Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

『「今日はホンモノにできなかったからな……代わりだ」』 

「きゃッ★」

『「おまえに逢いにまた来よう」』

「ちゅっ!」

 

「……ヤラしいなぁ」

「や〜らし〜」

「うるさいぞ、ガキども!バカになりそうな漫才はヤメロ!」

 

「なんだよ、セフィ、お金持ってるじゃないか! 代金以外にもあんなに渡しちゃって……」

「そーだそーだ!」

「……ただのチップだろ」

 

「俺の一ヶ月分の小遣いよりずっと多かった!」

「そーだそーだッ!」

「フン、ガキは相手にしてられん」

 

 翌日早々、そんなコントを繰り広げるお子様ふたり……クラウドとカダージュだ。

 クラウドが、いかにもらしくセフィロスの声音を真似、カダージュがそれに合わせて、一応支配人のふりをしているのだろう。

 きゃっきゃっと騒ぎながら、抱きついたりキスする真似をしてみせたり、昨夜の出来事は彼らにとってかなり刺激の強いイベントだったらしい。

 私は遅い朝食……いや、もう12時を回っているので、昼食になるのだろうか。それの準備をしていた。ヤズーとロッズは買い物に出ているので食事は出先で済ませるだろう。

 

「セフィ、やらしい。本ッ当にアンタって、無神経で節操がないな」

「あの人びっくりしてたよ。かわいそうだよ」

「フン」

 クラウドたちの言葉を無視して、新聞に目を戻すセフィロス。相変わらずソファを占領してごろ寝しているのだ。

 

「三人とも……食事にしよう」

 私が声をかけると、タカタカと集まってくる。セフィロスも寝椅子から起きあがり、きちんと席についてくれる。

 カダージュのムニエルの骨を取ってやっていると、彼が私に顔を寄せてきた。

「ありがと、ヴィンセント」

「え……? あ、いや、こんなことは別に……」

「お魚もそうだけど、昨日のこと」

 カダージュが小さく笑った。そういえば、昨夜はヤズーのことでずいぶんと意気消沈していたのだ。この子が元気になったのならば、あそこへ行ったのは正解だったのかもしれない。

「なぁなぁ、ヴィンセント!」

 カダージュとの会話が終わらないうちに、クラウドが話しかけてくる。

「ん……」

「あのさ、俺にダンス教えて。あの何か難しそうなヤツ。ソシアルダンスっていうの?」

「……? フォックストロットのことか?」

「フォックス……? いや、よくわかんないけど、ペアで踊るヤツ。ワルツとか?」

 クラウドが言う。目が真剣だ。

 彼がダンスに興味があるとは知らなかった。

 

「そうだな、ワルツのひとつやふたつ踊れないガキなんざ、みっともなくて外に出せん」

「うっさいな! ちょっとくらい踊れるからってイバるな!」

「ワルツもタンゴもフォックストロットも、大抵のものならば踊れるぞ」

 フフンとせせら笑うセフィロス。

「い、いや……私などより……セフィロスに教わった方が……」

「ヤダよ!だって……セフィ、バカにするもん」

「おまえはもとからバカなんだから仕方ないだろ」

「セフィロス……クラウド……」

 私が困惑した表情をすると、セフィロスはいかにも楽しそうに笑い、クラウドは慌てて言い訳する。

「ご、ごめん、ヴィンセント、そんな顔しないでよ」

「まぁ、覚えの悪いクソガキに調教してやってもかまわんが……」

「そんな言い方すんな! アンタがいうとシャレにならないんだよッ!」

「で、では、セフィロスが教えるのを、私が手伝うから……それでどうだろうか?」

 私の提案に、なんとか妥協してもらった。

 

 

 元の家より大きなコンドミニアムは、広間など本当にダンスホールのように広い。もっけの幸いと椅子を退かし、簡易練習場を作ってしまうクラウド。

 しかし、予想通りというかなんというか、セフィロスはスパルタコーチだったのだ。

 

「バカタレッ! 足もとばかり見るな、胸を張れッ!胸をッ!」

 もしかしたら彼は教師体質なのかも知れない……いや、やはり自身がいうように調教師タイプなのだろうか。

「ホールドに気を取られるな、ボケナスがッ!」

 ビシッと足蹴りが入る。

 クラウドは運動神経がよいので、ステップなどの覚えは早いのだが、なんというか動きがぎこちない。ステップは踏めるがダンスの動きではないのだ。

「ほら、リヴァース・ターン、シャッセ! 遅いッ! 顔上げろ!」

「キツ……こんな疲れるの……?」

「あ、ああ、クラウドはまだ慣れていないから……覚えてしまえば、足の方が勝手に動いて……」

「甘やかすな、ヴィンセント! ほら、もう一度、最初から行くぞ、ホールド」

 セフィロスがクラウドの隣に立って、一緒に動く。

 メロディーは「愛の歓び」……代表的なワルツだ。

 ……美しい弦が上品に響く。

 

 ため息を吐いて途中で曲を止めると、セフィロスが口を開いた。

「いいか、社交ダンスというのはもともと宮廷ダンスなんだ。ぶっちゃけ男と女のボディコミュニケーション手段だと思っておけ。おまえのようにがちがちに緊張していたら、通うモンも通わないだろーが。おい、ヴィンセント」

「え、あ……な、なんだろうか」

「来い」

「あ、ああ」

 言われるがままに、側に近寄った私の手を、彼が取った。

 

 『愛の歓び』が流れ出す。

 男性パートは覚えているが、女性パートには自信がない。他人が踊っているのを見知っている程度だ。

 だが……不思議なことに、セフィロスのリードだと、踊ることができる。

 男性は女性に、手や体のリードで次のステップを伝え、女性はそれを感じて踊るのがダンスの基本であるが、それを思い知らされるようなリードであった。

 

「どうだ、わかるか、クソガキ」

「……なんとなく」

 めずらしくも神妙に答えるクラウド。素人から見ても、彼の巧さがわかるのだろう。

「本気で覚えたいなら、時間のあるときにさらっておけ」

「うん、ありがと」

 

 ルルルルルル……ルルルルル……

 

「アレ? 電話? 今日、休みなのに」

 今日はクラウドの仕事は休みの日だ。

 そんなときに電話が鳴るのはめずらしい。
 
 なんとなく胸騒ぎがして、私は足早に居間へ電話を受けに戻った。