Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「あなたたち……まったく何考えてるのかなぁ?」
 
 

 辟易とした物言いで、溜め息混じりに歩いてきたのはヤズーだった。

「わぁ……ヤズー、すごい綺麗……王子様みたい……」

  カダージュがつぶやく。

 彼はオフホワイトのスーツに純白のブラウスを着ていた。おそらく店側の趣向なのだろう。袖口から長めのレースが覗き、タイにもふんだんに薔薇モチーフのレースが施してある。箔の縫い取りもきらびやかで……

 そのあまりにも美麗な服装は、普通の男性ならば失笑を買ってしまうところだろう。だが、ヤズーが身につけると、十分に上品で、常人離れして整った容姿によく似合っていた。その点で、カダージュの「王子様」という形容は、的確に雰囲気を表していると思う。

 

「あ、あの……すまない、ヤズー……その……私は……」

「ああ、ヴィンセントは無理やり連れてこられただけでしょ。……首謀者はセフィロス?」

 さすがと言おうかなんと言おうか、この状況を正確に言い当てるヤズーであった。

「まったく……この子まで連れて来ちゃって……」

「知るか。そのガキが貴様に会いに行くとうるさかったんだ。勝手にくっついてきただけだろ」

 口の悪いセフィロスが言う。

「やれやれ、カダはもうおねむの時間だろう?」

「……だって……」

「ま、いいじゃん。社会見学みたいなカンジでさ。それより、ヤズー、すごい売れっ子だなぁ。さっき、店長っぽい人が、『指名がいくつか入っておりますので』って言ってたよ」

 ひそひそと声を潜めてクラウドが言う。やはり年若い彼にとっては興味の尽きない場所なのだろう。

「うーん、フフフ、そうだねぇ、人気取るのも仕事のうちだし、お客さんが増えれば店も助かるだろうしね。じゃ、俺、もう行かなきゃならないけど、カダにお酒飲ませないでよね。ま、ヴィンセントがいるから大丈夫だとは思うけど」

「まったく口うるさい男だな、小姑か、貴様は」

「あなたと兄さんは何しでかすかわからないからね。ああ、それと、ヴィンセント」

「……え?」

「その服、とてもよく似合ってる。綺麗だよ、本当にね。後で俺もあなたと踊りたいなぁ、うふふふ」

 ヤズーに見られていたかと思うと頬が熱くなる。

 いつものように含み笑いすると、彼は物腰もあざやかに立ち上がった。

 

 ついつい、華やかなヤズーの姿を目で追ってしまう。

 次は、女性のみのグループに呼ばれているようだ。

 

 ヤズーが彼女たちの前で、すっと片膝をつき、お辞儀をした。おそらく賓客に挨拶をしているのだろう。

 豪奢なドレスと宝石で着飾った女性たちは、まるで夢見るように頬を染め、口々に彼に語りかけるのであった。

 

「……すごいな……」

 思ったことが、つい口からこぼれ落ちてしまったらしい。

「もうッ、なにあれっ!」

 憤慨するクラウド。聞き返してみると、今さっきのヤズーの物言いが気に入らなかったらしい。

「ヴィンセントのこと誉められるのは俺も鼻が高いんだけどさー。なんつーか、こうヤラシイんだよな、アイツの言い方はよ」

「ク、クラウド……」

「ヤズーはヴィンセントのこと気に入ってるもん。いつだって誉めてるし。僕にもそう言ってるよ」

「おまえ、ムカつかないのかよ」

 少年のような物言いをするクラウド。基本的に彼は直情的な人間だ。

「だって、本当のことじゃない」

「そりゃそーだけどさ……」

 ブツブツ口の中で文句を言うクラウド。案の定、セフィロスに鼻で笑われてしまう。

「フン、こっちのチビガキのほうが、物わかりがいいようだな、クラウド。まったくおまえは子どもの頃から成長しておらんな」

「チビガキって言うなー!」

 とカダージュ。

「成長してるもん! セフィに、俺の気持ちなんてわかるもんか!」

 と、クラウド。困ったものだ。

 場所が変わろうとも、この三人の在りようは変わらないらしい。

 

 それからしばらくの間、私たちは楽しい時間を過ごした。

 場違いかとも思っていたのだが、心地よい音楽、女性たちの決してけたたましくはない気の利いた会話。もっぱら聞き手に回っていた私だったが、思いのほか、気持ちの良い時間だった。

 それに、クラウドが女性と会話している姿は、見ていて微笑ましい。私と居るときよりも、ずっと大人びて見える。

 もともと彼は見目のよい青年なので、美しい女性が傍らにいる姿は、とても見映えがするのだ。
 
 

 セフィロスはこういった場所に慣れているのだろう。楽しみ方を知っているというか……なんと言えばいいのだろう。

 彼女たちに乞われれば、ダンスの相手もするし、会話も上手い。
 
 それほどしゃべるわけでもないのに、聞いていて退屈しないのだ。

 また、しぐさの一つ一つが、なめらかで手慣れていて、私など、何度もドキリとする場面を見てしまった。

 チークダンスのとき、ごく自然に相手の女性の髪を撫でたり、周囲にわからぬように口づけてみせたり……
 
 
 腰をかがめ、低い声で何か耳打ちすると、相手の女性は耳まで真っ赤になってしまうのだった。