苦鳴が、噛み締めた歯の間から漏れる。どうしても広げられる瞬間には痛みが伴うのだろう。白い額に汗の玉が吹き出し、眉間に皺が刻まれた。

 カダの気をまぎらわせるよう、前に手を這わせ、先端に刺激を与える。

 苦痛と快感の入り交じった、陶然とした表情に、俺自身が高ぶる。

 生理的な涙が、自然に頬を伝わり、とぎれとぎれの声が、無意識に俺の名を綴っている。

 

「ん……ッ あッ……あッ……ヤ、ヤズー……もっ…と……あッあッ……ああッ!」

 繰り返される注挿に、カダージュの身体が、限界を告げる。

 俺にも、もう余裕はない。

 放り出された手に、指を絡ませ、つながったその部分だけの熱をたよりに、解放を待つ。

 

『んーとね、目の前がパッて白くなって、パチパチって花火が散るみたいな? 綺麗なんだよ、とってもね』

 快楽の頂点をそう表現したカダージュ。

 こんなときに、なぜか子供じみたその言葉を思い出す。

 

 ほぼ、同時に登りつめ、俺たちは墜ちた。

 カダージュには、また「白い花火」と評した、その光景が見えていたかもしれない。

 

 ……だが残念ながら、俺の目の裏には、白い花火が散る様は映らなかった……