Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント……!」

 顔面蒼白で戻ってきたヤツに、クラウドが飛びつくように駆け寄る。

 

「はぁッ……はぁッ……ク、クラウド……」

「だ、大丈夫か?」

 到底、大丈夫そうには見えないが、ヴィンセントは何度も頷いた。

「し、神羅の者たちは気付いていない……シドとリーブは……気づいていると思う。どういう流れで彼らが同席しているのかは、まだわからないが……」

「シ、シドたち……なんて?」

「たぶん……私に事情があると踏んでくれているのだろう……直接正体を訊ねてくるようなことはしないが……」

「そ、そうか……」                                             

 思案顔のクラウド。

 だが、そんなガキに向かって、コイツは健気にも宣うのだ。 

 

「だ、大丈夫だ、クラウド。おそらくリーブたちは、普通の従業員として私に接してくれると思う。このまま、きちんとホストとして努めれば……問題にはならないはずだ」

「でも……」

「事情なら、後で説明すればわかってもらえる。……シドなどは何か言いたげではあるが……」

「そ、そうか。わ、わかった」

 とりあえず、席に出られない以上、ヴィンセントを信じて待つしかないということだろう。不本意ながらも頷くクラウド。

「ヴィンセント、なんとなく事情はわかったけど……頑張って。状況ヤバくなったら、適当に席を外して、相談しにおいで」

 ヤズーも口添えする。

「わ、わかった。……彼らは友人だ。私の困るようなことはしないと思う」

 お人好し丸出しのセリフを吐くと、ヴィンセントは用意された酒をトレイに乗せて、客席に戻っていった。

 クラウドもすぐさま隠し窓に張り付く。

 

「おい、ガキ。おまえがカリカリしたって仕方ないだろ」

 となりに並んで声を掛ける。

「わかってるよ、でも……」

 ヴィンセントは、教えられたとおり、きちんとホストをこなしている。着席をすすめられ、リーブとタバコ親父の間に腰を下ろした。

 

 耳を澄ますと、会話が聞き取れる。クラウドがさっきから黙りこくっているのは、奴らの話の流れを掴むためだろう。

 ヴィンセントの他にも、ひとり大人しそうな娘が侍っていたが、こちらは完全に酒の世話係といった風情だ。会話に加わるような様子はない。

 

 おしげもなく値のはる酒を用意させるあたり、見栄っ張りは親父ゆずりなのだろう。

 ルーファウスがホストやホステスにも気前よく酒を振る舞う。この辺は遊び方を知っているヤツの手順だ。

 大人しく見目のよい、ヴィンセントのことを気に入ったのだろう、わざわざルーファウス手ずからグラスを作ってやっていた。

 

「まずい……まずいよ〜、あれ、お酒だよね……」

「アホか。クラブで酒以外の何が出るというんだ。……そうだな、ブランデー……コニャックか?」

「ヴィンセント……お酒、飲めないのに……」

 クラウドが苦しげにつぶやく。

 そうだった。最も重要な懸案事項を失念していた。あいつは下戸だったのだ。

 以前、オレがこいつらの家に来たとき、相伴させてひっくり返ったことがある。もちろん、オレとふたりきりで、ひどく緊張していた様子ではあったが、緊張するということならば、今だって十分そんな雰囲気だろう。

 

 

「あッ……あああッ! ちょっ……!」

「なんだ、どうした?」

「の……飲んじゃった……全部……」

 呆然としてクラウドがつぶやいた。

「そりゃ飲むだろ。ウチの宴会とはわけが違う。客が作った酒をことわるホストがいるか」

「一気飲みだよ……」

「……バカなヤツだ」

 オレは呆れて頭を振った。

 

「そんなこと言ったって……飲み方知らないんだよ、ヴィンセント……」

「兄さん、彼の許容量、どれくらいなの? そういえば、家で飲んでるところ、見たこと無いよね」

「……俺もない」

「…………」

「…………」

「まずいんじゃない?」

 ぽつりとヤズーがつぶやいた。

 

 居ても立ってもいられないといった風情のクラウドと、こちらもいささか平静ならぬヤズーを置き去りに、オレはじっとテーブルの様子を見守っていた。

 会話の流れを聞くと、どうやらルーファウスは、あのふたりを勧誘しているらしい。

 リーブと、タバコ男だ。

 

 シドとかいう男の、「技師兼パイロットの腕が欲しい」ときたものだ。

 一方的にロケット開発事業をうち切り、研究者およびパイロットを解雇したにもかかわらず、今度は味方に引き入れようというのか。

 確かに、魔晄エネルギーに頼っていられた頃は、それだけで軍政にせよ、経済・産業にせよ、十二分に切り盛りできていたのであろうが、それらを利用できない現在、従来の技術力を用いて、軍備を整えねばならない。

 そのためにも、第一線のロケット研究者であり、パイロットの腕が欲しいといったところなのだろう。

 

 それにしても、まったく図々しい男だ、ルーファウス・神羅。

 いや、それくらいでなくては、巨大組織の総帥は務められないのかも知れない。

 

 リーブのほうには、WROへの企業協力を申し出ている。

 驚いたことに、幹部連中の中で、もっとも人のよいあの男が、局長などという立場になっているらしい。

 WRO……世界再生機構というのは、オレも耳にしているし、そうでなくとも、連日新聞にその活躍が取り沙汰されている。

 今や、傾斜した神羅などよりも、遙かに組織として充実しているのだろう。

 

 タークスのハゲと赤毛は適当にルーファウスに話を合わせつつも、さすがに強引な勧誘はしづらいといった雰囲気だ。

 さもあろう。

 実行部隊である奴らは、何度もクラウドたちと対峙しているであろうし、今さらどのツラ下げて、協力を要請しようというのか。

 特にハゲのほうは、石像のように黙り込んだまま、存在を忘れられているかのようだ。

 お調子者の赤毛はこの時とばかりに、高い酒をかっ喰らい、ホステスにくっついて鬱陶しがられているのであった。