Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<26>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「おいおい、ガキ。こんなところでブレイクするなよ」

 オレは冷ややかにそう言ってやった。

 

「じゃ、じゃあ、どうしろっていうんだよ! このままじゃ、ヴィンセントが……」

 地団駄を踏むクラウド。

「おい、落ち着かんか、クラウド。ホストが肩を抱かれたくらいでキレてどうする」

「背中だって撫でただろうッ!」

「あのな……クラウド。あいつは、今、『ホスト』なんだぞ?」

「だって……ヴィンセントは……ヴィンセントは……」

「少なくとも今日一日は、この店の従業員だろ」

「……くっ」

 クラウドがぎりぎりと歯をくいしばった。

 ヤズーを振り切るように、もう一度オレのとなりに戻ってくると、祈るような眼差しでテーブルを見つめる。 

 ヴィンセントは、さすがに困惑しつつも、適当に相手をしていた。

 

「つーかよぉ! おめーは若けぇくせに夢がねぇんだよ、ルーファウス・神羅! あんとき、どれほど俺たちが苦労したか……なぁ、ヴィンセン……」

「……ヴィ、ヴィンです、お客様ッ」

「そぉそぉ、ヴィンちゃんよぉ〜」

 やれやれ……一難去ってまた一難か。

 

 ようやくリーブを引き離したのに、今度はタバコ男のほうがヤバイらしい。

 それにつけても豪快な野郎だ。あれだけ回っているくせに、まだ平気で新しいグラスを空けてやがる。

 

「お、お客様……大丈夫ですか……? あまり飲み過ぎては……」

 ヴィンセントが、オロオロと止めに入る。

「なーに、言ってやがんでェ! こんなの飲んだうちに入らねーよ!」

「で、でも……」

「しっかし、なんでおめーがこんなとこにいんだよ。あのチョコボ野郎に働かされてんのか?」

 がっしとヴィンセントの肩を抱いて、酒臭そうな息を吐き掛けるシド。

 となりのクラウドが、指の関節が白くなるような力で窓枠を握りしめる。

 

 ……どうやらタバコ男のタガが外れてきつつあるらしい。

 ヴィンセントが泣きベソをかきそうな顔をしている。

「い、いや……いえ、私は……そんな……」 

「なんだ、君たちは知り合いだったのか? シドはあまりこういった店に来るような人物には見えないが……ああ、失敬」

 クスッと、笑い、ルーファウスが言う。

「い、いえ、あの……どなたかとお間違えなのだと……」

「そーそー、おめーは間違えたんだよ。行き先をな。だからウチ来いって……」

「お、お客様……し、しっかりなさってください!」

 強引に肩を抱いてくる手を、なんとか外そうとがんばるヴィンセント。だが、言うまでもなく、あのゴツイ、パイロットのほうが腕力が上なのだろう。

「俺はおめーのことを心配してるんだぜ? あーあー、相変わらず生っ白いツラしやがって。メシ食わしてもらってんのか?ああ?」

 

 

 ……あーあー、目も当てられない状況になっている。

 かわいそうなヴィンセント。だが、あいつの困り切った様子は、なぜか周囲の嗜虐心をそそるのだろう。ただひとり、ルードだけは気の毒そうに眺めているが、ルーファウスや赤毛などはむしろ見せ物扱いである。

 

 とうとうシドの野郎は、ヴィンセントを抱き寄せ、頭を撫で繰り回した。リーブがシドに対して、文句を言っているようだが、負けじとばかりに細い膝にかぶりつく。……ヒザ枕状態にでも持ち込もうというのだろうか。

 ……これだからオヤジ連中は……。

 もはや、ヴィンセントは石像のように固まっていた。

 

「も、もう……ガマンできない」

 ぶるぶると拳を震わせる、クラウド。

 まぁ、さすがに同情する。

「に、兄さん……その、き、気持ちはわかるけど……」

「……ぶん殴ったりしなきゃいいんだろ……」

 そうつぶやいたクラウドの声音は、ゾンビのうめき声のようであった。

 

「そ、それはそうだけど……ま、まさか、従業員でもないのに、ホールに降りるわけにいかないでしょ?」

 困惑しつつもそう言うヤズー。

 クラウドはヤツをキッと睨み付けると、いきなり立ち上がった。

「おい、ガキ、落ち着け……」

「落ち着いてるよッ! でも、ヴィンセントは助ける!……どいてセフィ!」

 そういうとオレを突き飛ばすような勢いでズカズカ歩いていくと、ずらりと並べられたクローゼットを開いた。

 

「え……ちょ、ちょっと、兄さん、なにする気?」

「……殴らなきゃいいんだろ」

「……そ、そりゃ……そうだけど……」

 さすがのヤズーもクラウドの迫力に押され気味だ。

「ヤズー、ドレス入ってる洋服ダンス、どれだ? なるべくデカイ奴!」

「ド、ドレス……?」

「早く!」

「ええと、左の壁際の並びは、全部女物だったと思うけど……」

「わかった!」

 頷くと、片っ端からバンバン開け放つクラウド。

 襟の詰まった、フリルのだらけの一品を選び出す。

 

「おい……ガキ、まさか……」

「決まってんだろ、女装すんだよ!このまま出ていったら、バレバレだからな!」

「……ほ、本気? 兄さん……」

「背に腹は代えられないだろーがッ! セフィ手伝ってよ!」

「で、でも、それはちょっと無理が……」

 普段のクラウドの立ち居振る舞いを知っているからだろう。いいにくそうに異議を唱えるヤズー。

 確かにイロケムシならともかく、粗忽なクラウドでは外見はともかく行動でバレそうだ。

 

「コルネオの屋敷にもコイツで忍び込んだんだ。蜜蜂の館にもスカウトされたことがある! イケルはずだ!」

「……おまえ……けっこう苦労したんだな……」

 ついつい、オレはそんなことをつぶやいていた。

 誰のせいだ!と言わんばかりの眼差しでオレをにらみつけるクラウド。

「わかったらさっさと手伝ってよ、セフィ!ヤズー!」

 何の恥じらいもなく、ぽいぽいと服を脱いでゆくクラウド。淡い色合いの肌を鑑賞する間もなく、すぐさまドレスを着込む。

 大きめのフリルドレスは、多少窮屈そうではあったが、問題なく着込むことができた。華やかな装飾の服を選んだのは、フリルやリボンが身体の線をごまかしてくれるのを期待してのことだろう。もともと目鼻立ちの整った童顔のガキだ。女に見えないこともない。

 

「ヤズー、カツラ! 女の子っぽいヤツ!」

「え、ええと……そ、そうだね、コレとかどう?」

 イロケムシがクラウドの髪と同じ色合いのブロンドのカツラを差し出した。くるりとした巻き毛が、肩口に揺れる愛らしいものだ。

 すぐさまそれをかぶり、鏡台に座る。ブツブツとなにをつぶやいているのかと思えば、「ヴィンセントが、ヴィンセントが……」とくり返している。

  

 意外にも丁寧な手つきで、顔をいじるクラウド。

 オレは後ろの椅子に掛けたまま、眺めていただけであったが、ものの十五分後には、目の前に小公女風の可愛らしいお嬢さんが立っていた