Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<27>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

身だしなみを整え終え、くるりと一回転してみせるクラウド。

「な、どうだ、セフィ?」

 多少不安げにオレに訊ねてくる。

 

「……一度くらい、しておけばよかったな」

「……? なにがだよ?」

「女装プレイ」

「……なっ……ったくアンタって、頭ン中それだけ? この非常時に……」

「ヤリたい盛りのガキに言われたくないな。だが、まぁ、なかなかいい」

 オレは端的に誉めてやった。

 

 胸元の開かないタイプのドレスは、詰め襟のように首の方まで閉じていて、喉から胸元まで、愛らしい白のフリルとレースが繋がっている。少し膨らんだ袖、ふんわりと裾の広がるデザインだ。丈はマキシムだから、足が見える心配もない。

「ホント……兄さんって化粧映えするんだ……ヴィンセントはわかるけど、ちょっと意外」

「驚いたか!」

「いや……勝ち誇られてもね」

 やれやれといった様子で苦笑するヤズー。

 

「あ、ヤバ、忘れてた!」

 クラウドが声をあげた。あたりをキョロキョロと見回す。

「な、なに、兄さん」

「なんか、ないかな。胸、胸! あ、これでいいや!」

 勝手に冷蔵庫を漁り、ガッとつかみだしたのは……白い丸い物体。

 ……どうやら、あんまんだか肉まんだか、そんなようなものだ。

 

「くぅッ!冷たッ!」

「おい、そんなモンつっこんで、落ちてくるんじゃないか?」

 オレがそう言うと、

「大丈夫。ブラしてるから」

 とあっさりクラウドが返してきた。

 ……そんなものまで着込んでいたのか……コイツは…… 

 少し見ない間に、ずいぶんと別方面へ成長したものだ。

 

「ね、どう?どう? 俺、ちゃんと女に見える?」

「……見える」                                       

「うん、見えるよ、兄さん。可愛いらしいお嬢さんだよ。……言葉遣いに気をつければね」

「わかってるって。あ、ちょっとヴィンセントの様子は? どいてよ、俺、見るんだから!」

 クラウドに指摘されて、オレたちは飾り窓に飛びついた。

 

 シドに肩組され、リーブに膝枕されてるヴィンセント……なぜかルーファウスまで、ヤツの髪を一房手に取り、妖しげなセリフを投げかけている。

 おそらく、目下の目的のふたりが、この黒髪のホストに異常な関心を示しているのを逆手に取るつもりなのだろう。ヴィンセントと親しくなっておけば、勧誘の口利きをしてもらえると目論んでいるのかも知れない。

 

「……もしよかったら、こんなところに居ないで神羅に来ないか?」

「……え、い、いや、あ、いえ……私……など……」

 逃げを打つヴィンセントの手を取るルーファウス・神羅。

「フフフ。これでも社長だからね。人を見る目はあるつもりだよ。……君は容姿がいいだけでなく、頭も良い人らしいね……」

 ケッ、そいつは、もとおまえンとこの社員だ。バカめが。

  

「社長室付きの秘書職などどうだろうか? 君のような人が傍らについていてくれたら、商談も首尾よく行きそうだ」

 甘い猫なで声でささやきかける。

「そ、そんな……私のようなものには……」

「その控えめなところが、かえって良いのだよ」

 ……ああいえばこういう。

 確かに以前から口の巧みな男ではあったが。完全に押され気味のヴィンセント。

 泣き出しそうな表情で、こちらの方向を見つめる。

 もちろん、隠し窓は外からでは判別できなくなっているはずだが、位置を覚えているのだろう。

 助けを求めるような……縋る眼差し。

 

「くそ〜、ルーファウスめ〜。ぶん殴るのはこの次だ!」

 そういうと、小公女クラウドは、ダスッ!とパンプスの音をたてて立ち上がると、堂々と部屋の外へ出ていった。大股開きの外股でである。

 

「……おい、止めなくていいのか、イロケムシ」

「……止めて止まると思う……? まぁ、無理やり引き留めて、キレられても困るしね」

「…………」

「まぁ、しばらく、ようすを見てみようよ」

 溜め息混じりにヤズーはつぶやいた。

「……おい、言っておくがオレは出て行けないからな。ヤツら相手だと面倒なことになる」

「……わかってるよ。……兄さん、なんとか上手く頼むよ……」

 最後の一言は、もちろんオレに向けられた言葉ではなかった。

 

  

★ 

 

 

「失礼いたします、お客様。お水、お持ちいたしました☆」

 女装クラウド登場だ。

 

 うふっと微笑んで……というより笑って、クラウドはヤツらのテーブルに近づいた。

 ヴィンセントはおのれに降りかかる禍に必死で、きちんとクラウドを認識してはいない。

「ああ、もらおうか」

 とルーファウス。

「はい、そちらさまもどうぞ」

 ぐいとシドにつきつける。

「おい、姉ちゃん。オレァ、酔っぱらってねーぞ! だいたい最近の若けェ娘は、なってねェ! すぐこういう店で簡単に稼ごうとしやがるッ! ったく嘆かわしい世の中だぜ」

「あらあら、お客様。しっかりなさってェ!」

 小公女クラウドは、到底少女とは思えない行動に出た。

 ぐいとシドの首根っこを引っ張ると、ものすごい勢いでヴィンセントから引きはがす。

「ぐぉッ! な、なんだ、オメェ!」

「あ、襟が曲がっていましてよ」

 いけしゃあしゃあとそう言うと、うふふと笑ってシドの襟ぐりを引っ張り上げた。ルーファウスらの死角に引き寄せ、ものすごい目で睨み付ける。

 ……いわゆる『メンチを切る』小公女クラウド。揺れる巻き毛は愛らしいが、立ち上るオーラはいっそ漢らしい。

 

 急におとなしくなってしまったシドを解放すると、ヴィンセントの膝に頬をすりつけているリーブに攻撃目標を移した。

「ま、こちらさまは、もうお眠かしら?」

 顔の表面に氷のような笑顔を張り付け、クラウドは心地よさげに微睡むリーブの胸ぐらを掴み上げた。一見すると抱き起こしたようにも見えるが、まちがいなく『締め上げて』いる。

「……ぐぐ? あ、あなたは……ま、まさか?」

「あらあら、惚けてしまって。一眠りなさって目を覚ました方がよろしいわね」

 たいそう優しげにそういうと、クラウドは奴の鳩尾に手刀を叩き込んだ。

「……ぉ``……ッ」

 声にならぬ悲鳴をあげて、リーブが失神する。

 ようやく正気づいたヴィンセントが、少女を見上げた。

 

(ク……クラッ……クラウドッ!!)

 声に出したらそんな雰囲気だっただろう。

 思わずといった様子で、口元を押さえるヴィンセント。声が出るのをあわてて防いだのだった。