Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<25>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

ルーファウスが、元部下のリーブ、そして敵対者であったはずのシドとやらに、さかんに酒を勧めている。

 

 ……オレの知る限りリーブのヤツは、あまり酒癖がよくない。

 あのペースで飲まされては、酔いのまわりが早いのではなかろうか。もっとも、それがルーファウスの狙いではあろうが。

 ヴィンセントを挟んでとなりに座っている、パイロットのシドという男は、これまたずいぶんと酒に強い男だ。すすめられるがままに、浴びるように飲み、すでにボトル一本近くひとりで空けている。

 

 

「……と、いうわけで、こちらにも相応の事情があったのだ……どうか理解してもらえないだろうか、元パイロット・シド」

「ケッ……よく言うぜ。プレジデントのクソジジイが、おっ死んで、おめーがロケット村にきたときには、ずいぶんと期待したもんだがよ。ずいぶんとひどく裏切られたもんだぜ」

 ケッと悪態をついて、タバコ男が言った。

「そういうな、元パイロット・シド。魔晄エネルギーを利用できなくなった今、この世界を守るためには、優秀な人材が必要なのだ」

「フン、よくいいやがる」

「本当のことだ、シド。君がリーブ局長の世界再生機構に加担していることは知っている。彼共々、神羅の技術開発に協力してくれれば、WROに最新の軍事機器……もちろん飛行艇も含めて、それらを提供することができると思うのだが」

 どこか冷めた男だが、めずらしくも熱心な口調のルーファウス。

「…………」

「なぁ、君もそうは思わないか、美しい人」

 おもむろにヴィンセントにルーファウスが同意を求めた。

 

 『美しい人』とはなんだ?

 相変わらず気色の悪い物言いだ。

「え……あ、は、はい」

 慌てたように頷くヴィンセント。

「まぁ、今日は第一回目の話し合いだ。ゆっくりと考えて結論を出してくれればいい。さぁ、飲んでくれ」

「チッ……そんな言葉にだまされねーぞ」

 ヤツはまた、新しいタバコをくわえた。ヴィンセントがすぐにライターの火を差し出す。

 

「だますだなんて、人聞きが悪い ああ、そうだ……リーブ君」

 ルーファウスは、次に元部下であったはずの男に声をかけた。

「…………」

「君のような優秀な社員が流出してしまったのは、本当に残念に思っている。もっともそのおかげでWROという、救世機関が生まれたわけであろうが」

「……私の力ではありませんよ、社長。この星を思う人たちがそれだけ多く居た……というただそれだけのことです」

 ヴィンセントが小さく頷いている。

「ならば、我々にもそれに協力……」

「社長、あなたはあくまでも神羅の社長として発言されている。我々はこの星に生きる人々を……貧富の隔て老若男女関係なく、救うことができればと考えております。究極の目的が営利追求の神羅とは理念が異なるのです」

 ふむ。どうやら、受け答えの様子を鑑みるに、一応、正気を保っているようだ。

 

 赤毛ヤロウが、ルーファウスの目配せで、リーブのグラスに新しい酒をつぎ足した。

「リーブくん。WROだとて巨大組織だ。組織を運営していくためには、なんらかの形で営利を追求していかなければならない」

「…………」

「もちろん、我が神羅のやってきたことが正当だと主張するつもりは毛頭ない。だが、WROが一切の益を排除するというのは物理的に不可能だ。所属隊員らの生活は?もちろん彼らの家族も含めて。……安全の保障は?健康管理は?兵器の開発調達は?」

「…………」

「手持ち弁当でやれるほど、簡単な組織ではないと思われるが」

「……少し、時間をください。ルーファウス社長」

 やや苦々しくそうつぶやくと、リーブは、ぐっとグラスを空けた。

 気を落ち着けるように、ふぅと大きなため息をついた。その頬に若干赤みがさしている。

 

 ヤツの心情を慮っているのだろう、つらそうな瞳で見つめるヴィンセント。それにリーブが気付いたらしい。

 わざとらしくも、

「どうしたのかね、黒髪の美人くん」

 などと気障ったらしい言葉をかけている。仲間に対するヤツなりの気遣いなのかもしれないが。

 ヴィンセントが、今までとは異なる眼差しで、仲間の顔を見た。

 

「あの……これまで……大変なご苦労があったかと推察いたします。局長がよくよくお考えになられて出した答えならば、隊員の方々は、皆、理解して下さるのではないでしょうか?」

 あくまでも控えめに、だがやわらかな中にも強い励ましの気持ちを織り込んで、ヴィンセントがささやいた。わずかながらも微笑を浮かべると、薄化粧に縁取られた小さな顔が蠱惑的に映った。

  

 

「……なに、あの顔」

 ぼそりとクラウドがつぶやいた。

 覗き窓なので、ヤツととなり合わせで、顔つき合わせているのだ。

「なんだ、クラウド」

「ヴィンセントだよ。リーブのこと、あんな目で見つめちゃって……」

「アホか、おまえは。アレはどう見ても、心配して眺めてんだろ」

「なぁにが『黒髪の美人くん』だ。ヴィンセントだってわかってるくせに! やらしーんだよ!」

「そうだな、おまえのエロエロさといい勝負だな」

「セフィはさっきからうるさいなぁ!……リーブはヴィンセントのコト好きなんだよ。いっつも電話してくるもん」

「……おまえなぁ」

 さすがに呆れてオレは溜め息をついた。子どもだ子どもだとは思っていたが、ここまでガキだったとは……

 

 

「最近、来たばっかのセフィにはわかんないよ。WROが立ち上がってから、どれだけ、ヴィンセントに協力要請してきたか……もちろん、ヴィンセントは元タークスに居たくらいの人材だから、相談しやすいっていうのはあるだろうけど……」

 頬を膨らませたまま、ガキが言い募る。

「おまえは、リーブのオヤジにまで嫉妬するのか。ったくなんて手の掛かるガキなんだ」

「オヤジって……そんなに年、行ってないだろ。おまけに、俺、年下だもん。……ヴィンセント、もしかして年上のほうがよかったのかな……包容力があるとか……」

「おまえに比べりゃ、どこのどいつだって包容力まみれだ」

「なんだよ、セフィのバカ!」

「クソガキ!」

 オレがクラウドの頬をつねり上げると、ヤツが牙を剥いて噛みつこうとする。

 さすがにヤズーが、不快そうな面もちで止めに入ってきた。片足が不自由なので動くのが煩わしいのだろう。

「もう、ヴィンセントが大変な状況だっていうのに、何ケンカしてんの、ふたりとも!」

 覗き窓から、テーブルを確認し、その様を見守りながら叱りつけてくる。

 

「だって……セフィが!」

「このクソガキが悪い」

 

「もういいかげんに……ああッ!」

 まるでオレたちの言い争いを遮るように、ヤズーが声をあげた。ヤツにしてはめずらしい驚きの声であった。

「なに、ど、どうしたの、ヤズー!」

「おい、どけ、ガキ!」

 オレたちは押し合うようにして、覗き窓に顔を寄せた。

 

「いやァ……君はいい人だ。私を気遣ってくださるんですね。初めて見たときから、君のやさしい心根には気付いていました。……あなたのような方に巡り会えて私は幸せです」

 ほとんどプロポーズとしか聞こえないようなセリフをまくしたて、ヤツはヴィンセントの手を握りしめた。

 あろうことか、そのまま肩を抱きしめ、背を撫でる。

 ……完全に、酔いどれセクハラ親父と化しているリーブの姿がそこにあった……

 

 ……やはり、あやつの絡みグセ・泣き上戸は治っていなかったようだ……

 

「あ、あ、あ、あんのセクハラオヤジ〜……ッッ! もうガマンできないッ!」

 バッといきおいに任せて立ち上がるクラウド。

 不自由な足で飛びつくように止めに入るヤズー。

「ちょっ……落ち着いてよ、兄さん! 何、する気ッ?」

「決まってんだろっ! ヴィンセント、助けに行くんだよ! あのクソオヤジ、ぶん殴ってやる!」

「バカ言わないでよ! 特別席の賓客に暴力なんか振るったら、このお店、ツブされちゃうよ!」

 そりゃそうだろう。

 なんせ、同席しているのが、あのルーファウス神羅だ。それくらいのこと、片手間にやってくれるだろう。

 テーブルのヴィンセントはナスがママ、キュウリはパパだ。

 

 このまま行き着くところまで見届けたい気もしなくはなかったが、クラウドのリミットゲージは、ブレイク寸前であった……